超越者とは
超越者。
それは常識や理解の垣根。人智をも超える無限大の力を持つ者。
全てを司る崇高なる存在。
そしてその力。世界へ干渉する影響力は神にも届くと言われる程でめちゃくちゃかっこいい僕が憧れる存在。
子供の頃に友達同士でやった遊びの中にヒーローごっこ、という正義の真似事をした遊びがある。
僕も漏れなくその遊びにはよく参加したものだ。
男の子はレッドやブルー、女の子はピンクなどの役を取り合い最終的にはジャンケンで決める。そして時には喧嘩にまで発展し、親が止めに入るのが定番だったりする。
しかし、そんな微笑ましいやり取りの中で僕だけはいつもその喧嘩には巻き込まれずに役決めが終わるの蚊帳の外から眺めるだけであった。
なぜなら僕はずっと悪役、戦闘員A,Bといった子供たちが好まない役割を率先して引き受けていたからである。
理由は簡単。
そのヒーローごっこの中には僕が心の底から望み、やりたかった役が一回もあった試しがないからだ。
今思えばそりゃぁそうだろと。子供のヒーローごっこに”超越者”なんて役があるわけがない。
そんな少し冷めたような態度の僕も一度だけヒーローごっこの役割決めの際に勇気を振り絞って提案したことがある。
「ねぇねぇ、僕は超越者って役をやりたい!」
その時のみんなの反応はとても印象に残っていた。
男の子は、
「はぁ?何言ってんだお前」
女の子は、
「馬鹿じゃないの?」
と全く賛同を得られずに、周りの。少なからず当時の僕が友達だと思っていた子供たちから、僕はイタイ子供、頭のおかしい子などのレッテルをしばしの間貼られ、除け者にされた時期が続いた。
成長した今の僕ならそんな扱いには何も感じず、どうってことないが当時の僕はまだ幼かったのだ。仲間に入れてもらえずに涙を流す夜もあった。歳相応に傷ついていたんだよ。
だから僕はみんなの前では自重した。みんなが嫌がる役をやる、そうすればまた誘ってもらえるし、嫌な役が先に決まることで遊ぶ時間も長くなるから僕はとにかく気持ちを押し殺すことに決めた。
だけども超越者になりたいという想いは消えたわけではない。
むしろ歳を重ねるごとに強く望むようになってゆく。
しかし、それと同時に悟ることとなる。
超越者になれる可能性は限りなくゼロに近い、と。
厨二病って呼ばれる人たちがいたでしょ?二次元にのめり込んで三次元との区別がつかなくなっている人たちの蔑称だ。
僕もその仲間の一人の自覚はあった。現実的に考えて有り得ない超越者とか馬鹿げた夢をいつまでも追い続ける男。
大差は無いどころか、もしかしたら僕の方が酷い症状かもしれない。
突きつけられる現実に心を砕かれる日もあった。
だけど、どうしても諦めきれずに悩み葛藤し方法を模索する。でもやはり光は見えてこない悶々とした日々を過ごす。
ある時、そんな辛い日々を過ごす僕に転機が訪れる。
僕が中学に上がって初めての夏を迎えようとする頃にあるものが流行ったんだ。
それは、アニメ、ライトノベルで大ブームを巻き起こした異世界転生というジャンル。
僕はハッとしたよ。
彼らのようにもし、転生したら。もし、転生先で最強の能力、魔力を得ることができたら。転生じゃなくてもいい、異世界に行くことさえできたら・・・。
そう思った時は僕の心の中の超越者への憧れが再び燃え盛った瞬間であった。
それからの僕は異世界へ行った時に武術、体力の面で困らないよう急いで学校から帰ると制服を脱ぎ散らかしてジャージを身にまとい特訓、肉体改造に明け暮れた。
筋トレ、ランニング、食事。自分でできることは全部やった。全ては来る転生の日、異世界で力を得て超越者となるため────
まぁ、実際現実はそんなに甘くなく転生のての字の気配も無いまま僕は高校生となる。
モチのロンでトレーニングは続けているよ。
「ふぅー、今日も良い特訓ができたな。・・・おっと、そろそろ行かないと遅れる」
本日も朝の日課の腕立て、復帰、背筋、ランニングを終えてシャワーを済ませた僕は時計を見る。するとと時間ギリギリであったので走って学校へと向かうのであった。
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ガラガラガラ
教室の扉を開ける音が響く。
扉の近くの席で談笑していた女子生徒がそれに気づき挨拶をする。
「おはよう!」
女子生徒は真っ直ぐに僕を見ているが、彼女と僕の目は合わない。
「舞原さん!」
立て続けに呼ばれた名前で僕は理解した。彼女が挨拶をしたのは僕の後ろから入ってきた人物へ、だと。
「うん、おはよう!今日も頑張ろう!」
笑顔で答えるのは舞原聖香。
僕の幼なじみで一年生ながらにして学校一の美少女と呼ばれ文武両道、品行方正、誰にでも分け隔てなく優しいクラスの垣根を越えた学校の人気者だ。
片や僕はクラスカーストの底辺。とまでは言わないが上位でもないボジションにつけて可もなく不可もなくといった感じの生徒である。
しかし一部の女子と男子からは目の敵にされて、僕君の親殺したっけ?とアホな事を考えてしまうくらいに嫌われているのはここだけの秘密だ。理由はわからないが超越者となる僕にとってはどうでもいいことなので気にはしていない。
友達もさほど多くはない。むしろ少なめ・・・というか一人だけだ。そして確実に僕を嫌っている生徒がチラホラいる。・・・もしかして僕って地味に底辺なのでは?
