超越者道の第一歩目!
元よりこのアルテ王国はなかなかに繁栄した国であったらしい。しかし、魔王軍の侵攻によってその人口の半分は殺されゾンビ化。そしてまたその半分はゾンビとなったかつての家族、恋人、友人に噛まれて生きる屍となる。そして彼らは砦の外で行き場のない悲しみを抱え、成仏できないまま今も尚苦しんでいる。
現在、僕たちは処刑場がある大広場から少し離れた建物に身を潜め機会をうかがっていた。
「パパ・・・ママ・・・ぐすっ」
隣では僕たち三人の居場所がバレないように必死に声を抑えながら泣くのを耐えるシズカちゃんの姿。
少女の一秒でも早く両親に会いたい、抱きしめてもらいたい、でも我慢だ、全てが台無しになってしまう、そんな実に子供らしい可愛げのある欲求を抑え込み、時を待つ儚い少女の姿。元の世界だったら絶対に全米が泣いているであろう。
僕も少なからず胸を痛めた・・・そして閃いた。
もしかしてこの胸の痛み・・・精神的苦痛とか何か上手いこと変換されてレベル上がったりしないかな?
僕はすぐにステータスと心で念じるが、僕の期待とは裏腹にステータス表には変わらない数値が並んでいる。
佐藤純一
Lv100
HP 15000 力 8000 素早さ9000 防御力 5000 魔力 10000
これが現在の僕のレベル、能力値だ。どの数値もキリが良く見やすいので地味に嬉しい。
この数値が強いのか弱いのかはわからない。もしかしたら強いかもしれないし、逆に弱いかもしれない。ただ、起きてる時間のほとんどを特訓に費やした事には変わりなくどんな結果であろうと受け入れるつもりだ。
僕は一度だけこの能力値をリンスに見せたことがある。
その時の彼女は数値を目にした瞬間に彼女にしては珍しく目を見開いて驚き、信じられないといった様子であった、が何も言わなかった為にその真意は不明。
まぁ、今から戦闘を行えば僕の現在地がわかるのでもう少しの辛抱である。
「安心してね。僕は約束は絶対に守る。君の両親も必ず助け出すよ」
「シズカちゃん、私たちがついてます!」
「うん、ありがとうお兄ちゃん、ゼラルカちゃん。信じてるよ」
「じゃあ、僕が合図したら走って両親とここを離れるんだよ」
僕は張り詰めていた少女の表情筋が少しだけ緩みぎこちなくとも笑みを浮かべてくれたことに安堵し、少女二人をその場に留まらせて、僕はいよいよ決戦の舞台へと舞い降りる。
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シズカの母、サーリナは処刑台の中央にて夫と迫り来る最後の刻を待っていた。
昨日突然に罪状も知らぬままに連行され翌日に死刑。こんなことがあっても良いのか、許されるのか、何度も夫婦で訴えかけたが、力こそが正義。力さえあれば法律なんて関係なく、幾らでも好き放題。
「それではこの罪人二人の処刑を始める!我、将軍デュラン自らの手で刑を執行してやろう」
この国を陥れた諸悪の根源、将軍・デュランを睨みつける。
「こいつらの娘は罪を償わずにノコノコと生きて帰ってきただけではない。なんと!門兵三人に手を下し今も尚どこかに潜んでいる」
自分たちの罪状を読み上げるデュラン。しかし、夫婦には引っかかる点が一点。
「待ってくれ!い、今、シズカが生きてるって・・・!」
「本当ですか?あの子は無事なのですか!?」
最愛の娘の無事を知り、聞き間違いではないことを祈りながらデュランへと詰め寄り確認する。
「ああ、そうだ。しかしもう貴様らには関係無いだろう。今から死ぬのだからな」
デュランはそう言って二人に背を向けると立て掛けてあった巨大な鉄製の斧を手に取った。五年前、王族の首を跳ねた際に使用した物である。
「よ、よかった・・・」
「シズカ・・・あなたは生きてね。もう一度あなたを抱き締めたかったけど、もう叶いそうにないわ」
喜びと悲しみが入り交じった涙を流し娘の存命を喜ぶが同時にもう長くはないであろう自分たちの命、もう二度と娘に触れる事が出来ないという事実に涙する。
そして、振り下ろされる刃を待つ為に目を閉じた。
だが、その時。
「泣く必要はない」
突如一帯に響いた低く、威圧感のある声。
「お前たちの命は我が保証しよう。顔を上げろ、前を向け、希望は目の前にある・・・」
この声は魔族軍には底知れぬ絶望を、夫婦には謎の安堵感を感じさせる、とても不思議な声であった。
「おい、誰の声だ!今は神聖な裁きの時間だぞ!そこのお前、早く声の主を探してこい!」
「は、はい!」
