超越者の活動衣装
一通り語り終えたおじいさんはコップを持つとグイッと一気に中の液体を飲み干した。それは水なのか、はたまた酒なのか、僕にはわからない。
「・・・ってことがあってこの国は支配されてしもうたんよ。・・・して、お前さんは将軍にどう勝つつもりじゃ?」
急に僕は聞きたいと微塵も思わなかった過去編を語られただけでなく、いきなり明日の戦闘方法まで問われる始末。
田舎のおじさん味のある、異世界のお節介おじいさん。特に隠す意味も無いため僕は答える。
「真っ向勝負ですよ。強者に小細工は必要ありません。・・・まあ、強いて言うならば、まず相手の力量を探りつつ状況を見て判断します」
「ほぉ、お前さん。その歳で大した自信じゃのぉ。若さゆえの・・・か」
「自信もなにも事実ですからね」
「ガッハッハ!わしはお前さんのような青年は好きじゃぞ」
どうやら僕に好印象を抱いたらしいおじいさん。正直怖い、会ったばかりの赤の他人に普通そこまで言わないだろう。何か企んでるのか?
そんな感じで僕が思案していると、シズカちゃんがカウンター越しに僕の正面へとやって来て僕にエールをくれる。
「お兄ちゃん頑張ってね!」
「任せて、必ず助けるよ」
「うん!・・・あっ、そういえば・・・」
少女は、いかにも何か思い出しました!という仕草をすると続ける。
「服屋は行ってきたの?」
服屋?服屋、ふく・・・屋・・・あぁ、服屋!そうだよ。そもそも僕が外出した一番の理由だ。
「あっ・・・すっかり忘れてた」
「だと思ったよ・・・」
少女は僕の返答に溜息をついた。
「ゴタゴタしてたからね・・・それに道にも迷ったし・・・」
「えっ?迷ったの?」
「うん」
「あの距離で?あのルートで?」
「うん」
またあの目だ。
シズカちゃんは憐れむような目で僕を見る。
「方向音痴なんだね、お兄ちゃん。服も自分で選ぶの?」
「そのつもりだけど・・・」
「だったらゼラルカちゃんに頼んだら?」
「えっ?」
いきなりの提案に僕は思わず聞き返す。これはあれかな、あまりの僕の方向音痴さに服のセンスまで疑われているんじゃないかな?
「ゼラルカちゃんと一緒に行ってアドバイス貰ったら?道案内にもなるしさ!」
なるほど。確かに客観的意見も大切だ。君の純粋な気持ちを疑ってすまない。
「それにね。お兄ちゃんの服のセンスも気になるし」
「・・・」
ここで慌てるのは急遽任命されたゼラルカちゃん。
「シズカちゃん!わ、私がアドバイスなんて、そんな恐れ多い・・・」
分かりやすく謙遜するゼラルカちゃん、彼女結構な照れ屋みたいだね。
「私の服もね、ゼラルカちゃんが選んでくれてるんだよ!ほら、可愛いでしょ?」
立ち上がりクルッと一回転する。フリルのついた裾がふんわりと靡き少女の可愛らしさを引き立たせてベストマッチしている。
「なるほど、確かに似合ってる。君センス良いんだね」
「へっ!?そ、そうですかね・・・?」
「うん、はっきり言って基本的に服は着れればいいや、な僕が言うんだから間違いないね。えーっと、ゼラルカちゃん。頼めるかな?」
「は、はい!精一杯選ばせていただきます!」
と先程の不安気な表情はどこへやら。意気込みを口にすると彼女はフンス、と鼻を鳴らした。
「ありがとう。じゃあ今からしばらくおじいさんと明日の作戦会議をするから外で待っててくれないかな?」
「はい!」
僕の要望にふたつ返事で了承すると店の外へ出たゼラルカちゃん。やっぱりめちゃくちゃいい子だ。
カウンター席で向かい合う僕とおじいさん。
「で、本題はここからですね」
「なんだ、改まって?」
僕はテーブルに手をつき頭を下げる。
「明日の作戦、是非ともおじいさんにご助力願いたい」
これは僕がおじいさんの能力を透視してからずっと考えていた事だ。将軍とやらをを倒すのは僕一人の力で充分に事足りるが、この国の民を動かすには真実を教えなくちゃならないんだ。
そこでおじいさんのスキルはとても役に立ち、今のこの国の状況を覆すには持ってこいと僕は判断した。
「おう!この国を救ってくれるお前さんの頼みだ、わしに出来るなら何だってするぞい!」
随分と頼もしい事を言ってくれるおじいさん。国を取り戻す為に自らの犠牲を厭わないその精神。
僕は目頭が熱くなるような、熱い雫が込み上げてくる気がして、指で押さえる。
うん、気のせいであった。
「おじいさんって人望あります?」
失礼な聞き方になってしまうが、明日の作戦においては極めて重要な事なのだ。
「自分で言うのも照れ臭いがわしは顔が広いぞ!」
「そうなんですか」
「わしの居酒屋はな、何を隠そう居酒屋兼情報屋じゃからな」
何それ初耳。