僕がそうふけっていると背後から不意に肩を叩かれる。
「よう、今日は珍しく早いじゃねぇか」
「まぁね、今日はなんか良いことがある気がしてさ」
「そうかそうか、じゃあこれを機にもっと早く来ようぜ」
と言って笑う男子生徒。
彼の名は鬼塚瑛太。
こんな僕とも仲良くしてくれる唯一の友達だ。剣道部に所属していて、僕を何度も勧誘してくれているけどあいにくトレーニングで忙しい僕は毎回丁重に断らせてもらっている。
「てかさぁ、お前いつまで学校に伊達メガネ掛けてくるんだ?せっかくいい顔してるんだ、勿体ないぜ?」
瑛太の指摘したように僕は学校では度の入ってないメガネを掛けて過ごしている。まぁ、これには深いふかぁ~い訳があってね。
あれは小学校の頃だったかなぁ。当時の僕は伊達メガネなんかを付けずに超越者への憧れを抱きながらつまらない学校生活を送っていた。
ある日いつも通りに帰ろうと下駄箱を開く。
すると中に、
”放課後、校舎裏で待ってます”
と書かれた手紙が入っていた。
無視する訳にもいかず、僕が向かうとそこには同じクラスの女の子がモジモジしながら立っていた。そして僕を見つけるやいなや緊張で張り詰めていた顔を綻ばせ、頬を真っ赤に染め、恥じらいながらも一生懸命に気持ちを伝える女の子。
恋を知ったばかりの小さな女の子の告白。その光景はとても可愛らしく、そして初々しい。
そんな少女に僕は笑顔で・・・断った。
恋愛に興味の無かった当時の僕は、というか現在進行形で超越者になることしか興味の無い僕は当然お断りしたのだ。
無事に告白も終えた僕は家に帰ろうと少女に背を向ける。
去り際に見た少女の表情は先程と一変して憎悪に満ち溢れていた。今となっては声をかけて何かしらのフォローをすべきだったが当時の僕は深く考えずにそのまま帰ってしまう。
この後に起こる悲劇に気付かずにね。
そして次の日、登校すると下駄箱に入っているはずの僕の靴が無くなっていた。
たまにはそんなこともあるか。と職員室で適当な理由をつけて靴を借りた後、教室へと向かう。そして何も知らない僕がいつものように扉を開け教室に入ると一斉に女子から睨まれた。
不思議に思い男子を見ると彼らは目線を外しヒソヒソと陰口を言い始める。
女子の輪の中の中心にいる昨日僕に告白した少女を見て僕は理解した。
やらかした、と。
幸か不幸か。僕は顔だけは良い両親の遺伝子を引き継いだのか、幼い頃から女性の幼稚園の先生や学校の先生からは可愛がられていたのだ。
はっきり言ってちょー面倒くさい。
今更僕が何を言おうが僕を除いたクラスメイト全員を味方にした少女に僕が勝てる見込みは無い。なので僕は諦め、ほとぼりが冷めるまでしばらくの間肩身の狭い思いをしながら学校生活を送る羽目となった────。
以上の経緯を経て僕は学校では伊達メガネを掛けるようになり今に至るという訳。
「いや興味無いからいいよ。そんなとこよりさ、今日の一限はなんだっけ?」
話題変換を試み、僕が尋ねると瑛太は不服そうにしつつも少し考える素振りを見せ答えてくれた。
「確か・・・体育だったはず」
「じゃあもう着替えとかないとまずいんじゃない?」
「そうだな。そんじゃ更衣室に行きますか」
そう言って二人で立ち上がる。
僕が瑛太に続いて教室を出ようとした際に視界の隅で話す一組の男女を捉えた。
女の方は聖香で男は桜井蓮というクラスの中心人物、イケメンでサッカー部に所属しており、The陽キャな男だ。
美男美女でお似合いだなぁと思いながら少しだけ眺めていると。ふとこちらを見た聖香と目が合う。
やべっ、と思った僕は急いで目を逸らして教室を出たのであった。
なぜか、はみんなも分かるだろう?意味もなく僕みたいな陰キャが女子を見つめていたとバレたらどうなるか・・・そう、女子同士で「あの陰キャ、私のことジロジロと見てたのよぉ」「えーまじ?めっちゃきもいんですけどぉー」こんな感じになるのだ。
そうなればいくら女子に興味の無い僕と言えども流石に学校に居ずらくなってしまう。
そんな危機を未然に防げたことに安堵した僕は、少し前を歩く瑛太に追いつき会話をしながら更衣室へと向かった。
