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勇者?いやいや超越者でしょ!!  作者: 他仲 波瑠都
第1章
12/25

剣聖が来るまで

───五年前───


アルテ王国。当時の人口は50万人程でパラディン王国に及ばないものの、民を第一に考えるアルテ王の徹底した善政の甲斐も有り、周辺の小さな村・町からは厚い信頼を寄せられ、地方の中心国家として栄えていた。


信頼されれば人が集まる、人が集まればそれをターゲットとした商人が集まる、商人が集まれば金が動く、経済が回る。


武力だけが国を栄えさせるわけじゃない。こうした政治、経済の発展が国を育てる、大きくするのに一番必要な条件なのだ。


そして地方の経済の中心地として周辺の村・町はたまた遠方の国からこぞって商人たちが稼ぎに訪れていたのでたくさんの人で賑う都市へと成長したのがアルテ王国であった。


本日も晴天。ここ最近は太陽に照らさせる日が続いており草木も動物もそして国民も晴れやかな気持ちで平和な日々を過ごしていた。


今日でその平和な日常に終わりが来ると知らずに。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


ここはアルテ王国軍総司令部。軍を動かしこの国を武力の面から支える場所である。本日はアルテ王を招いての軍の予算、設備案の会議を行っていた。


そして時は進み、会議も順調に進みそろそろ終わりを迎えようか、という頃にある知らせが舞い込む。


「急報!」


息を切らせながら切羽詰まった様子で駆け込んできた青年。彼は軍服を身に纏い、被っていた帽子をとるとすぐさま敬礼の姿勢をとった。


重要な会議の途中に割り込んできた乱入者に彼を知る上官は当然激昂した。


「王の前だぞ!無礼だ!」


上官が青年を叱責する。


「まぁ、よいよい。そう怒るな」

「し、しかし・・・」

「ワシが良いと言うておる。して、青年よ。急報とはなんだね?」


王の言葉に従わない訳にはいかず、上官は溜飲を下げると椅子に腰を下ろした。そして器の大きいアルテ王は青年の非礼を許し、本題を問う。


「はっ!魔族軍が国境を通過、周辺の村々を焼き払いながら真っ直ぐアルテ王国へと進軍している模様!」

「魔族軍は既に竜人族を壊滅に追い込み、勢いに乗っているようです!」


青年の報告に室内に緊張が走った。


「な、なんだとぉ!何故魔族が侵攻してくるのだ!?」

「協定はどうなった!?竜人族が既に壊滅だと!?」

「い、一刻も早く部隊の編成を!」


室内は大混乱に陥る。皆、冷静さを失い正常な判断をするべき軍の総司令までもが取り乱す。このままでは指揮系統は機能しない。


「静まれぇぃ!!」


そんな中で響く王の一喝。


「落ち着け、お前たち。まずはそこの青年。ことの詳細を頼む」


アルテ王の威厳のある声で冷静さを取り戻し、黙り込む上官たち。王に促された青年は緊張しながらも自分に与えられた役目を精一杯こなす。


「はっ。パラディン王国最前線部隊の報告によりますと魔族軍は竜人族を滅ぼした後、続けてこちらに軍を差し向けたとのことです」

「アルテ王国には至急対魔族軍を編成しここで食い止めてもらいたい、とパラディン王からの要請です」

「ご苦労、よく伝えてくれたな。後でパラディン王に書簡を送るゆえ、しばらく待機しておってくれ」

「はっ!」


再度敬礼をして青年は下がっていった。


「パラディン王国め・・・竜人族を壊滅させた魔族軍を我々だけで食い止めろなど、なんて無責任な!」

「他国に武力で劣る私たちが魔族軍に太刀打ち出来るわけ・・・」


上官たちの口から出るのはネガティブな発言ばかり。それだけ彼らにとって竜人族の敗北は衝撃的な事実なのであろう。身勝手ながら彼らの怒りの矛先はパラディン王国へと向き非難めいた発言をする者が現れる始末。そこで黙っていられないのはこの国の主、アルテ王だ。


弱音を吐く軍人たちを王は咎める。


「お前たち。魔族だからと怖気付いてどうする!我らが戦わねばアルテ王国の人々、お前たちの友人、愛する家族に死の恐怖、侵略される恐ろしさを味合わせることになるんだぞ!わかっておるのか!」

「っ・・・!」


王の指摘に室内に居る全員がハッとし、息を呑む。古の戦にての魔族の非道な行いは古文書に嫌になるほど記されているのだ。そんな魔族が自分たちが愛する、暮らしている国を侵略しようと今まさに侵攻している。


