良い子は真似しないでね
瓦礫を掻き分け立ち上がったデュランは改めて対峙する強敵を見据えた。
はっきり言って敵は強い。ただひたすらに強いのだ。あの小さな人間族の体の何処からこれ程の力が湧いてくるのか。己の及ぶ知識の範囲では想像もつかない。
デュランは覚悟を決めた。今の自分の力では・・・剣技、身のこなし、魔力。全てにおいて圧倒的な格差を突き付けられ打ち砕かれるプライド。魔族としては大変許し難い屈辱である。
ならば超えようではないか。己の限界を。
「想像以上であったぞ。お前の力」
デュランはウラノスを称賛する。基本、他者を褒める事など絶対にしないデュラン。彼は言霊を信じているのだ。口に出して相手を上だと認めてしまうと、いくら自分が否定しようが必ず深層意識では相手に怖気付き、どこか一歩引いたような戦い方になってしまうからだ。
そんなデュランが褒めた。類を見ない格上を相手にし怯えて思わずこぼれたのか、それとも一武人としての相手に敬意を払う。といった教えがそれを成したのかは定かではないが、とにかくデュランはウラノスの力を認めざるをえない状況に陥っていたのである。
「当たり前だ」
抑揚の無い声でウラノスは返す。
「貴様は強い。それは認めよう。だが!それで黙っていられるほど我は軟弱な臆病者ではないのだ!!」
「それは大層なことだ」
「余裕ぶってられるのもこれまで!貴様に見せてやろう!魔王軍四天王が誇る限界の先を!」
デュランはそう言ってスキルを使用した。
《スキル・死者吸収》
デュランの纏う気配が一変する。
至る所から死者の魂が浮かび上がりデュランの元へ集う。そこに魔族、人間は関係ない。ただ呼び寄せられるがままにデュランに吸収されるのだ。
「ふっはっはっは。このスキルはなぁ、その名の通り死者の力を我が取り込むのだ!」
「ほぅ・・・」
興味深そうにその様を観察するウラノス。
「幸いこの場には死んだ我の兵にゾンビ化させた人間共が数万いる。よって我のスキルを使うには最適な条件が整っている環境なのだ!」
「魔族の真の力を・・・その身をもって知るがいい!!」
咆哮を上げながら空気を切り裂き突進するデュラン。その速度は以前とは比べ物にならない程速く、鋭い動きであった。
デュランはウラノスへと一撃一撃に対して全身全霊の力を込める。手がちぎれようがどうでもいい。
今、持つ全力を目の前の男にぶつけるだけ。
剣を受け止めるウラノスの足元が徐々に崩れてゆく。デュランの剣圧に押され、地面に足がめり込む。
勝ち誇った気分になり更に加速させる攻撃。デュランは苦悶の表情を浮かべているであろう、ウラノスの顔に視線を向けた。
が期待した表情とは違った。
なんと口元に弧を描き・・・笑っていたのだ。
「何がおかしい!」
デュランは攻撃を緩めずにウラノスへと問いただす。
「いや、ただお前はスキルと言えども死者の、他者の力を借りねば我に勝てないとはな」
ウラノスは鼻で笑った。
「貴様ああぁぁぁぁぁあ!!」
激昂したデュランが仕掛ける。みなぎる力のままに魔力を込めた重い剣がウラノスへと襲いかかるが、数秒前とは対応が異なる。
押していたデュランの剣がいつの間にか軽く流されるになり、遂には押し返され絶え間なく繰り出されるウラノスの剣を防ぐことしか許されない。
己の攻撃を仕掛ける余裕が消え去ったのだ。
その光景はスキルを使用する前と同様に、傍から見ればデュランを弄んでいるようにしか見えなかった。
命と命のやり取りのはずだが、なぜか緊迫感は感じられない。彼の剣は緊張で硬くならない。なめらかにデュランの剣を捌き確実にデュランの体を掠め、切り傷が増えてゆく。
なぜだ?なぜだ、なぜだ、なぜなのだ!?
