♠独り身のはなし(第7話)
悩みがないことに悩みを感じていた、智樹。
あれからどうなったのでしょうか……?
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「悩みが……ない」
衣食住は何不自由ないし、ひとりは楽で寂しくもない。いまの会社に不満もなく、人間関係もまず まずといったところだ。
なにも無理矢理悩みを作ることはない。変化しない人間がいたっていい。智樹は大量に借りてきたマンガに手を伸ばすと、割り箸でポテトチップスを食べ始めた。じかに手が汚れるのはなんとなく抵抗がある。
マンガに読みふけっているとスマートフォンから着信音が鳴った。
智樹は持っていた割り箸をポテトチップスの袋の中に置いて、慌てて電話に出ると、同僚の神崎からのビデオ通話だった。
「よっ、お疲れ!リモート飲み会しようぜ」
画面に映るのんきな同僚が最強に疎ましい。
いま漫画が最高にいいところなんだが。
心を閉ざしていたタケシが、憎きデグレーダーを旅の仲間とともに倒し、いまはなき恋人のテレサの仇をやっととることができて、声を上げて泣いているところを、旅の仲間がやさしく抱きしめているところなんだ!こんな神回あるか!?
だがそれではリモート飲み会を断る理由にはならない。神崎はけっこう根に持つタイプだ。それに普段はいいヤツだし少しくらいならいいか……。
「おう。お疲れ。ちょっと待ってて、いまお酒持って来るから」
特に飲みたい気分ではないが、自分だけ飲まないのでは場がシラけてしまう。
冷蔵庫から智樹が酒を持って来るなり
「知り合いの台湾人の設計士が会社に頼んで帰国させてもらったらしんだが、あれって絶対コロナに ビビったからだよな。だって、台湾は敏腕な指導者がいるから安心だし、それに……」
と神崎はいつもの世間話を始めた。
へー、そうなのか、と智樹が平坦な声で答えたところ、パソコンの向こうから女性の声が聞こえてきた。
奥さんだろうか。よく耳をすませると、どうやら娘さんをお風呂に入れてほしい、とお願いしているようだ。これなら早々にリモート飲み会も終了するだろう。
「ちょっといま話中なんだよ。大事な仕事の話なんだ」
え、こんな飲み会いつでもいいじゃないか。
智樹は急いで「神崎、奥さん困ってる感じだけど大丈夫か?」とはやく終わらせたい感を出す。
「大丈夫、大丈夫。いつもあんなんだから。それより田浦は独身でいいよなー」
たしかに独り身で苦労をしている実感はない。でも自分だっていつかは誰かと一緒になって、子どもができたり、苦楽をともにしたいという憧れもある。
なんなんだ、こいつ。
それから約1時間神崎のどうでもいい話は続き、やっとリモート飲み会は終わった。
スマートフォンで時間をチェックすると午後8時45分だった。『ユアスト』の集合時間は9時である。智樹は急いで出前を注文する。
「戦の前に腹ごしらえっと~」
もちろん今日もピザである。ドレミピザは何度食べても飽きない。もはやチーズ中毒だ。
『ユアスト』にログインすると、すでにパーティーを組んだみんなが集まっていた。
裏木:「みなさん、こんばんは。お疲れ様です~」
マユ:「お疲れ様です。明日、朝はやいので、途中で抜けます、すみませんm(__)m」
くればぁ:「お疲れ様です。俺も彼女とデートなのでさっさとラスボス倒しちゃいたいです!」
Miki:「お疲れ様です。私も明日、彼氏とデートなんです。はやめに寝ないと」
みんな忙しんだなぁー。ってかMikiさん彼氏いたんだ。
智樹は自分が予想以上にがっかりしていることに気づく。
俺も、誰かと過ごしたい……。
智樹は休日に過ごす相手がいないことに戸惑いを感じ、急に焦燥感に駆られた。
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今月の25日にはクリスマスですね。
街はネオンがピカピカと光り輝き、まばゆいばかり。
ついに、今年も恐れていた日がだんだんと近づいてきています……!
軽くメンタルダウンです(´;ω;`)ウッ…
みなさんはクリスマスになにかご予定はありますか?
作者は今年もクリぼっちです(´;ω;`)ウゥゥ
コノヤロー!
カップルのあいだを平泳ぎしてやりたい!笑