勇者専用伝説の剣
僕の宣言に麒麟くんは目を見開き驚いた様子を見せると、信じられないのか僕に聞き返した。
「い、今なんと・・・」
「だから僕が君を助けてあげるよ」
「ほ、ほんとですか!?」
「うん、僕は嘘はつかない」
「お気持ちは嬉しいのですが・・・私には使命が・・・」
「そんなもの君には関係ないでしょ?生まれる前に勝手に人間から負わされた枷にすぎない」
麒麟くんは黙って僕の話を聞き入る。
「馬鹿らしくなってこない?ずっと待ってたって君には勇者とやらに殺される未来しかやって来ないんだよ?」
「それはもちろん承知しております・・・ですがやっぱり・・・」
渋る麒麟くん。
僕はある提案をした。
「じゃあさ、その代わりと言ったらなんだけども、君は僕の従者になってくれないか?」
「あなたの従者?私が?」
「うん。僕には夢があるんだけど、その手助けをしてくれるパートナーを探しててね。この洞窟に入ったのも君の魔力に惹かれてなんだよ」
嘘は言っていないはず。
「その夢とは?」
「ごめんね、それはまだ言えないんだ・・・」
僕は麒麟くんの問い掛けを濁す。
だってこんなシリアスな空気の中でいきなり超越者とか言っちゃったら確実に引かれるよね。さすがの僕も学習する。
「言わなくても私にはわかります。あなたから常に漏れ出る膨大な魔力から伝わってくるんですよ。あなたが胸の内に抱く、私なんかでは思いつかないような大志を・・・」
「ん、そうかな?」
まあ確かに超越者になりたいなんて言う奴僕以外には居ないだろう。
いい具合にスカウト出来そうな雰囲気を作り上げることに成功した僕は勝負を決めるためのラストスパートをかける。
「君の想い全部僕にぶつけてくれ。しっかり僕が受け止めてあげるから。ね?」
僕の言葉に麒麟くんは涙を流しながらポツリポツリと語り始めた。
「・・・うぐっ・・・苦じがった・・・生まれた時から狭く、暗い、陽の届かない場所に閉じ込められ鎖で自由を奪われ・・・何の為に生まれてきたのか意味を見い出せず、ただ、時が過ぎるのを・・・」
麒麟くん言葉で僕は考えさせられた。
ゲームなどでは都合の良い設定で守り神だとか勇者の試練でその空間にずっと居なければならない。軟禁状態と言っても過言でないのだ。人間のエゴで振り回される魔物を僕は不憫に思った。
生まれた時から孤独で誰にも頼れずにひたすら勇者に殺されるのを待つだけ。あまりに可哀想じゃないか。
「これから君は僕のモノだ。僕に尽くし僕の為に行動しろ。そうすれば全てが上手くいく」
「望みを言え。僕が叶える」
「自由が欲しい・・・。誰にも邪魔されずに外の世界を走り回りたい!色んな景色をこの目で見たい。海、砂漠、森、そして色んな国を巡って遊びたい!」
涙ながらに麒麟くんは叫ぶ。
「わかった。君の願いしっかり届いたよ」
僕は目の前で神々しい光を放つ勇者の剣と向き合った。
「この剣を抜かない限り私の鎖は外されず封印は解かれません」
僕は剣の前に立ちしばらく眺める。
「これってさぁ、どんな手を使ってでも剣を”抜けば”いいんだよね?」
僕は麒麟くんに確認をとった。
「えぇ、そうですけど?」
僕の問いに麒麟くんは不思議そうにしながらも答える。
「了解。それじゃ、ちょっと待っててね」
そう言って僕は剣をスコップ代わりに使って勇者の剣の周りの台をザクザクと剣を突き立てながら壊し始める。
「ええ!な、何してるんですか!?」
「何って、見ての通り壊してるんだよ」
「いや駄目ですって!ああ・・・台座が壊れちゃった・・・」
案外脆かった台を取り壊し終えた僕はいよいよ本番と言わんばかりに剣の周りを掘り始めた。
「って、今度は一体何を!?」
麒麟くんが面白い反応をするが僕は構わず掘り進める。
一心不乱に僕は掘り進めた。
三日三晩ひたすら休まずに。
せっかく新調した服は既に泥まみれでボロボロになっている。
しかし服なんていつでも買える、なんならパンツ以外は無し、上半身裸でもいいかもしれない。
だって世界の有名絵画にはよく全裸の天使が描かれているからね。どっちかと言うと人間よりも天使に近しい存在の超越者は天使の真似をしてもありだ。
