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勇者?いやいや超越者でしょ!!  作者: 他仲 波瑠都
第1章
2/25

転移したら餌だった件について

体の節々に鈍い痛みを感じるが、その痛みは僕の意識をはっきりとさせてくれたので寧ろ丁度よいものだ。


意識がはっきりしたことでぼんやりとしていた五感が調子を取り戻す。


そして早速僕の嗅覚、触覚が仕事をした。


なんか、臭くね?


日本で生活していて16年経つが一度も嗅いだことない異臭だ。


加えて顔がベタベタする。


なんだこれ?唾液か?歯くらいしっかり磨いておけよ!ってかメガネ無くなってるし。


と、まぁ冗談はこれくらいで、以上の事を踏まえて状況を考察する・・・が、どう転んでも決して好ましくはない、わりかしハードめな場所に転移したのだろう。


たぶん僕は、ハズレを引いたのだ。


と、一般の転生者・転移者ならそう思うよね。だけど僕は違う、なぜなら超越者になる男だから!


普通の人間がハズレだと思うようなものをアタリくじに変えてしまうのが超越者にとっての最低条件だ。


さぁ、困難、災難、ドンと来い!


僕は期待を込めて目を開く、すると飛び込んできたのは真っ赤な景色、もとい大きな口が僕に迫っている訳の分からない状況であった。


心は熱く、頭は冷静に。


これは僕のモットーだ。


格上、同等のレベルの相手との戦いでは先に冷静さを失った方が負ける。だから熱くするのは闘志だけ、戦いでは相手に負けないメンタルも必要だからね。


幸い、体に痺れなどの後遺症が残っていなかったので僕は一瞬で首を左右に動かし、なにか武器になりそうな物や助けてくれそうな人がいないかを確かめる。


辺りは薄暗い森の中、周辺に落ちているのはやけに黒くなっている木の枝のみ・・・・・・分析の結果僕は察した、結構詰みな状況に陥っていることを。


でも僕は諦めない。だって、超越者ならばいつ、いかなる絶望的な状況でも必ず己の力で覆すからだ。


それが僕が思い描く理想の超越者の姿、こんな道半ば、かなり序盤で躓いてたまるか!


僕は心の中でそう叫ぶと、両脚で目の前の生物をありったけの力で蹴飛ばした。


「グェェェ!」


奇妙な鳴き声で生物は後方へぶっ飛ぶ。


まだ上に乗っていた生物の口しか見ていない僕は相手の姿を確認すべく、すぐさま立ち上がった。


そして僕の両目が捉えたのは、クネクネと動きながら痛みにもがく生物。鳥のような大きいくちばしを持ち、ギラついた大きな目、鋭い爪が伸びる手足。


これぞ魔物って感じの魔物であった。


死んでいると思った餌にいきなり蹴りを入れられた魔物は不意打ちを受けた事で、その大きな目をしばらくの間グルグル回らせていたが、やがて落ち着いたのか気色の悪い黒目を僕に向けた。


「グェェッ!グェグエ、グエェェェェェー!」


わぉ、すんごい威嚇されてる。


まぁ、言わんとすることはわかるよ?やっと・・・かは知らないけどありつけたご馳走を逃しそうだもんな、そりゃあ怒るよね。


「ごめんね、僕も簡単に食べられるわけにはいかないんだ」


僕の言葉が伝わったのかはわからないが、魔物は唸り声をあげて突っ込んでくる。


鋭い爪で僕を切り裂こうと絶え間なく手を振り回す。


僕は全神経を研ぎ澄ませて魔物の動きを予測する。


右、左と全力で僕を狩りにくる魔物に対して、とりあえず僕は様子見で守備に徹した。


まだ魔力の使い方も知らない僕が魔族と取っ組み合いの勝負なんてできるわけがないので一定の距離を保ちつつ急所を探すしかないのだ。


だから地球で、前世?で習っていた柔道の技なんかは、今はまだ使えないだろう。


僕が前世で生まれ育った実家は両親二人とも不倫をしていたが、有難いことに金だけは持っていたので僕は何不自由なく好きなことをさせてもらっていたのだ。


そして、転生を思い立った中学1年の夏から来たる転生日まで、急ピッチで体を仕上げる為に柔道をはじめ剣道、ボクシング、テコンドーなどの武術を習った、習いまくった。


しかし、如何せん始めるのが遅すぎたので全部の道を極めることは難しく、実践で使えるレベルまでに仕上げるのがやっとだった。


それが災いしたのか徐々に魔物の爪が僕を捉え始め服に、肌にと掠り出す。


ようやく魔物の速さに慣れてきた僕は隙を見てジャブを打つが全く効いていない。


前言撤回、やっぱり無理じゃね?


と、弱気になってしまった僕のほんの僅かな気の緩みを魔物は見逃してくれなかった。


「ギェェェェッ!」


スパッと綺麗な音が聞こえそうなくらいに見事に下腹部に線が入るとそこから血が噴き出す。


魔物の素早さがグンッと一段階上がったのも、避けきれなかった理由に含まれるだろう。


「うぐっ、やっべー・・・」


僕は恐る恐る腹に手を当ててみる。そして、ドロっとした血が止めどなく流れ出るのを確認し、ワンチャン傷が浅いかな?といった淡い希望を即座に捨てた。


超越者になろうと志す男がなんとも情けない、これは己の準備不足が招いた結果だ。転生したら目の前に魔物の口があることを想定していなかった僕の責任、自業自得だ。


いや、待て。こんなとこで終わって良いのか?・・・答えはNO。


まだいける・・・!まだ舞えるんだ・・・!


