超越者の従者
最近思うことがある。
それは超越者の従者について、だ。
確かに孤高の存在として君臨する超越者も捨て難い。しかし超越者に従う従順な下僕の一人や二人、もしくは一匹や二匹くらい居てもいいのでは?
僕は思い立ったら即行動に移すタイプの人間。ゼラルカちゃんに国を発つ際に貰った地図を眺めた。
手始めに探すのは簡単に使役できそうな魔物だ。
最初は弱っちい魔物でも我慢しよう。でもいずれは、超越者にふさわしい最強の魔物が欲しい。例えば冥府の神・ハーデスが支配する冥界の怪物として有名な地獄の番犬・ケルベロスとか。北欧神話に登場するファフニールとか。
ケルベロスは三つの頭を持ってるらしくて僕はそのビジュアルを凄く気に入っている。
ファフニールに関しては正直なところよく知らないんだ。文献によっては明記される内容が異なってて、ドラゴン!って書いてたり、ワームに変身するドワーフの事を指してたりする。でも、いいんだ。こいつはとにかく名前がかっこいいからね。
僕は念入りに地図を眺めた。
ここいらに良さげな魔物発生スポットとかないよなぁ・・・
なんて考えながら歩いていると。
「いでっ!」
地図に気を取られ前方確認を疎かにしていた僕は木にぶつかり頭を打った。
痛覚は鈍らせてはいるんだけど、普通の人間だった頃の癖というか名残りというか。ついついぶつけた箇所をさすってしまう。
そして僕は木の傍らに設置されている立札に目をやる。
何やらこの先二手に道が別れているみたいだ。
が、おかしい。
と言うのは地図に記されている矢印と目の前の立札に記されている矢印の方向が真逆を指しているのだ。
多分だけどゼラルカちゃんは昔の地図が何かを手違いで渡してしまったのだろう。でも大丈夫。僕は心が、器が広く大きい超越者になる男だ。僕に良くしてくれた少女の、ほんの些細なミスを咎めるような事は決してしない。
「ゼラルカちゃんもおっちょこちょいだなぁ」
と僕は呟き目の前の立札の指示に従い左に進んだのであった─────
純一が左に進んでからしばらく。純一と同じように二人の農夫が談笑しながら分かれ道へとやって来た。
「だっはっは、でなぁ・・・おっ?」
「どした?」
何やら異変に気付き、盛り上がる話を中断する農夫A。
「いやさ、この立札の矢印が逆になってんだべさ」
「むっ?どれどれ。おぉ、ほんとやのぉ。昨日の暴風雨で回転でもしたんやろのぉ」
「・・・左に行ったやつ、居ねえだろべなぁ。地図には記されてないだべが、あの先にある洞窟は一度入れば二度と出られない。勇者スキルを持つ者しか帰って来れない。伝説の剣、そしてアレが封印されてる”禁断の洞窟”だべがぁ・・・」
深刻な表情で通りすがりの農夫Aは言う。
「大丈夫やろぉ。地図に書いてないがこの先の洞窟の件は皆が知ってる周知の事実や。立札の通りに進む馬鹿なんて居るわけないやろぉ」
「まっ、それもそうだべな!だっはっはっは。そんでな、さっきの話の続きだべが・・・」
農夫たちは立札の向きを直すと再び談笑しながら右へと歩いていった。
・・・パラディン王国へと続く道を。
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目の前に立ち塞がる洞窟。いやおかしい。地図にはこんな洞窟なんて記されていない。大きな地震か、はたまた原因不明の超常現象によって地形が変わったのか?
様々な疑問が浮かぶが僕のお世辞にも優秀と言えない頭で考えたところで事態が好転する訳じゃない。
そうだよ。気になったんなら入っちゃおう。せっかく異世界に来たんだ。日本では満たされない欲望に忠実に生きる方が得だ。
それに結構雰囲気があって僕としては是非とも入ってみたくなる洞窟だからね。
「古より時を刻み世界の真相を知る未開の洞窟よ。お前は我に何を見せてくれる?」
ウラノス用の声色で呟く僕。今の発言に特に深い意味は無い。
立ち止まっていてもなんの進展もない事と、昂る好奇心、洞窟の奥から異様な魔力を放つ”何か”を感知する事を踏まえた上で僕は洞窟に潜ることにした。
そして道中、湧いてくる魔物を適当に駆除しつつ歩く、とにかく歩く。そして半日ほど歩いた僕が行き着いた先は・・・行き止まりであった。
辿り着いたのは少し開けた空間。僕の正面には、というか空間全体は壁のようになっている。その空間はまるで洞窟感はなく、RPGに登場する神殿みたいだ。
壁一面には僕の知識では解読不能の古代文字。そして所々消えかかっているが古の大戦らしき絵が描かれていた。
見たことない大きな狼やら巨人と思われる戦士たち、世界を飲み込む大蛇が描かれる。
僕がその中で一番興味深く見入ったのが彼らを率いるように先頭に立つ黒いローブに身を包んだ邪神の如く禍々しい雰囲気の男であった。
「うん、いいねこういうの。終盤になって僕の超越者物語に絡んできそうな伏線みたいで興奮する」
と僕は呟きながら改めて壁を見詰めた。
