謎の実力者感
「たった一回まぐれで勝ったくらいで図に乗るな!」
「ぐふっ!」
「ふんっ。口ほどにもない」
既に息絶えている人間の兵士の冷えきった骸を何度も突き刺し、溜まりに溜まった鬱憤を晴らす魔兵A。
「おいおい、その辺にしとけよ。ここを制圧したら次はパラディン軍の後方部隊を叩くらしいからな」
そんな彼に魔兵Bが次の作戦を伝えにやってきた。
「わーってるよ。俺はもう少し楽しむからお前は先に行っとけ」
「ほどほどにな」
軽く忠告だけを残して作戦を伝え終えた魔兵Bは先へと進む。
「くっくっく、一人残らず皆殺しにしてやるからな。待ってろよ」
魔兵Bが去ってから数分後。満足するまで楽しみ、最後に一突きすると魔兵Aは次の戦場へと走り出す。
だが、数歩進んだところで立ち止まった。
自分の行く先に一人の青年が立ち塞がっていたのだ。
鎧は着ておらず、白いローブを羽織っているだけ。
一瞬だけ戦場と知らずに紛れ込んだ一般の平民かと思ったがその考えはすぐに消し飛ぶ。
なぜなら彼は剣を握っていたから。
深く被られたフードによって青年の顔は窺えないが、己の本能が目の前の青年を避けている。
「何者だ。パラディン軍の手の者か?」
「・・・」
「答えろ!」
無反応な青年に内心苛立ちが募る。
「ちっ!答えないのなら殺すまで!そして答えたとしても殺すまでだぁ!」
吐き捨てると同時に魔兵Aは踏み込み青年との間合いを詰める。
勢いのままに、ドロリと先程の兵士の血が滴るその刃が青年を襲った。
手には青年の首を切った感触が伝わる。
勝負は決する。
どうやら感じた嫌悪感はただの気のせいだったようだ。
「さっ、邪魔者は殺したことだし俺も急がないとな」
一仕事終えたように息を吐いて脱力する。魔兵Aは敵の死を確認せずに持ち場へ向かうべく顔を上げた。
すると次の瞬間、魔兵Aに衝撃が走った。
「なっ・・・!?」
今しがた自らの手でその首を落としたはずの青年が無傷で立っており自分を見下ろしていたのだ。下から覗き込むような体勢であったためにフードから覗く青年と目が合う。
感情の読み取れない冷たい瞳。しかし、真っ直ぐに自分を見据えるその瞳はまるで狩人のようで見ているだけで己の命が刈り取られる気がして背筋が凍った。
慌てて魔兵Aは今度は反対に青年と可能な限りの距離をとる。
一ミリでも遠くに。
「敵襲━━━━!!!俺一人では分が悪い。誰か手を貸してくれぇ!!」
仲間の助けを求め叫ぶ魔兵A。
基本タイマンで敵を葬る戦闘スタイルを好む魔族。
だが、魔兵Aはなりふり構わず仲間に助けを乞う。
たった一度の視線の交差で死への恐怖がプライドを上回ったのであった。
「誰か応答しろ!」
再度の救援要請。
喉が潰れるほどに叫ぶが望む返答は返ってこない。辺りには自身の声が響くだけでフードの青年も言葉を発さないために静まり返る。
「なんでだよ、なんで誰もいないんだ・・・・・・ん?」
焦りが滲む声で不満を、いや不安を口にする魔兵A
。そんな彼がふと視線を落とした時、視線の先にある青年の足元で目がとまった。
彼の目に映ったのはぐちゃぐちゃになり原型を保っていない赤黒く染まった謎の肉塊。
しかし、その肉塊の正体がいったいなんなのか魔兵Aには皆目見当もつかない。
だから魔兵Aはよく目を凝らして肉塊を探った。
肉塊の中心部から漂う微量の魔力。
そしてその魔力はどこか覚えのある魔力であった。
「まさか・・・・・・魔兵B・・・なのか・・・?」
それは少し前に自分に作戦を伝えに来た魔兵Bのものであったのだ。