苛立ちのこもった口調で部下へと指示を飛ばすテュラン。しかし、それは必要の無いことであった。
「し、将軍!空です、上空に何者かが!」
見上げると頭上には人影が・・・。
二本の剣を持ち、両手を大の字に開いてゆっくりと。場の慌ただしい雰囲気にはそぐわない。だが気付けば、誰も動けずにその様を眺めてしまっていた。
「あぁ、神よ。まだ私たちを見捨ててはいなかったのですね・・・」
「ありがとうございます、ありがとうございます・・・!」
感極まって両手を組み、祈りを捧げる夫妻。
対してフードに隠れて顔は見えないが背後に青白い神秘的な光を放ちながら舞い降りてくる男は至って冷静であった。
「いや、我は神ではない」
「え?」
「我は超越者・ウラノス。世界の全てを超越し統べる存在だ」
夫婦の言葉を訂正し、天から舞い降りてきたのは真っ白なローブに身を包まれた一人の青年であった。眩い光を放ちながら地上へと降り立つ美しいその姿に思わずため息がこぼれる。
「おい、そこの夫婦。手錠は切断しておいた、今すぐこの場を離れ、建物の影にいる娘と一緒に北へと向かうのだ」
夫婦はウラノスの言葉にハッとして手を確認する。すると、自分たちを拘束していた枷が鎖の部分で切れていた。神秘的なオーラを放つウラノスに見蕩れるあまり自分たちの手が自由になっている事に今、気付いたのである。
そして、大きな商館を指差すウラノス。彼の示す方向に顔を向けると建物の影から大きく手を振る娘がいた。
「シズカッ!!」
「この御恩は一生忘れません!」
やけに久しく感じる最愛の娘の笑顔。夫婦はウラノスに感謝を告げると一目散に娘の元へと駆け出した。
しかし、当然それを許さぬ者が一人。
「逃げられると思うな!」
デュランは処刑用の手に持っていた斧を夫婦目掛けて投げつけた。
「あっ、しくじった」
ウラノスは呟く。しかし、その小さな呟きはデュランが投げた斧の脅威の回転速度から生じる音によって掻き消された。
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「パパ!ママ!」
「おじさんもおばさんも無事で良かったですね!」
両親の無事を知ったシズカは、喜びを隠しきれずに自分たちの居場所を伝えるため両親に向けて大きく手を振った。
「こっちだよぉー!」
「あっダメです!シズカちゃん!」
ゼラルカは慌ててシズカの行動を制止させようと試みる。今自分たちの存在がデュランにバレてしまったら、奴はシズカの両親を狙うに違いない。そう考えての咄嗟の行動であった。
しかし、遅かった。
「ふん!」
デュランが夫婦に向けて斧を投げつけた。が駆け寄って来る夫妻は斧の接近に気付かない。
「パパ!ママ!危ない!」
シズカが悲鳴をあげる。
「そうだ!純一様ならなんとか・・・!」
ゼラルカは最後の頼みである純一を見た。
しかし、なぜだか彼は微動だにせずにこちらを伺っていた。
ゼラルカは戸惑ったがすぐに理解する。
純一の行動に込められた真の意図を。
「あぁ、そうなのですね。純一様は私の力を信じて・・・」
ゼラルカは思う。
「こんな私でも・・・せめて・・・恩人ぐらいは救える力が欲しい!」
ゼラルカは願った。
すると神が健気な少女の願いに応えたのかは定かではないが体の底から不思議な力が湧いてきた。
ゼラルカは頭に浮かぶスキルの名を詠唱する。
《スキル・結界》
夫妻と迫る斧との間に現れた結界が斧と衝突し、デュランの攻撃を防いだ。
「きゃぁ!」
「今のはゼラルカちゃんの力か?」
夫婦は驚き振り返る。目には肩を大きく上下させて息切れするゼラルカの姿が映った。
「パパ!ママ!」
シズカが両親の元へと駆け寄る。
「よかったぁ・・・もう一度この手であなたを抱きしめることができて・・・」
一家が交わす抱擁を見届けたウラノスは視線を戻す。
「ちっ、遂に覚醒しおったか。まぁよいわ。貴様を殺して一家諸共殺すまで」
「兵たちよ、あの男を全力で殺すのだ!」
デュランの指示を受け魔族たちはウラノスを囲んだ。
そして周囲を取り囲む兵をじっと見つめウラノスは呟く。
「一、二、三・・・・・合わせて一万組手といったところか。いいだろう、相手してやる。まとめてかかってこい」
ウラノスは剣を地面に置き、羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。
そして全魔力を解放させる。たちまちそこには砂塵が舞い上がり大気を震わせウラノスを中心に渦巻く。
圧倒的な魔力が場の空気を支配し魔族たちに底知れぬ恐怖心、威圧感を与えた。




