♠独り身のはなし(第3話)
私ひとりの力では完成できなかった作品です。
コロナはいま日ごとに収束に向かっていますが、執筆当初は日本は、世界は大変なことになっていました。
続いては、独り身のお話です。
少しでも共感して読んでいただけたらうれしいです。
田浦智樹は規則正しく起床した。
とくに眠気などは残っておらず、今日も起床後の感じはスッキリとしている。
就寝前のマインドフルネス瞑想の効果は抜群だ。
足取り軽くベッドから起き出すと、歯磨きと洗顔を済ませ、コーヒーをドリップしてトーストを焼いた。
独り身のため基本的に凝った料理を作ろうとは思わない。
食べられてお腹が満たされればそれでじゅうぶんである。
コーヒー片手に朝のニュースをスマートフォンでチェックすると、早速仕事へ取りかかった。
智樹は機械設計に携わるエンジニアで、基本的にパソコン一台あれば仕事ができる。
午前中は10時からリモート会議、午後からは各自でひたすら図面を設計、終業後はリモート飲み会と比較的自粛前と同じ毎日を送っているが、リモート飲み会の頻度さえもうすこし少なくなれば、たいして苦ではない。もともとインドアなため、ひとりでも快適に過ごせるタイブだ。
パソコンに表示された時刻を見ると、もうすぐ午後6時になろうとしていた。
そろそろ仕事を終わらせようかとスマートフォンで出前を検索する。今日はピザの気分だ。
ほしいものは通販でなんでも手に入る。食料品、日用品、ミネラルウォーターに朝食のパンまで。 便利な世の中になった。
ピザの到着を待っているあいだに、最近ハマっているオンラインゲームを起動させた。画面に『ユアスト』の4文字とキャラクター8人の絵が表示される。
早速ログインすると、オンライン上のみんなにチャットで話しかけた。
裏木:「みなさん、こんばんは。お疲れ様です」
裏木とは智樹のハンドルネームで田浦の「うら」と智樹の「き」を適当にもじって作った。
Miki:「こんばんは~まだ、みなさん集まってないみたいです。あと10分ほど待って来なかったら、今日はラスボス退治やめときますか?」
裏木:「そうですね。そのあいだに雑談でもしますか?」
と、そこまで打ったとき、インターホンが鳴った。
智樹は「ピザピザ~」と胸を弾ませ玄関に向かう。
それからすこし長めに15分ほど待ったものの、結局『ユアスト』ではメンバー全員揃わず、今日は解散となった。
智樹はまぁこんな日もあるさ、と特に機嫌を害することもなく適当にテレビをつけると、ちょうど ニュースがしていた。
そこでは家にいるのが苦痛な人達のリモートインタビューが流れていた。
「毎日夫といるのが耐えられない」40代主婦
「妻とのセックスレスが耐えられない」20代自営業
「夫がいまさら子育てに口出ししてくる」30代主婦
「ずっと理想的な夫・父親でいるのに疲れた」30代会社員
「ひとりが孤独で耐えられない」20代公務員〉
テレビからは世の中の様々なひとの悲痛な声が聞こえてきた。それは深刻で、智樹の心に深く焼き付いた。痛みなどないのに、智樹は自然と胸を抑える。
それに比べて自分はなにを悩めばいいのかまったくわからない。胸に当てた手でそのままトントン、としてみるも、言葉では表せられない焦りが不穏な高鳴りを加速させる。
どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく、どく……
乱れる呼吸をなんとか整えながら、智樹はだんだん悩みがない自分が世の中とズレていて、おかしいのではないかという疑念を抱き始めた。
お読みいただき、ありがとうございました!
よかったら、感想を訊かせていただけると幸いです。
こんばんは!
第3話もお読みいただきありがとうございました。(果たして読者がいるのかわかりませんが)
なかなか「小説家になろう」のサイトになれない今日この頃、紅葉を見に行ってきました。
徐々に色づき始めた紅葉が広がる景色を眺めていると、少し癒されて、またがんばろう、と思えました。
自然ってステキですね。