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金魚

作者: つくし
掲載日:2022/11/01

お金とは、生きていくために必要であり、人間はお金のために生きている。

 人間のお金という歯車を抜き取ると、社会は崩壊するだろう。

 お金を追いかけて生きる、まるで金魚のフンみたいだ。金魚のいないとフンはそもそも出てこないし、ただ沈むだけ。人間も同じなのかもしれない。

「……チョウ、ランチュウ、ランチュウ!」

「な、なに?」

「難しい顔してどうしたよ。ハシビロコウか

 よ」

「俺こんなににらみつけてたのか?」

 俺、掛川ランチュウは、友人の雲霧ジョウと花鳥園に来ている。名前の通り、鳥と花が見られる場所だ。

「この子も好きでにらんでないだろ」

「確かに」

「女の子なんだから謝っとけよ」

「すいません」

 ランチュウがお辞儀をすると、ハシビロコウもお辞儀で返してきた。

「え、今、お辞儀された?」

「された……ね」

「親愛の証らしいよ、恋人なのか!?」

「前世で会ってたり?てか、言うなら恋人じ

 ゃなくて、恋鳥だろ」

「確かにそうか。そう言われるとかわいく見

 えてくるな」

「愛嬌あるよね」


     ×     ×     ×


 お金って鎖みたい。鎖を断ち切ってしまえば楽なのかもしれないけれど、それと同時に命を絶ち切ることにもなる。

 どんな優しい店員さんも、友人が経営するお店でも何かを求めれば、お金を請求される。お金を断ち切ると言うことは、人間関係を断ち切ることにもなる。イチともね。

「おい、ネム行くぞ」

「え、もう?」

「もうって、三十分近くクジャクを見てる

 ぞ」

 私の名前は木野ネム、それと彼氏の二の丸イチ。

 元々は、高校の野球部の選手とマネージャーの関係だった。高校卒業するときに、私から告白した。あれから一年は経っている。

「クジャクの目に魅了されちゃって」

「羽広げてるのは求愛行動らしいぞ」

「え、照れちゃう」

「その子女の子だぞ」

「男っぽかったってこと?」

「じゃないか?野生っぽいし」

「待って、野生っぽいってなに?」

「野蛮ってこと」

「ちょっ、オブラートに包んでよ!」

「認めはするんだな」

「みんなから散々言われるもん」

「俺はそういうとこに惚れたんだけどな」

 真っ赤にしたネムの顔から湯気が出ている。

「やばいって、火事になるって」

「んー、好き!」

 イチに飛びつくネム。

 クジャクの羽の模様のように、周囲の目が二人に集まる。

「いつもありがとね」

 ネムの頭を撫でるイチ。


     ×     ×     ×


 お金はおっかねー。

 はあ、普段からこんな下らんことを考えてるから、私にはいつまで経っても白馬の王子様は現れないんだろうな。

 いや、白馬は嫌だな、そこそこの高級車がいいし、王子様じゃなくて、優しくて、そこそこなイケメンがいい。

 さいあく、私が迎えに行くから、連絡先だけ教えてくれないかな。

 サンタさんへ、今年のクリスマスはそこそこの(以下略)の連絡先を三十人分頂けないでしょうか?バツの数は気にしません。お願い致します。

 星野ココ、彼氏募集中です☆

 ん?なんだこの花は?

 なぜいい年してそうなフレーズを並べる女が花鳥園というテーマパークに来ているかと言われれば……ナンパ待ちである。

 私の趣味はナンパ待ちなのである。駅前に行かない理由は、行きすぎて顔が割れているからである。

 アイビーゼラニウム?花言葉は……真の愛情?結婚?これ、持って帰っていい?

