メロンパン爺曰く、
「全く。今時のメロンパンは……」
スーパーの棚に並ぶメロンパン爺が、若手メロンパンたちに向かって言う。
「甘ければいい。ふわふわであれば良い。軽ければいい。そう言って、何人もの肥満児を出してきた。恥ずかしいと思わんのかね」
若手メロンパンたちは反論する。
「なんだとー! 形がひまわりの種みたいなジジイの癖に!」
特にメロンパンギャルは、小麦肌のクッキー生地を自慢気に見せびらかし、ケタケタ笑いながら言った。
「昔のメロンパンはもさもさしてて、メロンって感じじゃないね。イケてないよ! それに白餡だなんて。お供え物の栗まんじゅうじゃないんだからさ。派手にクリームとか入れちゃえば良いのに。北海道産のね! アタシはチョコメロンパンだよ。美味しいんだから!」
それにメロンパン爺が激怒する。
「なっとらん! メロンパンの歴史をグチャグチャにしおって! メロンパンは決して派手な主張をせず、ずっしりと佇んでいれば良いのだ。何より気品が大事じゃからな!」
若手メロンパンたちは、カラフルで個性的な身体に自信を持っていたから、メロンパン爺の言葉を受け入れられない。
そんなやり取りをしている時に、親子が来る。メロンパンたちは黙って、(自分こそ選ばれるだろう!)と目を瞑った。
「ねぇお母さん。この変な形のパンなぁに?」
「あら、昔ながらのメロンパンねぇ。懐かしい」
親子の会話に内心、(そうじゃろ。そうじゃろ)と喜ぶメロンパン爺であった。しかし棚に戻される。
「今はこんなに種類があるのねぇ。りく。何が良い? 選びなさい」
「はーい!」
メロンパン爺は悲しくなった。話題には上がるけれど買っては貰えないことに気づいたからだ。りく君はメロンパンギャルを手に取って、「チョコ好きー!」と籠の中に入れた。
(ふん。どうせ若モンには良さが解るまい)
その後も、メロンパン爺は売れ残り続けていた。果てしなく悲しくなったのか、メロンパン爺は独り言をぶつぶつ呟いていた。
「ふん。最近の日本人は伝統も何もかも忘れてしまいおった。素朴でほの甘い繊細な餡の味を忘れて、やいクリームだのチョコだのと、異国文化にかぶれおって。そんなに海外が良いのなら、外国に移住してしまえ……ふん」
メロンパン爺が言い終わる。メロンパン爺は廃棄を覚悟した。その時、
「おぉ、懐かしいねぇ」
腰の曲がった婆さんがメロンパン爺を手に取る。婆さんは、
「夫が大好きだったメロンパン。お供えしておくかね」
籠の中にメロンパン爺を入れた――――
(まぁ、伝統とは、こういうものなのかのぅ……)
昔ながらの味。昔ながらの記憶。婆さんは孫に話し、その孫は、また昔ながらのメロンパンを買ってくる。伝統は、もう少し続きそうだ。