♣ホームレスのはなし(第4話)
私ひとりの力では完成できなかった作品です。
コロナはいま日ごとに収束に向かっていますが、執筆当初は日本は、世界は大変なことになっていました。
少しでも共感して読んでいただけたらうれしいです。
続いては、ある老人のお話。
「寒い……」
坂口秀毅は寒さで目が覚めた。
吐く息は白く、まるで自分の魂が抜けていくようだ。
ワシは、このまま死ぬしかないのか……。
眠気まなこで空を見上げると、東の空がだんだん明るくなっていた。
慣れないホームレス生活のなかでも、ただひとつ得られたものと言えば〝太陽〟だ。
日が昇れば自然と目が覚めるし、日が沈めば寝るしか選択肢はなくなる。
いま何時かわからないが、時間の拘束もいまの自分にはない。
秀毅はうつろな目をしてもう一度空を見上げると、またふたたび眠り始めた。
ガラガラと音を立ててすりガラスの戸が開くと、たみが「いらっしゃいませ、何名様ですか?」と客に声をかけた。
入ってきた先頭の客は「よう、たみさん。3名でお願い」と言って口角を上げると、「よう、大将」と秀毅に向かって手を挙げた。
それを見て秀毅は「山ぐっちゃん、お疲れさん。いらっしゃい」と歓迎する。
秀毅はこの居酒屋『十兵衛』の店主で、妻のたみとふたりできりもりしていた。
ちなみに十兵衛という店名は、秀毅が好きな池波正太郎の時代小説『編笠十兵衛』から取ったものだ。
山口を含め入ってきた客3人は、さっそく生ビールを頼むと乾杯した。
ごく、ごく、と喉を鳴らす子気味のいい音が店内に響き渡る。
「かぁ~っ!やっぱ仕事のあとの1杯はウマいな~!」
山口は顔をくしゃりとして気持ちよさそうに声を上げると、
「今日は部下を連れて来たんだよ」
と自慢げに秀毅に紹介した。
紹介された若い男性ふたりは秀毅に軽く頭を下げる。
「ゆっくりしてってくれ。山口の話は力が入り過ぎて、すぐに熱血になっちまうから多少絡みづらいところもあるが、いい奴だってことはワシが保証する。だから、これからも見捨てずに慕ってやってくれ」
秀毅の言いように
「そんなこと大将から言われなくても、お前ら俺に一生ついて来るわなー?」
と山口は両肩に若い部下たちを抱えると、その顔に急接近した。
若い男性2人はどう返答したらよいのかわからず、苦笑いをしてその場をごまかす。
「こりゃパワハラだな。何かあったらいつでも店に来てくれ。ワシが説教してやるから」
と秀毅は笑った。
「冗談きついなぁ~」と山口も笑う。
山口はサラリーマン時代の同期で、秀毅が働いて貯めた金でこの居酒屋を開いてから、ずっとここの常連客だ。
年配2人で盛り上がっていると、料理が運ばれてきた。
手羽元にチーズの肉巻き、もつ煮込みにポテトサラダなどがテーブルに並ぶ。
山口は手羽元を一口食べると「うん」と大きくうなずいた。
「やっぱ、おかみさんの料理はウマいわ~!酒にもよく合うし、言うことない!」
山口からの絶賛に
「ありがとうねー。そんなに上手言ってくれるなら、だし巻き玉子プレゼントしちゃう」
とたみはうれしそうに口角を上げた。
「よっ!待ってました!」と山口は合の手を入れる。
思い切って脱サラしてから店を開くこと約3年……。
常連客も次第に増えていき、売上も好調。営業時間も大幅に長くし、朝まで飲める店にした。
それは秀毅の些細な夢だった。
酒を片手に語り合う。その場にいる客同士が個々で繋がっていく——。
十兵衛はもはや、ひとつのファミリーだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
よかったら、感想を訊かせていただけると幸いです。
こんばんは。
ぬぬです。
来週の23日は勤労感謝の日ですね。
みなさん、日ごろお疲れ様です!
祝日でお休みの方は、どこかへおでかけに行ったりするのかな??
休みの日なのに、なにも予定がない私は、さみしさをバネに、小説をがんばって書こうと思います(泣)
(誰か、友達になってください 切実)