戦の後で
長きに渡りこの国を取り巻いていた悪を排除し、悲しみの連鎖は断ち切られた。
全てが終わったのだ。
僕とゼラルカちゃんは将軍を倒しすと、おじいさんとの集合場所に定めていた運動場へと向かっていた。
ちなみに切断した片腕は応急処置として粘着性を持たせた魔力で繋いである。僕の治癒魔法ではこれが限界。くっつけるなんてのは不可能。だからパラディン王国で本格的にリンスに治してもらうつもりだ。
そして、だ。
初めて使ってみた剣技、エンド・オブ・ソード。いやぁ、めちゃくちゃ良かった。一点豪華で魔力を大爆発させただけの技なんだけど。名前に終焉とか終末だとかを付けとけばそれっぽーくなると知れたのは収穫だったね。
一戦を終えて余韻に浸る。そんな僕に気がかりな事が一点。ゼラルカちゃんの様子がおかしいのだ。先程からゼラルカちゃんは沈んだ顔をして、何か言いかけようと口を開くが躊躇し結局何も言わない。そして、しきりにため息をついているのだ。
「どうしたの?」
僕は尋ねる。女の子のつくため息は構って欲しい、聞いて欲しいのサインだと、何かの本で読んだ僕はそれを忠実に実行する。
「えっと・・・みんなと会うのが・・・」
「あーね」
「はい・・・また拒絶されたら・・・今度こそ立ち直れそうにないのです・・・」
「その心配は要らないよ」
「えっ?」
「まぁ、着けばわかるさ」
少女は僕の言葉に疑問を持ったのだろうか懐疑的な目で僕を見たがそれもほんの一瞬に過ぎない。
すぐに頷くと彼女は。
「わかりました。あなたの事を信じます!」
信じてくれたこと自体は大変喜ばしいのだけど、まだ出会って間もない男の話をホイホイと信じ込む少女の純粋な心。悪く言えば単純な思考回路に僕は不安を感じる。
将来詐欺とかに会わないように気を付けてね。
そんなこんなで少女の将来も心配してちょっと大人な気分になりながら、ゼラルカちゃんに案内されて歩くこと約二時間。
国民が集まる運動場へとやってきた僕たち。
国民の注目が全てゼラルカちゃんに注がれる。
さぁ、おじいさんは任せた仕事をちゃんとこなしてくれたかな?
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「っ・・・!」
足がすくみ、逃げ出したくなる気持ちに襲われるがゼラルカは堪えた。
しかし、言葉は出てこない。何を喋ったらいいのかわからないのだ。今の今まで罵倒され、石を投げられてきた為ゼラルカの心はすっかり国民に対して萎縮してしまっているのだ。
頭の中は真っ白。必死に言葉を探すゼラルカは不意
に一人の男に名前を呼ばれた。
「ゼラルカ様・・・」
様付けで呼ばれた事に違和感を感じたのか
「今まで本当にすまなかった!」
「えっ?」
「私たちの勘違いで・・・ごめんなさい!」
「謝っても許してはくれないと思う。でも!これからの俺たちは態度で示していくつもりだ!」
一人を皮切りに次から次へと発せられる謝罪の言葉。
戸惑うゼラルカ。汚い言葉が飛び交うと予想していたが大きく外れた。
そんな彼女に歩み寄るのはジャルおじいさん。
「おぉ、戸惑っておるなゼラルカよ」
「ジャルおじいさん・・・これはいったい?」
「あやつの作戦じゃ。のぉ、お前さんよ」
おじいさんは僕にガッツポーズを送った。もちろん僕はそれに応え控え目だが親指を立てておいた。
「ウラノ・・・あっ、純一様の作戦?」
僕の呼び方を訂正したゼラルカちゃん。別にウラノスのままで良かったんだけど。
「そうじゃ。お主があやつの服屋に付き添った時があ
ったろ?その時二人で話し合ったのじゃよ」
「私が先に外で待ってて、と言われた時の!」
「うむ、でな・・・」
おじいさんは語り出す。
事の発端を。
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国の北端に位置する巨大な運動場、処刑台からはかなり遠く離れたこの地に国民はある人物の呼び掛けで残された人口の全てが集まっていた。
「なんだ、じいさん話ってのは?」
「みんなあんたの頼みだっつうから集まったんだぜ?」
ジャルの一声で集まった国民が口々に尋ねるがジャルは黙ったまま全体を見渡せる台に登壇した。
「今から流す音声がこの国の真実じゃ・・・皆の者心して聞くがよいぞ」
《スキル・やまびこ》
発動されたスキルによって、ウラノスとデュランの間で交わされる言葉が一帯に響き渡った─────。
一連の会話を聞き終えた国民。その心境はどうだろう。デュランに対する怒り、ウラノスへの尊敬の念、それとも初めて知ったジャルのスキルへの驚き・関心か。
どれも違う。
「おいおい・・・ゾンビ化させたのって王族って話だったんじゃ・・・」
「・・・まさか、私たちは今まで将軍の嘘を信じてアルテ王を非難していたの!?」
「くぅ・・・申し訳ございませんアルテ王!あなたがこの国に齎してくださった御恩を・・・私たちは・・・」
「ゼラルカちゃんもごめんなさい・・・酷いことたくさん言ったわね・・・」