自身はスキルを使用した。この砦の外を彷徨っていたゾンビの、そしてウラノスに殺され無残に散った兵士の魂を余すこと無く全て取り込んだはずである。
奴は本気ではなかった?ありえない。たかが人間族風情。にして、この力は。魔王様・・・ 或いはあの方にさえも・・・。
デュランは一旦距離を取った。幾らスキルを使用したとも、限界を超え膨れ上がった魔力が体内で暴れる。よって体が先に悲鳴をあげそうになる為ペース配分を考慮したのだ。
「貴様・・・一体何処でその力を!」
デュランの問い掛けにやはりウラノスは答えない。
だがその代わり彼は行ある動に出た。
「お前のスキル。なかなかに面白かったぞ」
デュランは褒められた?と思ったがすぐにその考えを撤回した。なぜならウラノスは”面白い”とは言ったが”強かった”や”驚いた”などの相手を称える表現を使用していないからだ。つまり今しがた自分は目の前の男にただ芸を披露しただけ、とデュランは解釈したのだ。
「それでは我もスキルを使うとしようか」
ウラノスは不敵な笑みを浮かべ、剣を大きく振り上げた。
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ザシュッ、バキッ、ボトン。
振り下ろした剣が己の肉を裂いて骨を砕き切断された腕が地面に落ちる。聞いてて良い気分には到底なり得ない音が響く。
肉を切らせて骨を断つ。自分自身も傷つく覚悟をして、より相手に大きな打撃を与えることの例えなんだけど僕の場合は自分で肉を切って自分で骨も断つので全て自己完結。
つまりはセルフ肉を切らせて骨を断つ、だ。
僕の異常行動に将軍は若干引き気味に反応を示す。
「貴様、正気か?」
当然の反応である。
「ふっふっふ」
そして、意味深な笑い方をする僕。
この場の状況を知らない者からしたら、ただただ自分を痛めつけて笑う異常者だね。
だけど僕は全くと言っていいほどに痛みは感じない。
僕は常に自身を痛めつけて効率良くレベルを上げる方法ってのをずっと考えていた。そしてある時思いついたんだ。
魔力を操作して神経、痛覚を鈍らせれば感じる痛みは最小限でレベル上げが可能になるのでは?と。
僕は早速実験に取り組んだ。
神経及び脳はとても繊細なので一歩間違えると僕は人として終わりを迎えてしまう。その為実験は常に全神経を注いで慎重に。周囲への警戒、身の安全など二の次で行った。どのみちこの計画が成功しない限り僕は超越者にはなれないだろうから生きる意味を失うこととなる。だったら実験中に襲われて命を落とそうが結末は同じだ。
全ては強くなる為、超越者になる為の血の滲むような努力の末、見事に僕は自分の神経までを操る魔力コントロールを手に入れたのだ。
ちなみにこの計画を全て終わった後にリンスに話したらガチ泣きされて5時間くらい説教された。
とまぁ、余談はこのくらいに。いよいよこいつに世の中には絶対に適わない存在がいるというのを教えてやらないといけない。
《スキル・M》
唱えた瞬間、僕の魔力量が倍増した。
身体中を駆け巡る血液に魔力が沸騰し奥底から沸き立つ。そしてそれは体外へ溢れ出し、大気を震わせた。その震えは波紋し広がり空間が歪む。地面には亀裂が走り、ウラノスの尋常ではない魔力の強さを物語っていた────。
・・・なんてのはちょっとした僕の演出。空間が歪んだのは事実だけど地面が割れたのは、僕が小さめの魔力の弾・魔弾をバレないよに地面にぶつけたからだ。
僕は結構凝るタイプの超越者だからね。
ほら見てよ、あのデュランの表情。信じられないって感じの顔てる。やばいめちゃくちゃ楽しいぞ!