うん、一考の余地あり。
そして遂に──────。
「抜けたぁー!」
謎の魔力で地中深くまで伸びていた剣。
僕は剣を真横に薙ぎ払って砂埃を振り落とした。
「こんな方法で勇者の剣を抜く人など初めてです!感服致しました!」
「でしょでしょ。普段からシミュレーションしてたからね。準備は万全さ」
「し、しかし!この剣は勇者のように魔力を流し込まないと反応しないのです」
「そうなの?うーん・・・要するにあれでしょ?」
「はい?」
「上書きすればいいんだよね?僕の魔力で」
そう言って僕は勇者の剣を両手で握る。
「はああああぁぁぁ!!!」
雄叫びを上げて己を奮い立たせる。
体内で高まる魔力を感じながら、膨れ上がった魔力を余すこと無く勇者の剣へと注ぎ込む。
するとどうだろう。
聖なる光を放っていた剣が僕が魔力を注いだ途端にみるみる形を変え、全く面影の無い禍々しいオーラを放つ大剣へと変形したのであった。
「あれ?なにこれ・・・まあいっか」
驚きで一瞬思考が停止したがすぐに切り替える僕。
「悠久の時を経て今宵。我、超越者・ウラノスの手によって古より縛られし自由を求める者の鎖を断ち切る!」
変形した勇者の剣で僕は麒麟くんを縛っていた鎖を切断した。
縛っていた鎖から放たれた瞬間、麒麟くんは倒れ込んだ。
「大丈夫?」
「はい、ご心配なさらず。少々バランスを崩してしまっただけですので」
麒麟くんはよろめきながらもなんとか立つと僕に頭を下げて言った。
「ウラノス様。封印を解き、助けてくださったあなたには感謝してもしきれません。先程の約束の通りこれより私はあなた様に仕えさせていただきたく存じ上げます」
「それでですね、ウラノス様。これから私はなんと名乗ればよいでしょうか?」
と麒麟くんは僕に聞いてきた。
どうしようかな。やっぱり名付けるなら神話とかに登場する生物の名前がいいな。
「よし、君はこれから麒麟と名乗ってくれ」
「き、麒麟ですか?その名前の由来は?」
由来か。見た目そのままなのと、ただかっこいいからってだけなんだけど。ここで下手なことを言ったら一気に信用を失いかねない。
「僕の生まれた国ではね、君に名付けた”麒麟”っていう動物を伝説上の生き物として崇められているんだよ。でね、その麒麟ってのは役人が良い政治を行った際に現れる、とされててとても縁起のいい動物なんだよ。それで、世界を正す僕の従者となる君にはピッタリの名前だと思って付けたんだ」
「なるほど・・・気に入りました!」
僕は中国人じゃないけど地球からの転移者だし、間違っていないかな。そして、それっぽいことを言ったら、気に入ってくれたのか麒麟くんは小さな声で自分の名前を呟いている。
「気になったんだけど君には性別ってあるの?」
「もちろんありますよ。私は女です」
ふーん、メスね。どうやら麒麟くんじゃなくて麒麟ちゃんだったみたい。
「あっ、そうだ。二人きりの時はいいけど。それ以外の時はウラノスってのは辞めて欲しいな」
「かしこまりました!ではご主人様、と呼ばせていただきます!」
「ご主人様・・・か」
うん、悪くない響きだ。
ご主人様と呼ばれた僕が満足気にしていると麒麟ちゃんが質問してくる。
「ウラノス様はこれからどこかに向かわれるのですか?」
僕はこれまでの経緯を麒麟に話した。
すると麒麟は笑って提案をしてくれる。
「では、僭越ながら私がウラノス様をパラディン王国へとお送りさせていただきたく存じます」
「えっ?まじで?」
「はい、お任せ下さい。この麒麟の名にかけてご主人様に快適な空の旅をご提供することを約束しましょう」
「ラッキー!じゃ、頼むよ」
「お任せを!」
思わぬ幸運に見舞われた僕は意気揚々と麒麟の背に跨った。
結構寄り道しちゃったけどようやくパラディン王国へと行くことが出来る。パラディン王国は人間族領内で一番栄える大国と聞くし絶対にたくさんの面白そうなイベントが待っているはずだ。
僕は心を踊られながら麒麟に合図を送る。
「待ってろよ、イベントボスにライバルキャラ・・・」
僕の超越者人生はまだ始まったばかりだ。