自分たちの過ち、度が過ぎるゼラルカへの仕打ち。
後悔で頭を抱え懺悔をする者が後を絶たない。
「ふん!これがわしのスキル・山びこじゃ!」
スキル・山びこ
対象の発した声をスキル所持者が居る場所に限り山びこの様に一帯に響かせる事が可能。
純一が前日にスキル透視した際にジャルのスキルを知った時から密かに練っていた作戦である。
上手く事が運び謝罪ムードが漂う中で水を差す一人の男の声。前日に純一にボコボコにされた男が声を荒げた。
「で、でもよ!こいつの父親は・・・魔族なんだぜ?」
「そ、そうだぞ!」
「俺たちは騙されないぞ!」
「あいつら王族は・・・ゼラルカを産んだ親共」
往生際の悪い男四人組。その陳腐なプライドを保てなければ生きる意味を失うのか頑なに彼らは認めなかった。
「うるさいぃぃ!!」
響き渡った声の正体は、たった今運動場へと到着したシズカのものであった。
「なんでゼラルカちゃんの家族がそんな事言われなくちゃいけないの!おかしいよ!」
「だって、悪いのは将軍と魔族の王様でゼラルカちゃんじゃないじゃん!」
「それに、ゼラルカちゃんのおじさんもおばさんもすっごく優しかったし私は大好きだよ!」
四人組の男へ、そしてこの場に居る国民全員に捲し立てるシズカ。誰も反論など出来ない。なぜなら全てが少女の言う通り、正論であるからだ。
「みんなは大人なのに、自分が悪い事をしたら謝れないの!?」
トドメの少女による会心の一撃。男四人組は少女の叱責、周囲の目にいたたまれなくなり、すっかり黙り込んでしまった。
「そうですよ皆さん。忘れたのですか?」
「言い方が悪くなりますが、魔族にも関わらず国の為にどれだけゼラルカちゃんのお父上が御尽力なさって下さったかを」
シズカ母の言葉によって国民は思い出した。優しくいつも自分たちの事を考えてくれていた第二王女。頻繁に訪れる民たちの悩みに嫌な顔ひとつせず最後まで聞き助言をくれる。時には人の力ではどうしようもない作業を、服が汚れるのを躊躇わずに率先して行ってくれたゼラルカの父。
他の王族の人だってみんな国民思いの優しい人たちだったのだ。
そして何よりこの国の中心に立ち自分たちの為に豪華な生活を拒否して自分たちと変わらないような質素な生活をおくっていた尊敬していたはずのアルテ王。
「ね?だからさ、ゼラルカちゃんが来たらみんなで謝ろうよ!」
シズカの提案に誰一人欠けることなく全員が頷きゼラルカを待つのであった。
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経緯を語られたゼラルカは安心感からか、力が抜けてしまい膝から崩れ落ちた。
「おお!大丈夫か?」
「はい、なんかホッとしちゃってついつい」
「それでな、ゼラルカよ。今更こんなことを頼むのは都合が良すぎると重々承知の上なのだが・・・」
「なんですか?」
「ゼラルカ・・・お主がこの国の王となってもう一度アルテ王族を復活させてくれぬか?」
ジャルは懇願する。
ゼラルカは悩む。
「で、でも!他の方の意見が・・・」
「安心せい。これはわしら国民の総意の上じゃ」
まだ渋るゼラルカ。
そんなゼラルカへと追い討ちをかける少女が現れる。
「私からもお願い!やっぱり新しい王様はゼラルカちゃんじゃなきゃね!」
「シ、シズカちゃん・・・買い被りすぎだよ・・・」
「そんなことない!ゼラルカちゃんは頭も良いし、いつも皆のことを優先して考える優しい子じゃん!」
「で、でもぉ・・・」
「絶対大丈夫だから!今度こそ、ゼラルカちゃんをみんなで支える!絶対に一人で背負わせないよ!!」
シズカのキラキラとした視線を直に浴びるゼラルカ。
そして遂に折れるゼラルカ。
ゼラルカは少女のこの目に滅法弱かったのだ。
「わかりました。僭越ながらこの私、ゼラルカ・アルテが承せて頂きたいと存じます!」
「ありがとう!」
シズカはゼラルカの両手を握りブンブン上下に振り回す。それ光景を微笑みながら見守っていたジャルは一つ咳払いをすると告げた。
「おほん。ではこの場をもって、ゼラルカ・アルテ。貴女をアルテ王国国王に任命する!」
ジャルの宣言で運動場内は沸いた。
「うおぉおぉぉぉ!」
「これからよろしくな!」
拍手喝采、大歓声だ。ここにゼラルカ、ジャル、シズカ一家そしてデュランの言葉に惑わされずに王族を信じていた一部の者たちの悲願であったアルテ王族の復活が遂に成し遂げられたのである。
「うぅ・・・ありがとございます・・・!私、みなさんが安心して、幸せに暮らしていけるような・・・お爺様のような王になる事をこの場で誓います!」
ゼラルカは泣いた。そして誓う。二度と悲劇が、誰も辛い涙を流さなくてよい国を作り上げると。
そして一連の流れを傍で見守っていた純一は呟く。
「・・・圧巻だったなぁ、最後のデュランの捨て台詞。四天王の中でも最弱!とか。リアルで聞ける日が来るなんて・・・涙が出そう」
と、別の件によって感極まっていたのであった。