魔力はこの壁の向こう側から最も強く感じる。
が行き止まりである為、僕は悩んだ。
で、なんとなしに手掛かりはないかと周辺を探ってみる。
だいたいゲームなどでヒントは壁画に記されているのを知っている僕は壁画を重点的に調べた。
ほら、ビンゴ。
壁には小さな魔法陣が描かれており、そこに手をかざす男の姿も描かれている。
つまりはアレだ。勇者っぽく特別な力!とかで、開けゴマ!的なやつが出来るアレに違いない。
僕は試した。
が何の反応も起きない。
本当はやる前からこの結末の予想はついていた。だって僕のスキルは勇者とか聖騎士とかじゃない。SMだもん。
だから僕は最終手段を実行する。
「壊そう」
決して壁画の指示通りに行った結果失敗していじけたからとかでは無い。
僕は腰に携える一本の剣を抜く。先の戦いで必殺技を放った際に使用した剣は一回で即ダメになってしまったのだ。
今度どこかの大きな街の武器屋で探しとかないとな。
僕は魔力を練り上げると構えた剣に宿し、ひと振り。
《ソニック・ブレード》
エンド・オブ・ソードよりかは小規模。威力の面で劣りはするがその名の通り、その斬撃波が飛ぶ速度はまさしく音速。
放たれた音速の刃は空気を切り裂き壁に衝突すると凄まじい衝撃音が鳴り響く。壁の強度を僕の剣技が難無く上回り壁は崩れ去った。
この壁及び壁画には歴史的価値とかありそうだけど、今はどうでもいい。罪悪感よりも僕の好奇心が上回っただけだ。
すると目の前には更に奥行きのある空間が広がる。
僕は進む。
ようやく目的の場所へ辿り着いた僕は知るのであった。古来より伝わりし秘剣とその遥かなる時空の中で紡がれし歴史の真実を───────。
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結果から言ってしまえば入口から感じていた魔力の正体は隠し部屋に足を踏み入れた瞬間に判明した。
ただ予想外と言えばその魔力を発する源は二つあったという点。
一つ目は空間の奥に刺さっている剣から。立派な台の中央に鎮座するのはやや大袈裟に作られたファンタジー風の装飾が施される、正義の光・悪を成敗する魔力を放つ神聖なる剣。
いかにも、使ってください勇者様って感じの剣だ。
そしてもう一つは・・・。
「お待ちしておりました。勇者様。さぁ、勇者の剣を抜き私の封印を解いてその力を示してもらいましょう」
と鎖に繋がれた状態で僕を勇者と勘違いする喋る馬であった。
いや、馬という表現では少々語弊があるな。
形は鹿に似て、背丈は大きくゆうに五メートルは超えそうだ。顔は龍っぽいな。普通にかっこいい。背毛は五色に彩られ毛は黄色く、身体は鱗で覆われる。そして頭部には天に向かい生える立派な一本角。
うん、麒麟だ。どっからどう見ても麒麟である。
これからは君のことを麒麟くんと呼ぼう。
「ごめんね。僕は勇者ではないんだよ」
僕はこの麒麟くんに待ち人では無いことを告げる。
「えぇ!そうなんですか?すみません、早とちりを・・・」
と驚き麒麟くんは僕に謝罪した。めっちゃ申し訳なさそうに目を伏せて慌てる麒麟くん。なかなか良いリアクションをする子だな、と僕は思った。
「悪いね。君の待ち人じゃなくてさ」
「あなた様が謝る必要はございません。生まれて初めて自分以外の生物と出会ったものでして、つい舞い上がってしまいました」
そう言って自虐風に笑う麒麟くん。
ツッコミどころはいくつかあるけど、それは後回し。
「君はなんで勇者を待ってるの?」
僕は尋ねた。
「それが私の使命なのです。私たちはこの洞窟の・・・と言うよりかは、この剣の番人なのです」
僕は麒麟くんの話を聞いて納得した。要するに麒麟くんはコッテコテのファンタジー要素によってこの場に縛られているわけだ。
「はいはい、わかるよ。勇者が魔王を倒す前に訪れる場所とかそんな感じでしょ?」
「そうです。来る勇者の最後のピース。魔王を倒す為の武器。その武器を得るのは並大抵の実力じゃ駄目だと、古の大戦で人間族を勝利に導いた初代勇者が私の先祖を剣と共に勇者の最後の壁となるようにここへ封印したのです」
なんて自分勝手な勇者なんだ。恐らく人間族の間では美談として語り継がれるのだろうけど、この子たちからしたらたまったもんじゃない。
訳の分からない理由で薄暗い閉鎖された空間に何百年、もしかしたらそれ以上の時間をここで過ごしていたのだ。
「私たちは寿命を迎える刻に次の番人が生まれ、また長きに渡り勇者の剣を守るのです。新しい勇者に殺されるのを待ちながら・・・」
麒麟くんは悲しげに話をする。
そんな悲痛な想いを知った僕は決意した。
「じゃあ、僕が君を解放してあげる。そして外の世界に連れてってあげよう」
読んでくださってありがとございます!
これにて第一章完結です!
少し時間がかかるかもしれませんが、第二章の投稿が始まったらぜひ読んでみてください!