「なら安心ですね。それで作戦と言うのが・・・」
「ふむふむ」
僕はおじいさんに明日の作戦を説明し、そこから改善点等を話し合って煮詰めていった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
作戦会議を終えた僕は返り血で赤黒く染まったローブを捨てて転移した際に着用していた体操服を
「やぁ、お待たせ」
「いえ!全然大丈夫です!わ、私も今準備が整ったところで・・・」
「そう?じゃあ行こうか」
僕とゼラルカちゃんは歩き出す。今度こそ理想の超越者衣装を手に入れる為に。
たわいもない話をしながら服屋へと歩く。そんな時、一組の家族連れとすれ違った。
「おい!ゼラルカが男と歩いてるぞ!」
「あーほんとだぁ!」
「こらっ、聞こえるでしょ!もっと小さな声で話しなさい!」
「けっ、いいご身分だな。国の癌のくせしてよぉ」
「っ・・・!」
ついさっきまで楽しそうな顔で会話していたゼラルカちゃんの表情が曇る。
耳に入る罵詈雑言がうっとおしく感じ僕はひと睨み。すると彼らは蜘蛛の子を散らすように去ってゆく。外から文句を言うだけの奴は大体こんなもんだ。自分たちが反撃される事を想定していない、だからすぐに逃げる。
僕は後ろで縮こまっているゼラルカちゃんに尋ねた。
「なんで反抗しないの?君強いのに勿体無いよ」
「怖いんです」
「怖い?」
「はい・・・」
「大丈夫、怖くないよ。ああいった連中は」
「・・・と・・・ます」
「え?」
「穢れた血とか言い続けられて虐められて・・・自分の存在を否定される気持ち、純一様にはわからないと思います!」
声を荒げ出会ってから初めて自分の気持ちを曝け出すゼラルカちゃん。
まぁ、正論だ。ぐうの音も出ない。
「ふーん」
「あっすみません。今のは・・・」
「いや、いいよ。僕の配慮が足らなかった」
一応は謝っておくがゼラルカちゃんは依然申し訳なさそうに俯くだけ。
「でも一ついいかな?」
「はい・・・」
「僕はね、君が何者か君の親は誰かなんて知らないし興味も無い。でもさ君は君だろ?僕にとってはそれ以上でもそれ以下でもないんだ」
「っ・・・!」
「人に何を言われようが気にする事はない。でもね君がそれを受け入れてしまったら亡くなった君のご両親は悲しむと思うよ」
批判され罵られてもそれを受け入れ、ぐっと我慢してきた、お利口さんの振る舞いをしてきた少女には純一の言葉が深く響いた。
「純一様・・・」
尊敬するような眼差しを向けてくるゼラルカちゃん。
我ながらいい事を言った自負があるのでめちゃくちゃ気持ちいい。
「わかった?」
「はい、ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」
「よし、辛気臭い話もここまで。服屋に行こう」
「はい!僭越ながら私が精一杯選ばせていただきますね!」
心機一転僕たちは服屋へと向かう。
「純一様、着きました!」
ゼラルカちゃんの道案内のおかげであっという間に服屋へと到着した。自身の方向音痴さを改めて思い知った僕の手を引き、彼女はとてもはしゃいで店の中へと入る。
店内をあっちこっち走り回り、服を物色しては僕の身体に合わせて考え込むゼラルカちゃん。かなり真剣に選んでくれてるみたいで僕は一切口を出せない。ただただ彼女の待ってくる服を試着するマネキンと化す。
そして二時間後。ようやく納得のいく組み合わせを見つけたらしいゼラルカちゃんは僕に最後の試着をされると尋ねてきた。
「どうでしょうか?私としては最高の組み合わせだと思うのですが」
「バッチしだね。着心地いいし、それにかっこいい。ありがとう、君にえらんでもらって良かったよ」
「そ、そんな!私は純一様に助けていただいた御恩を少しでも返せたらなって思っただけでして・・・でも、純一様が喜んでくれるなら私も嬉しいです」
そう言ってはにかむゼラルカちゃんはとても綺麗で可愛かった。綺麗と可愛いの共存は成立しないとはよく聞くけど、そんな事ない。恋愛に無関心な僕が
こうしてゼラルカちゃん監修の元、満足のゆく服を買えた僕は彼女にお礼を言って一足先に帰ってもらっ
た。
ゼラルカちゃんだけを先に返した理由は一通の手紙をある者へ届けるためであった。そう、超越者活動において時には仕込みも大事だからね。
「お前の天下も明日までだ」
僕は呟く。
民から家族や友人を奪い、重い勢を課し苦しめアルテ王国にのさばり続ける将軍・デュランが住むアルテ城を見上げながら。
さぁ、いよいよ明日は五年前に止まったままのアルテ王国の時計の針が再び時を刻み始める─────




