♣ホームレスのはなし(第11話)
「何が明けない夜はないだ!馬鹿野郎っ!」
秀毅の栄枯盛衰が夢に出てきましたね。
その後どうなったのでしょうか?
続きはこちら。
秀毅は偉く感動した。
あの青年は一体誰だろう——。
「おはようございます」なんて言われたのはいつぶりだろうか。
そして、あの輝く笑顔——。
秀毅の胸に熱いものが込み上げ、全身を駆け巡る。
そして、すこし笑うと「あいつに似ているなぁ」と懐かしくなって空を見上げた。
会社員時代、秀毅にはいつも自分を慕ってくれる後輩がいた。
名前は敬礼寺元気。
「坂口先輩、お疲れ様です!」
元気は定時だというのに疲れた顔ひとつ見せず、きちんと頭を下げると、はつらつと秀毅に向かって挨拶してきた。
あぁお疲れ、と秀毅が言うと、
「今日も残業ですか?」
と元気が尋ねてきた。
「あぁ、そうなりそうだな。やってもやっても仕事が片付かん」
秀毅は書類の山を遠い目で見るなりため息をつく。
そんな秀毅を見て
「よかったら、自分も手伝いましょうか?」
と元気が申し出たものの
「いや、これは俺の仕事だから、敬礼寺にはさせられんよ」
と秀毅が断ると、元気は
「そうですか……。なら、コーヒーと夜食買って来ましょうか?」
と思いついたように訊いてきたので、秀毅は
「気が利くじゃないか。頼むよ」
と仕方なく甘えることにした。
数十分後、元気がエコバックと紙カップのコーヒーを抱えて戻ってきた。
紙カップの洒落たロゴは、気を遣ってかあの有名コーヒーショップのものである。
なにもそんな高いもの買って来なくとも、コンビニの缶コーヒーで自分はいいのにと秀毅は思っていると、元気がそろり、そろりと近づいてきた。
紙カップにはすぐに飲めるようにとの配慮か、飲み口が開けられている。
「先輩!コーヒー買って来ました!」
と元気が秀毅に紙カップを渡そうとした瞬間
「あっ、あ——————っ!!」
と元気がなにもないところでいきなりこけるのと同時に、コーヒーが元気の悲鳴に押し上げられるように宙に浮いた。
バシャッ。
大量の書類の上にコーヒーがこぼれ、ドミノ倒しのごとく見事に広がって行く。
「申し訳ございません!今から自分がすべて印刷し直します!」
元気が平身低頭で謝罪するのを秀毅は制すと
「いや、いいよ。この調子だと遅くなるだろうし、そろそろ帰りな」
と促したものの
「いや、これは自分のせいなので、最後まで責任を持ってすべての書類を揃えます!」
と元気はいっこうに引き下がらなかった。
秀毅は正直迷ったが、本気で反省している元気の様子を見て、そのまま任せることにした。
そして、ひと呼吸置いてから他の仕事に取り掛かかろうとした矢先、
「あぁー!どうしよう!紙が詰まって印刷ができない……」
とまた元気がまた慌てだした。
その姿を見て、秀毅は怒りを通り越し、呆れ果てた。
翌朝、秀毅が出社すると
「坂口先輩、おはようございます。昨日は誠に申し訳ありませんでした!」
と元気が最敬礼で謝罪してきた。
「いや、いいよ。結局全部終わったし。敬礼寺も遅くまですまなかった」
と秀毅が言うと、元気は、いえ、そんなことは、と首を横に振って
「こんな頼りない自分ですが、また坂口先輩のお役に立てたらうれしいです!」
と両手をピンと脚の横に貼りつけると、背筋を張りつめて言った。
その元気の背中から、緊張具合が伝わってくる。
秀毅はこれは考えものだと思ったが、後輩を育てることも自分の役目だと思い返し、あぁ、と答えた。
「ありがとうございます!自分、頑張ります!」
元気ははりきって言うと、ニカッと口角を上げて笑った。
山なりの凛々しい眉。前向きなまなざし。白く輝く歯——。
秀毅は目の前にいる青年の純粋無垢な笑顔を眺めていると、なんだか自分が励まされているような気がして、心強かった。
あいつの笑顔には、他の奴にはないひとを元気にさせる〝何か〟があった。
あの青年がその後輩とふっ、と重なる。
秀毅の全身の血潮はみなぎり、あのころのように熱い力がふつふつと沸き上がってきた。
「もう一度頑張ってみるか」
秀毅は重い腰を持ち上げ立ち上がると、仕事を探しにハローワークへと向かった。
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よかったら、感想を訊かせていただけると幸いです。
こんにちは。
お正月ムードも落ち着き始めましたね。
作者は初詣のおみくじでなんと「吉」を引きました!
大吉並みにいいことが書いてあったので、2022年に期待です!
みなさんはどんなお正月を過ごされましたか?
初詣に行かれましたか?
おみくじは引かれましたか?
コロナの勢力が一気に増して、また日常がスピードを上げて一気に蝕まれていっていますが、どなたにとっても素敵な1年になりますように。
一緒にこのコロナ禍を乗り切りましょう!
あと連載も1回です。
最後までお付き合いいただけたらたらうれしいです。