 で、こっちの花は……ストレプトカーパス?花言葉は真実、清純な愛……花を見てるだけでお腹いっぱいだぁ。

 でも、花はいいよね。動かなくても、粉を飛ばせば、どこかの誰かが受け取って、それで子孫繁栄?楽ね。実質結婚だし。私もお金ばらまいてやろうか。


     ×     ×     ×


「これ、どうなってるんだ?」

「なんで、人が浮いてるんだ?」

「なんか泡吹いてるし」

 ランチュウとジョウが見上げている。

 そこへネムとイチがやってくる。

「これは夢?」

「ほっぺたつねっても痛いよ」

「俺らもいずれああなるのか?」

「わからない、それより……」

「あなたたちは……」

「誰なんですか?」

「私たちも知りたいんですけど……」

「ここにいる人で、地に足つけてるのは俺ら

 だけだな」

 こっそりとココが歩いてくる。

「若さ……かと思ったけど、三十路っぽい人

 もいるし」

「誰が婚期遅れの夢見がちばばあだ!」

「そこまで言ってないけど……」

「一旦落ち着いて、警察に連絡しよう」

 ジョウがスマホを取り出す。

「だめだ、圏外になってる」

 外への扉を確認しに行ったネムから声が飛んでくる。

「扉も、開かないー」

「閉じ込められたってことか」

「いや、上見てみろ」

 五人が一斉に見上げる。

 上空の出口は、金魚鉢の口のようになっている。泡を吹き、浮いている人はみなそこから外へ投げ飛ばされている。

「浮かないと出られないってこと?」

「そうみたいだな」

「どうやって浮くんだ?」

「ちょっとー私、若くないけどー」

「出る必要ってあるの?」

 ランチュウのその一言で場が静まる。

「いや、閉じ込められてるんだから、つまり

 出られないことで、緊急事態なわけで…

 …」

「出て行った人に任せればいいし」

「あのー……」

 ネムが言いにくそうに声をかける。

「そうはいかないかもしれないですよ」

 五人の背後に忍び寄る影。それは、歩いてきたのではなく、飛んできたわけでもなく、泳いできたのだ。

 大きなひれを震わせ、にらむようにランチュウたちの前に回り込んできた。美しい姿ゆえに見惚れているところで、ココが口を開いた。

「ちょ、ちょっと、これやばいんじゃない

 の?」

「なんでこんな巨大な……」

「金魚、なのか?」

「ばか、金魚はもっと小さいだろ」

「だって、どこからどう見ても金魚じゃ

 ん!」

「俺らが小さくなってるのか?」

 ジョウの一言で、四人がジョウを見る。

「もしかして、ここ、金魚鉢の中だったり…

 …」

「泡を吹く人、金魚鉢のような出口、そして

 金魚」

「一致してしまったな」

 少しずつ、金魚はランチュウたちとの間を詰めてきている。

 そして、地響きが轟く。

 ランチュウたちがよろめき、膝をつくと、それは遅れてやってきた。

「ガルルルルル……ガオオオオ!」

 全員が耳を押さえた。音が痛みに変わるのを初めて体験した。いや、痛いなんてもんじゃない。重い。重力に耳が、鼓膜が、押しつぶされているようだった。

 そして、金魚は口を大きく開け、ランチュウたちを飲み込もうとした。

 なんとか全員回避できたが、まだ耳が麻痺している。

「ネム、大丈夫か?」

「な、なんて?」

「耳がやられてる。声じゃ届かない」

 音がなく、金魚に追われる恐怖から各々逃げ出した。


     ×     ×     ×


「もう、どうなってるのよ!」

「最年長なのに、落ち着いて下さいよ!」

「落ち着いてられるか!てか、歳は関係ない

 でしょ!」

「言い争ってる場合ですか。今は協力しなき

 ゃですよ」

 ランチュウ、ネム、ココの三人は花の中に隠れていた。

「これ、逃げられるの?」

「倒さないと出られないとか?」

「あんな化け物を?」

「一旦、今は耐えるしかありません。対抗す

 る術が見つかるまでは、観察に徹しましょ

 う」

 ネムとココが頷く。

「伏せて、やつが来る」

 息を殺し、真上を通る金魚を視線で追う。口からよだれがたれている。

「あの金魚……」

「喰う気満々ね」


     ×     ×     ×


「やばい、どうしよう、ネムが心配だ。やば

 い、どうしよう、ネムが……」

 同じことを延々と呟くイチと身を潜めているジョウ。呆れた顔で見ている。

「そろそろ切り替えて、助かる方法を考える

 ぞ」

「ネムが、ネムがいないと……」

「おい、その大切な彼女を助けるための方法

 を考えるっつってんだろ!シャキッとし

 ろ!」

「だって……」

 ジョウはイチの頬を両手で思いっきり挟

 む。

「いいか?失ってからじゃ遅いんだぞ?守れ

 るもんは守れるうちに動かねえと後悔する

 ぞ!」

「お前、なんで、そんな……」

「昔な、大切な魔法少女 ライオン☆ゴール

 ドの限定フィギュアを机に飾ってたんだ。

 そのうちコレクションケースに入れようと