「武器を取れ!案ずるな、お前たちは誇り高きアルテ

王国の戦士。先祖が守り抜いてきた土地を魔族に汚される事は決してあってはならない!」

「お、お」

「う、ぉ・・・」


ポツリポツリと漏れはじめる兵士たちの声。


爆発まであと少し。


「戦うぞ!我らが人間族の先陣を切るのだ!!」


とどめのアルテ王の檄。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「やってやりましょう!我らの底力、今こそ見せてやる時です!」

「パラディン王国の助けなど必要ないわ!我らで魔族など蹴散らしてみせまする!!」


流石は国をまとめあげる王様、その求心力、言葉の重みは他とは違う。


「ありがとう。お主らの勇気、誇りに思うぞ」


一致団結、目の前の強敵に国を挙げて立ち向かう為の軍事作戦会議に移る司令部。先程の青年を叱責した上官も竜人族壊滅の報告を受けて呆然とした総司令も王の檄によって今はすっかり軍人としての真剣な顔。


こうして人間族対魔族の400年越しの戦争の火蓋が切って落とされたのであった。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


魔族軍侵攻開始から早くも一週間が経とうとしていた。戦況は一進一退の攻防を繰り返し、現在はやや魔族軍が押し込みアルテ王国軍はひたすら防御に徹する。


連日連夜、昼夜を問わず行われる魔族軍の激しい攻撃にアルテ王国の兵士だけではなく国民までもが疲弊しきっていた。


そんな時に一つの朗報が舞い込む。


「報告!報告です!」


王自ら指揮を執るアルテ王国軍本営に駆け込む青年。


「なんじゃ?」


王は尋ねる。


「あの名高い剣聖アイリン・スーザン様率いるパラディン王国軍が各地を回って魔族を蹴散らしているもよう!」

「いずれこのアルテ王国にも救援に向かうとのことです!」


人間族領内全域にその名が轟く剣聖アイリン・スーザン。女性ながらにその武力は人間族屈指の実力で他の追随を許さない、言わば人間族の武勇の象徴みたいな存在。


そんな剣聖が駆け付けてくれるとなって本営は大盛り上がり。


「やったぞ!あの剣聖様が助けてくださるとは」

「これは心強い!」

「あと少しの辛抱か・・・耐えきってやる!」


戦争で一番しんどく感じる中盤に差し掛かる頃、ここにきて軍の士気はおおいに盛り返し最高潮にまで達する。


「よし!お前たちはすぐに王国全土にこの知らせを広めるのだ!」

「はっ!」


こうして波に乗ったアルテ王国軍は魔族が予想だにしない奮戦を見せ各地で戦果を挙げるのである。剣聖が来るまでに最高の戦況を整えておく為に。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


剣聖が救援に来るとの知らせから既に一週間が経過した。その直後に届いたアルテ王国より南方の平原で戦闘に入ったとの報告以来、待ち望む剣聖の続報は一切届かなかった。


アルテ王国軍は粘りを見せるものの徐々にその勢いは失われ、新たに増兵された魔族軍によって再び形勢が魔族有利に傾き始める。


皆が来る剣聖を待ちわびる中でアルテ王国本営に一人の青年がやってきた。軍服の色からして彼は戦場と戦場を繋ぐ伝令部隊の者だ。


「ほ、報告!パラディン王国からです!」

「パラディン王国だと!?」

「もしや、ようやく剣聖様が到着したのか!」


待ち焦がれた救いの手にみんなが歓喜する中で報告をしに来た青年だけは暗い表情で俯いたままであった。


そしてなにかを囁いている。


「どうしたお前?」

「もっと大きな声で話してくれ」

「違う・・・違うんだ・・・剣聖様は・・・負けてしまったんだ・・・」


青年の口からは途切れ途切れに理解出来ない、理解したくない単語が翻れる。


「は?」

「今・・・お前は・・・なんと言ったのだ・・・!?」


青年は大きく深呼吸をして早まる動機を必死に抑え込む。そして言った。


「魔族軍と交戦。剣聖様自ら先頭に立ち攻撃するもあえなく敗戦。撤退を余儀なくされた、と・・・」


青年の報告に一同は放心状態に陥る。


戦局を覆す微かな頼みの綱である剣聖のまさかの敗戦。指揮官たちの心を砕くには十分すぎた報告。剣聖を擁し、それも勇猛な将が多く在籍するパラディン王国軍が負けたとなれば自分たちの力で魔族軍を退けるなんて不可能に近い。


「剣聖様が敗れた、とな?」

「はい・・・」

「それは嘘偽り無い真実じゃな?」

「・・・はぃ」

「うむ、わかった。下がってよいぞ」


受け入れ難い報告に室内の温度は下がる一方。王はそんな空気の中である決断を下す。


「この件は内密に。一切の口外を禁ずる」


この事実は兵士たちの士気を下げないために軍の上層部だけの秘密にされた。

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