「ははははっ!いいぞ・・・いいぞ!力がみなぎってくる!!!」
僕はどっちが正義がわからなくなるような台詞を吐く。
スキルを最大限に利用し、練り上げ爆発した僕の魔力はあのリンスをも超えると自負している。絶対の自信から成り立つ圧倒的な力。他を寄せつけない、世界を崇高なる力で震撼させる、統べる超越者を目指す者の覚悟。
「き、貴様。なんなのだ!その力は・・・っ!」
「お前と同じように我もスキルを使ったまで」
会話を続ける最中も常に上昇してゆく魔力。それは留まることを知らず、魔力がこの砦全体を包み込む。
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「ではゆくぞ」
ウラノスは言葉を発し終えた時には既にデュランの目の前にいた。
デュランは慌ててそれに対処する。だが遅い。瞬きを終えた時にはウラノスの姿は無い。デュラン自身もスキルによって限界を超えているはずだが、差は埋まらないどころかウラノスのスキルの使用で、もう次元が違うと錯覚する程に開いてしまった。
腕を一本失っているのにその剣筋は乱れるどころか寧ろ滑らかに美しい。極僅かにあった無駄な力を全て取り除き最低限の。それでも相対する敵にとっては確実に自分の実力を凌駕すると思わせる力であった。
しかし、デュランも魔族軍四天王の自負、プライドがあるのだ。毎日のように剣を振るい、上り詰めた地位。簡単に手放せるほど無欲じゃない。
凄まじい攻防・・・には至らなかった。繰り広げられたのは一方的なウラノスによる連撃。
「くっ!?」
あまりの激しさに耐え切れず後方へ吹っ飛ばされるデュラン。しかし、吹き飛ばした張本人はデュランには目もくれず、己の剣を見詰め首を傾げていた。
そして覚えのある魔力が一人分増えた事に気付いたウラノスは振り返った。すると何故か先程逃がしたはずのゼラルカの姿が。
「あれ?なんでまだ居るんだ?」
ウラノスは呟くがゼラルカには届かない。
しかし、動揺したのも一瞬。超越者気分に浸って楽しんでいるウラノスは瞬時に切り替え、自慢のイケボでゼラルカに告げる。
「少女よ。早く結界を張り己の身を守れ」
ウラノスはいつの間にか戻ってきていた少女に疑問を抱きつつも身の安全の確保を促したのであった。
「は、はい!」
急いでゼラルカは自らを結界によって囲んだ。
「うぐぐ・・・!はぁ、はぁ、はぁ・・・」
自身にのしかかっていた瓦礫を退かし、上体を起こしたデュランはウラノスに語りかけた。
「おい、ウラノスと言ったか」
「そうだが」
「魔族に反抗するなど、貴様の進む道は険しく茨の道だと知っての行動か?」
「貴様は今日をもって魔族、エルフ族の全てを敵に回したのだ!既に冗談では済まん。生半可な覚悟では地獄を見るぞ!」
とデュランは脅しめいた事を言った。
彼の纏っていた鎧は、全身切り傷、刺傷による風穴でもう鎧の原型は保っていないかった。
「茨だと?」
ウラノスはデュランの言葉に含まれていた単語を復唱した。
「そうだ!自分で言うのは情けなく、悔しいが。我は四天王の中でも最弱!それに魔王様にヘル・アスダークの皆様方もおられるのだ!貴様が生き残れる確率はゼロに等しい!」
とデュランは言うが返ってきたのは・・・。
「く、くく・・・くく・・・」
「あ?」
「あーっはっはははは!!!」
高らかに響く笑い声。たんに笑っているだけであるはずなのにその声はデュランには絶望を与える音色に聴こえた。
「笑わせてくれたな。礼を言おうか」
「貴様・・・」
「覚えておけ。お前が言う茨など我の前では雑草に同じ。ただ踏み潰していくだけだ」
デュランは痛感した。対峙する敵、ウラノスの圧倒的な自信とそれを裏付ける圧倒的な力の前に。
自分はこいつには敵わない、と。
デュランは握っていた剣を無意識に手放していた。ここに武人としてのデュランの敗北が決定的になったのである。
「これで終いだ」
同じ武人としてデュランの心境を悟ったウラノスは情けを掛けずに、自身の持つ最高の剣技でケリをつけることとした。
スキルの使用によって限界を超え高まった魔力、更に大気中に漂う微かな魔力の粒子をも剣へと集約させ、一太刀に全てを篭める。
金色の魔力が螺旋状にウラノスの周りを巡り天へと登る。綺麗な魔力だ。デュランが歩んできた人生で一度たりとも見た事無い色の魔力。だが見てくれだけではない。練り上げられた魔力は細く強い繊細な糸。やがて天へと登っていた魔力の糸はウラノスの振りかざした剣に纏わりつく。
手応えを得たウラノスは口角を上げると光り輝く金色の剣を振りかぶり、そして・・・。
《エンド・オブ・ソード》
振り下ろした。
剣先の向き直線上の地面は割れデュランへと目掛けて襲い掛かる。一帯は光に包まれ音もなく将軍・デュラン、そして周囲の建物は音もなく消し炭となったのであった─────。