 思ってた。でも、動かなかった。その結

 果、机に身体が当たった衝撃で倒れて……

 ああ、思い出しただけで涙が……」

 ジョウの手を離し、立ち上がるイチ。

「俺は……シルバー☆タイガー派だ」

「お前……!」

 目を輝かせるジョウ。

「ここから出られたら、変身ごっこしよう

 な」

「いいぜ。ネムには内緒にしといてくれよ

 な」

 背中合わせで立つ二人からはオーラが出ている。ジョウからは金の、イチからは銀の。その姿は金閣、銀閣を想起させる。

「おそらくだが、あいつの弱点は鼻だ」

「どうしてわかる」

「あいつの鳴き声といい、顔いい、ライオン

 に似ていると思わないか?」

「でも金魚なんだろ?」

「そうだ、ただ、動物は共通して鼻が弱い。

 きっとやつも鼻が弱いと思うんだ」

「それ、もしかして?」

「そうだ、魔法少女 ゴールド☆ライオン第

 三話に出てきたやつを倒した時に用いられ

 た戦法だ」

「ただ、あいつは浮いてるぜ?」

「俺らを喰いにくるときだけ、地上にくる。

 その時を狙うんだ」

「なるほど、そこで鼻を攻撃すると」

「そうだ。俺が注意を引くから、イチ、お前

 が鼻を思いっきり殴るなり蹴るなりやって

 くれ」

「それは、ジョウが危険すぎないか?」

「この状況な時点で十二分に危険だよ」

「命優先で動いてくれよ」

「ああ、約束する。行くぞ!」


     ×     ×     ×


 ランチュウたち三人は身を潜めたままでいる。

「あの二人はどこ行ったのよ」

「はぐれちゃいましたね」

「あんた男でしょ?なんとかできないの?」

「倒すってことですか?」

 ココが頷く。

「何か良い案があれば考えますけど」

「体内に入って、攻撃……」

「却下」

 やや落ち込むココ。そんなココより、ネムは深く沈んでいた。

「ちょ、ネムちゃんだっけ?大丈夫?」

「イチが……心配で……」

 ネムの瞳から一粒のしずくが落ちる。

 ココは我慢に我慢を重ね、恋人を妬む気持ちを押し殺した。

「きっと、彼氏くんの方が心配してるから、

 あんたは信じて待ちなさい!それしか頼れ

 る道残されてないし」

  ココはランチュウを見る。

「なんですか」

「なんもないですよーだ」

 あっかんべするココ。

「あ、ここにいた」

「びっっっっっくりしたぁ……」

  尻餅をつくココを押しのけ、イチに飛びつくネム。

「怖かった、怖かったよ、イチ」

「ごめん、遅れた」

「来てくれるって信じてた」

 歯ぎしりを延々とするココ。

「おーい、化け物―こっちだぞー」

「ジョウ!?」

「あの子何やってるの?死ぬ気?」

 ジョウが金魚に向かって手を振る。もちろん、金魚はジョウに気づいて、向かってくる。

「何か思いついたんですか?」

「可能性の範疇だけどね。ちなみにあれはお

 とり」

「お、来た来た。美味しいぞー俺はー」

 金魚の影は、ジョウを完全に飲み込んでいた。上から徐々に近づいて、近づいて……ジョウが逃げだそうとしたとき、ジョウの身体が浮いたのだ。

「えっ」

「身体が浮いてる!?」

「おい、何やって……逃げろよ!」

「やばい、え、なんで、座れてる!?」

 イチの必死の叫びも届かず、ジョウは金魚に吸い込まれていった。

 金魚はその勢いのまま、地面に衝突した。

「お前―!このー!」

「イチ!待って!」

 イチは金魚の鼻の辺りめがけて駆けだした。右手を硬く握り、銀のオーラをまとわせ、狙い定めて放つ。

「銀虎殴-ぎんこのおう-」

 しかし、金魚はびくともしない。

「イチ!逃げて!」

 口を地から離す金魚。同時にイチが吸い込まれていく。

「いやだ、いやだ、助けて、ネム……」

 吸われるイチの手を掴みに飛び出したネム。イチの手を掴むも、徐々に引っ張られ、ネムもろとも金魚の口の中へと姿を消した。

「えっ……」

「食べられた……」

「がルル……」

 ポカンと口を開け、立ちすくむしかないランチュウとココ。

 そんなことを気にもせず、金魚は二人の目の前にやってきた。

「逃げな……い……と……」

 逃げようとした足はすでに浮いていた。

「王子様はあの世で待ってるみたいね」

 死を悟り、合掌するココ。頬に涙の川が流れる。そして、飲み込まれる。

「俺は、死なない!」

 ランチュウは金魚の口を掴み、必死に抵抗する。

「なんなんだよ、こいつ!おっかねーな!」

 その一言で金魚は吸い込むのをやめた。そして、宙へ投げ飛ばされるランチュウ。

「助かっ……」

 そう思ったのと同時に、金魚はランチュウをパクりと食べた。

 お金を追いかけて生きる、まるで金魚のフンみたいだ。金魚のいないとフンはそもそも出てこないし、ただ沈むだけ。人間も同じなのかもしれない。

 今日も、人類は、金魚鉢という檻で過ごしている。


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