◇主婦のはなし(第9話)
ついに愛実の怒りが爆発してしまいましたね!
険悪なムードのなか、いったいふたりはどうなったのでしょうか?
続きはこちら。
昨晩、健治は眠れなかった。
同じ寝室で寝るのは遠慮して、リビングのソファーで横になったものの、愛実の言葉たちが頭から離れない。
健治は額にすこし湿った手のひらを当てると、目をつむった。
愛実が自分に対してあんな気持ちを抱いていたなんて……。
俺といると息が詰まるのか?
俺は他の家の旦那と比べてなんなんだ?
俺だって精一杯働いているんだ!
怒りと悲しみが健治の中で交差しては絡み合う。
もうすぐ日が昇る、どんな顔をして会えばいんだ。
そのころ、愛実も眠れぬ夜を過ごしていた。
いままで思っていたことは全部言ってやった。
すこし言い過ぎだっただろうか……。
いやまだ足りないかもしれない。
健治は昔から「わかった」が口癖だ。あれだけ言ってもこたえていないかもしれない。
最悪離婚となった場合、穂乃は私が絶対に引き取る。
決意を胸に目をもう一度つむるも、いままでの健治への不満が言葉となって頭の中で暴れ回って、気が散ってやっぱり眠れない。
愛実は深くため息をつくと、ふと窓の外を見た。夜は明け、あたりはだんだん白く明るくなっている。
神崎家に、今日も新しい一日がやってきた。
愛実が朝はやくからキッチンに立って朝食を作っていると、リビングで寝ていた健治が起きてきた。
が、愛実も健治もお互い目を合わさない。
気まずい雰囲気だけが流れているなか、健治が口火を切った。
「昨日の愛実の発言だけど、俺といるとほんとうに息が詰まるのか?」
……。
「他の家の旦那がどうこう言ってたけど、それを言うなら隣の佐藤さん家の奥さんはいつもにこにこ笑って挨拶してきて、お裾分けもくれて親切でやさしいよな」
健治は思わず余計なことを言ってしまったと愛実の様子をうかがうも、何事もなかったように淡々 と朝食を作っている。
「何とか言えよ!」
健治の怒声に、愛実が言い返そうとキッと睨んだ瞬間、穂乃がとぼとぼ2階から起きてきた。
「おしっこ」
「おしっこ?じゃあ一緒にトイレ行こっか」
愛実は穂乃の背中に手を当てると、一緒にトイレへと向かった。
タイミング悪すぎだろ、と思いながら健治はだんまりな態度の愛実にイライラを抑えきれず、リビングのソファーに座って貧乏揺すりをはじめる。
ふたりがトイレから戻ってくると、テレビから最近子どもたちのあいだで人気の歌が流れてきた。
「パパイーヤ~おいしい南の島のー果実~♪」
穂乃は思わず、わぁ!と言うと、つられて歌って踊りだす。
「なんか、たのしいね」
娘からの意外な一言に愛実は目を瞠ると
「保育園行けないけどおうち楽しい?」
とその場で脚を折って尋ねた。
すると、穂乃はまるくやわらかな頬を持ち上げて
「だってパパとママとまいにちいっしょにいられるもん」
と言ってにっこり笑った。
愛実と健治はお互い目を見合わせると、小さな、小さな、穂乃を見つめた。
——私はいったいなにを考えていたの……。
——俺はいったいなにを考えていたんだ……。
穂乃の透き通った瞳からは、父親である健治と母親である愛実への〝大好き〟と、一片の曇りもない〝信頼〟が伝わってくる。
穂乃……。いつもさびしい思いをさせちゃってごめんね……。
愛実は顔を覆うと、漏れる嗚咽に堪えながらむせび泣いた。
「ママどうしたの?」
穂乃はかがんで下から愛実の表情を伺おうとするも、なにが起きているのか小さな穂乃にはわからない。
健治はソファーから離れ穂乃に駈け寄ると、その場で脚を折り、眉毛をハの字にして困った顔をしながら
「心配かけてごめん。パパが悪かったんだ。パパがママのことをたいせつにできなかったから、ママは悲しくなったんだよ。こんな小さな穂乃だって、ママのことたいせつにできてるのにね。ほんと、パパはだめだなぁ」
と言った。
穂乃は健治の話をじっと聞くと、愛実にぎゅっと抱きつき「ママいいこいいこ」とやさしく頭をなでた。
そして健治にもぎゅっと抱きつくと「パパいいこいいこ」とやさしく頭をなでた。
愛実と健治はその穂乃の行動に、まだ自分たちの知らない娘の成長を感じ、お互い目を見合わせると、ほほ笑み、うなずき合った。
それから健治は穂乃をぎゅっと抱きしめて「穂乃、ありがとう」とやさしく頭をなでると、「愛実、俺が悪かった」と愛実に謝った。
愛実はううん、と首を横に振ると「お腹空いたね。朝ごはん食べよっか」とふたりに笑いかけた。
お読みいただき、ありがとうございました!
よかったら、感想を訊かせていただけると幸いです。
メリークリスマス!
みなさんのところにサンタはやってきましたか?
私のところには相変わらず来てません(´;ω;`)ウッ…(当たり前)
そして、もうすぐ年末ですね。
みなさんは少しずつ大掃除に向けて準備されてますか?
作者は掃除がだいの苦手です(;´・ω・)
今年最後の連載、読んでくださってありがとうございました!
また来年もよろしくお願いします。