♠独り身のはなし(第10話)
休日に一緒に過ごす相手がいないことに焦燥感に駆られた智樹。
その後、どうなったのでしょうか?
続きはこちら。
智樹は今朝、いつもよりはやめに起きた。
朝食を食べ終えると、動きやすいウエアに着替える。今日から早朝ウォーキングを始めるつもりだ。
インドアな自分をきらいになったわけではないが、一日に一度は外へ出ることも大切だ。
智樹は誰かに挨拶がしたかった。とにかく誰かと繋がりたかった。
だが朝はや過ぎたのか、歩けども人ひとの気配はない。
智樹はあちゃーと頭に手をやり、休憩でもするか、と近くの公園に入ると、なんと、ひとりの老人が敷地内を歩いていた。
逃さぬよう、さっそく智樹は走って駆け寄ると「おはようございますっ‼」と勢いよく笑顔であいさつした。一瞬老人は、ハッとして驚くと、つられて頭を下げた。
「早朝からお散歩ですか?」
智樹はさらに老人に話しかけた。
「ええ、まぁ」
と老人は答える。
「早朝の散歩って、気持ちがいいですよね」
と智樹は太陽のように笑いかけると、それでは、とまた元気よく歩き出した。
なんだろう、この爽快感。
なんだろう、この懐かしい気持ち。
「おはよう」、たったこれだけの挨拶でこんな気持ちになれるなんて。
「今日はおはよう記念日だ!」
智樹は両手を空高々と伸ばすと、太陽に向かってバンザイをした。
あれから2週間経った。早朝ウォーキングは1日も欠かさずにやっている。
すれ違うひとたちに「おはようございます」と軽く頭を下げる。ただそれだけで、たとえ一瞬でも誰かと繋がれた安心感で身体がいっぱいになる。
ちょっとした顔見知りも増えた。毎朝同じ時間帯にすれ違うひとたちに出会えると素直にうれしいし、出会えないと今日はどうしたんだろう?と考える自分がいる。
自分がこんなにも他人に興味を持つなんて思わなかった。
そんなことを考えながら今日も早朝ウォーキングをしていると、いつも出会わないひとが前から歩いてきた。
大きなマフラーで口元をすっぽりと覆い隠し、オシャレな眼鏡をかけている。
一緒に歩いている犬はミニチュアダックスフンドだろうか。
智樹はすれ違う瞬間に「おはようございます」と挨拶すると、向こうも「おはようございます」と 不思議な顔をして挨拶してきた。
そのときは気にならなかったものの、それはこの日を境に毎朝続いた。
あの不思議そうな顔は一体なんだろう……。自分が忘れているだけで知り合いだろうか。
智樹の中で謎の女性とすれ違うことは、一日の始まりの小さな楽しみになっていた。
1か月後、いつものようにウォーキングをしていると、謎の女性ともうすぐすれ違うポイントで「ポチー!待ちなさい!」と叫んでいる声が聞こえてきた。
目の前を見るとあのミニチュアダックスフンドがこちらへ向かって走って来ている。
智樹は反射的にその犬を捕まえようとしたが、まっすぐ胸に飛び込んで来たミニチュアダックスにおののき、驚いた拍子に尻もちをついてしまった。
「痛てて……」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
謎の女性は慌てて智樹に駆け寄ると
「こらっ!ポチ、勝手に走って行っちゃだめでしょ」
としかりつけた。
ミニチュアダックスフンドにポチという名前をつける大胆さに思わず頬がゆるむ。
「大丈夫です。尻もちついただけなんで。ポチっていうんですね。かわいい」
ポチは反省している様子などおくびにも出さず、うれしそうにしっぽを振りながら智樹を見ている。
「この子、知らないひとには必ず吠えるのに、いつもあなただけにはなぜか吠えなくて……って、ごめんなさい!なんか毎朝観察してるみたいで、気持ち悪いですよね?」
いえいえ、そんなことは、と智樹は首を振ると
と恥ずかしそうに言った。
……。
言った傍から、俺はいまなにを口走ったんだ!??と智樹の頭は真っ白になり混乱した。
普段非モテであるがゆえに、いっちょまえに慣れないことをすると、なんだか全身がむず痒い。
そんな智樹を見てか、謎の女性はうふっと笑った。
智樹はこりゃまいったと照れながら頭の後ろを掻く。
そしてふたりはお互いを見つめ合うと、おかしくなって笑い合った。
そのふたりのあいだに負けじとポチが割って入る。
ポチはふたりを交互に見上げると、たのしそうに「ワンッ!」と吠えてしっぽを振った。
お読みいただき、ありがとうございました!
よかったら、感想を訊かせていただけると幸いです。
あけましておめでとうございます!
昨年はお世話になりました。
今年よろしくお願いいたします!
今日、初詣でちょっと変わったお寺に行ってきました!
なんとも龍を祀っているという!
お守りも一願成就で有名みたいなので、自分の小説がひとりでも多くの方に読んで頂けるように、お願いしました。
そのお守りをスマホケースに付けたので、毎日祈りたおそうと思います笑
連載も残すところあと2回。
最後までお付き合いよろしくお願いいたします。