しかし、この時僕は知らなかった。聖香が悲しそうな表情を浮かべて僕を見つめていたことに・・・。
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「えー、みんな揃ったかぁー?」
気の抜けた声で点呼をとる体育教師。
いつもやる気がなくダルそうな態度。
僕のイメージする熱血体育教師像とはかけ離れた先生だけど生徒からはこれはこれで親しみやすいと評判だったりする。
「はい、全員揃いました!」
「おう、そうか。なら準備体操しといてくれー。俺は用具室に行ってくる」
そう言って先生は用具室に向かった。たぶん今日使う予定のサッカーボールを取りに行ったのだろう。
そして先生に返事をしたのは僕たちのクラスのまとめ役で委員長を務める流川健二くんだ。
とても真面目な性格で自分から率先して先生たちの手伝いを行ったり、学業では学年上位を維持するなどで、先生陣からはもちろんクラスメイトからも信頼されている優等生くんだね。
すると彼が前に出て僕らと向かい合う。
「それでは、みんな体操の隊形に開け!」
と流川くんは言った。
指示に従い男子も女子も体操するのに十分な間隔に広がる。
ちなみにこの学校では男女一緒に体育の授業を行っている珍しい学校だ。なんでも校長が極度の”男女平等”主義者で男・女で分けるのを嫌ってのことらしい。そして校長の性別は女だ。
まぁ、そんなことは置いといて。最前列の僕は右に少しだけ動き隣との距離をとった。
「・・・始めます。いっちにー、さんしー!」
流川くんの掛け声に続き体操をする。
僕は屈伸をしているといつもとは異なる張り詰めたような、肌を突き刺すような空気を感じた。
なんだ・・・この空気は・・・・・・まさか、遂に・・・!
僕は空を見上げた。
僕たちのいるグラウンド上の空だけが異様に赤黒く何かの前触れを感じさせる、そんな空だった。
「きゃー!あの空、ちょっとおかしくない!?」
その時、一人の女子の悲鳴が響く。名前は・・・えーと・・・・・・とにかく女の子が叫んだ。
その声に続々とクラスメイトたちは空を見上げる。
「うわぁぁ!」
「嘘だろ!?なんだよあの空の色!?」
「夕暮れ時じゃあるまいし・・・それに夕焼けにしては黒みが強すぎる!」
みんなはその空を恐れ、なかには泣き出す女の子もいた。
みんなの頭には各々の最悪な結末がよぎり恐怖に支配されてゆく。
だけど、そんな周りとは正反対に僕の心の中は晴れやかな青色の空が澄み渡りテンションは最高潮に達していた。
これは間違いない!ようやく長年待ち望んだ、異世界転生する時のアレに違いない!
気持ちが激しく高揚し、体が震えるがそれは恐怖から来るものではなく喜びから来るものだった。
逸る気持ちを抑えつつ、どうやって転生するまで漕ぎ着けるか様々な方法を脳内で模索していると、流川くんが震えた声で叫ぶ。
「み、みんなぁ!落ち着いて、まずは避難するんだ!僕は先生を呼んでくる!」
その声にみんなは固まる足を動かして我先にとグラウンドを離れようとする。
え、待ってくれ、それはダメだ!せっかくの転生チャンスなんだよ!これを逃したらもう一生訪れないかもしれないんだ!
僕がクラスで確立するキャラにそぐわない大声で適当に「生徒の独断で動くのは危険だ!」と、みなを静止させようと一歩踏み出したその時!
その場にいる全員の体がぴくりとも動かなくなってしまった。
「お、おい!体がう、動かな・・・」
力を入れてみても無駄だった。
すると地面にクラス全員を囲う巨大な魔法陣が出現した。
その魔法陣は空の色と同じ赤黒い魔法陣で気づけば空にも同様の魔法陣が描かれていた。
「いやぁー!助けてぇーお母さーん!」
「ちっ!全然動かねぇ!ちくしょう!」
「嫌だぁ!まだ死にたくないよ!」
ついに男子にも泣き出す者が現れる。
そんな悲痛な生徒たちの嘆きを無視するかのように魔法陣は一際強い光を放つと、空からは眩い光が降り注いだ。
悲鳴を上げながらも僕を含めた生徒たちはその光に包み込まれ、光の中では一人また一人とビュンッと音を立てて消えいく。
これは絶対転生するやつだろ!
僕は薄れゆく意識の中でこれからの人生に期待し胸を弾ませながら、意識を手放したのであった。