気力を振り絞って痛みに耐えながら僕は仁王立ちをする。


これは前世で僕の師匠だった人からの教えだ。


困ったら仁王立ちをしろ、そうすれば・・・・・・なんか上手いこといく。


僕はそれを忠実に守った。


僕の堂々たる態度に魔物は一瞬攻撃するのを躊躇ったが、僕が手詰まり状態なのを野生の勘で察すると一気に間を詰めて仕留めにかかる。


右手を大きく真横に振りかざし、狙うのは僕の首。妥当な判断だね、首さえ飛ばしてしまえば大抵の生物は絶命するからだ。僕が魔物の立場でもそうするよ。


・・・でも、まだ死ぬわけにはいかない!


僕は最後の賭けに出る。


手のひらを合わせ合掌のポーズをとり、僕は祈った。


助けてぇぇぇぇー!神様仏様イエス様!僕は無宗教だけどクリスマスは好きだったからさぁぁぁぁああぁ!神社にも行ったよぉぉぉお!


そんな僕の必死な都合の良い願いに神が応えたのか、奇跡が起きる。


「ふんっ!」

「グエッ、グァァ・・・」


突如として現れた黒いフードを被った人・・・だと思われる者が魔物の首を青色に光る剣で跳ね飛ばした。


あの世まで3秒前だったが恐怖などは一切感じることなく、僕はその剣技に思わず見とれてしまう。


無駄のない洗礼された剣技、一撃で確実に相手の息の根を止める。うん、素晴らしいね。


そんな僕を他所にフードさんは心配そうな声で僕に話しかけてきた。


「間に合って良かった。はやく横になりなさい」


あっ、この声は女の子かな?


フードちゃんに促されて、横たわり仰向けになった僕は、フードに隠れていた耳が少し尖り気味なことに気付いた。


「大丈夫?凄い血が流れてるわ・・・。ちょっと待っててね、急いで治癒するから」


そう言ってエルフっぽい女の子は僕の裂けた下腹部に手をかざし、何か唱える。


すると、緑色の大自然の力を感じさせる光が僕の傷口をみるみる塞いでやがて痛みも傷跡は跡形もなく消え去った。


「おぉー、ありがとね。助かったよ」

「いいのよ。それよりも少し遅れちゃってごめんなさいね?」

「いやいや、助けてくれただけで有難いし嬉しいさ」

「そう・・・・・・」


フードちゃんはそう言うと目元を緩めた。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前は佐藤純一。超越者になる男さ」

「聞きなれない名前の響きね」


とフードちゃんは言うと被っていたフードをとった。


「わたしはエルフ族のリンス・アローナよ。気軽にリンスとでも呼んでね」


銀色の長く艶のある髪を靡かせながら切れ長の青い瞳のエルフちゃんは名乗った。


・・・これは驚いた。眉目秀麗って言葉は彼女のためにある、と言っても過言ではないくらいに彼女は美人なのだ。


エルフは美男美女ってガチだったんだなぁ。


そんなことを思っているとリンスが口を開く。


「それにしても純一は凄いわね。あんな危機的状況で冷静に魔物と対峙できるなんて」


さっきの仁王立ちの件を褒めてくれるリンス。


冷静と言うかただ打つ手が無かっただけだったんだけど・・・。


「ま、まぁね、あんな魔物如きにビビってたら話にならないから」


僕は”見栄を張る”を選択。


「勇敢なのね」


自分でも結構無理があると思ったけどリンスはすんなりと受け入れた。なぜだろうか、やたら好意的に捉えてくれる気がするが・・・たぶん僕の思い過ごしだ。うんそうだ。


「あっ、リンスに聞きたいことがあるんだよ」

「なに?」

「ここら辺に僕と似た格好をした同い歳の男女の集団とか見なかった?」


決して忘れていたわけじゃないが怒涛の異世界生活の幕開けにすっかり頭の中から抜け落ちていたみんなの行方を尋ねる。


「知らない・・・。わたしが来たときに確認した魔力はあなただけよ」

「そっか、わかったよ・・・」


どうも僕だけがこの地に飛ばされたようだ。


みんなは無事か?、もしかしたら僕だけ別の世界に転移したんじゃ・・・、などの疑問がわいてくるが少し考え込んで一つの結論に至る。


「まぁ・・・・・・いっか」


この一言に尽きた。


そうなのだ、所詮はただの前世界でのクラスメイトにすぎない彼らを一々気にしていたって仕方ない。友人とか学友なんて存在は超越者には無縁だろうしね。


でも、もしも生きてたらいくら僕でも良かったね!程度の感想は言えるので・・・あれだね、みんな頑張ってくれ。


僕が心の中でかつてのクラスメイトにエールを送っているとリンスが話しかけてくる。


「それで純一はなんでこんなとこにいるの?」

「こんなとこって?」


心底不思議だ、とでも言いたげなリンスの表情が気になり僕は聞き返した。


「だってここは”最果ての森”なのよ?」


と、リンスは言った。


最果ての森だって・・・?


なんだよそのラストステージ臭がプンプンする名称は・・・物語の終盤に出てくるような、ゲームだと課金する事で解放されてそうな特殊ステージ。


転移したばっかりの僕にいきなり立ち塞がる超難関ステージ。


そんなの・・・そんなのって・・・ぜっっったぁいに、ワクワクするに決まってるじゃん!!

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