赤黒いのは魔族特有の血。
ところどころに尖って見える鋭利な突起物はたぶん角。
理解すると身体中の毛穴が開き至る所から噴き出す気持ちの悪い汗を感じながらゴクリと唾を飲み込む。
それから恐る恐る辺りを見渡す。
「なっ・・・!?」
魔兵Aは言葉を失った。
なぜなら青年の足元にある物と同様の肉塊が無数に散らばっていたからであった。
しかも、数えてみれば自分が所属する部隊の人数と同等の数。
なぜ気付かなった?わかならない。これだけの死体、もとい肉塊にするまでには相当な時間がかかるはず。とても人間に出来るとは思えない離れ業。
もしかするとかつての己の上司であった、デュランでさえも不可能かもしれない。
「貴様っ!魔族に対してこのような仕打ち、許されると思うな!」
窮地に立たされた魔兵Aは虚勢を張り、青年を威嚇する。
無駄だとは本能で理解しているが、こうでもしないと正気を保てないのだ。
「俺が断罪してやる!同胞の仇を・・・うわっ!」
どうにでもなれ精神で一歩踏み出す魔兵Aに異変が起こる。
視界がぐらつき世界が逆さまになって地へと落ちたかと思えば頭に衝撃を受け、じんわりと鈍い痛みが生じた。
動揺する魔兵Aは剣を振り回そうと腕に力を込める。
が、しかし。
どういうわけか、身体に力が一切入らない。
動かせるのは目だけで、目からの状況判断をする、。
すると唯一動く視界で捉えたのは頭部を失った自分の体がピクピクと痙攣し蠢いている醜い姿だった。
犯人は探さなくてもすぐにわかった。
いつの間にか自分の正面に立つ謎の青年。
痛覚よりも速く頭部を斬り落とすその剣術に敵ということ、もうじき自分が死ぬことを忘れて素直に凄いと思ってしまった。
「貴様は、誰だ・・・」
空気を含み掠れた声で声で魔兵Aは問いただす。
「超越者・ウラノス」
青年は短く答える。
青年の名を最後まで聞けたのかは不明だが、地獄へと旅立った魔兵Aの表情はどこか満たされたようなものであった。
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初めての戦争に僕はテンション爆上げで意気揚々と戦場経乱入し、子供のみたいに無邪気に駆け回った。
そこまでは良かったんだけど、戦場を移動して魔族を殺して回っているうちにまたしても道に迷ってしまう。
仕方ないから適当に超越者っぽいムーブを楽しんでいると気付けば魔族がどこにもいないパラディン軍の後方へと辿り着いた。
魔族がいないんじゃ超越者活動にならないし今、パラディン軍に見つかるのはいろいろと面倒そうだと僕の本能が告げていたから踵を返し来た道を戻ろうと試みた。
すると僕の視界の隅に戦場では珍しい女の子の背後から一体の魔族が近づいている光景が映り込む。
別に助ける意味は無いんだけど、目の前で殺されるのはどうも寝覚めが悪くなりそう。
だから僕はフードを更に深く被りこんで女の子へと忍び寄る魔族の首を一太刀で斬り落とした。
背後から助けた女の子が僕の名を尋ねる。
「我は超越者・ウラノス」
僕は得意の超越者用の声で名乗った。
「全てを超越し、この世界を」
「おいお前!」
完璧な流れで自己紹介をする僕の声を聞き覚えのある誰かさんの声が遮る。
気分を害された僕は少しだけイラつきながら振り返った。
「純一じゃねえか!」
「え?」
聞き覚えのあるどころでは済まない。僕と仲良くしてくれたいた鬼塚瑛太の声で、超越者気分に浸っていた僕は一気に現実に引き戻された。




