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水を売る男

作者: 岩城吉宗

 「やばいやばいやばい!」

 階段を駆け下り俺はゲームセンターから飛び出し走る。

 遊びすぎた!完全に遅刻だ、今日の塾の講義は18時からだった!

 俺は焦っていた、塾に遅れることに……ではない、もし遅れて母に連絡されたらどうしようそればかりが脳裏をよぎる、なんで遅れたのか友人とゲームセンターに行ってました……なんて言えるわけがない。

 息も絶え絶えになり心臓の拍動が耳元でうるさい、口内は乾き、たんが絡む、ごくりと無理に唾を飲み込みなおも走る。


 「後5分……に合ってくれ」


 自然と口からこぼれた言葉は誰に祈ったのか自分でもわからなかった。


 結果として俺が塾に到着した頃には講義が始まっており、既に出欠を取った後だった。


 俺の通っている塾では最初に全体の出欠を取りその後3人1組ほどのグループに分かれ各グループに講師が1人つき解説などを行う。

 つまり出欠をとる段階でいなければ後々保護者にその出欠の報告が入ってしまう。


 「はあ」

 憂鬱だ、家に帰りたくない。

 家に帰れば母になんで言われるか。


 「あなた高校二年生だからって油断してるじゃない?もう受験は始まってるのよ?あなたには失敗して欲しくないの、これはあなたのためなのよ、わかってちょうだい?」

 耳にタコができるなど聞いたであろう母の言葉がまとわりつく。


 どすっと何かにぶつかりどさどさと何かが落ちる音が聞こえた。

 

 「おっと」

 「す、すいません!」


 ぼーっとしていたせいか前を見ていなかった。

 男は地面に散らばった自分の荷物を集めながら応える。

 「ああ、気にしないで俺もちょっとぼーっとしてた」

 そういって手をぷらぷらと振る男は8月の初旬だというのに深い緑色のコートに黒いスラックスを身につけていた。

 その風貌はいかにも不審者と通報されてもおかしくない。


 「ほんと、すいませんでした。何か大切なものなんでしょうか?」


 「ん?ああ、大丈夫商売道具だよ。」


 さーっと血の気が引く、なんてついてない日なんだ。

 俺は慌てて尋ねた。

 「だ、大丈夫ですか!?」


 「んーまぁ、問題ないよ最悪どうにかなるし」

 男は俺をじっと見つめる。


 ま、まさか弁償なんてことはないよな。


 「そんなことよりおじさん喉乾いちゃってさ、ちょうど手持ちないんだよ」


 そういうと男はすぐのところにある自販機を指差す。

 



「ッハアー、生き返る!ありがとう少年。」

 

 「いえいえ、これで勘弁していただけるのであれば」

 まさか、この時代にカツアゲされるとは思ってなかったが、落とした商品全部弁償しろとか言われなくてよかった、と俺は安堵していた。


 「なあ、少年何か悩みがあるんじゃないか?」

 不意にきた質問に俺は思わず聞き返してしまった。

 「悩み?」

 「ああ、少年くらいの年になると色々あるだろう好きなあの娘に振り返って欲しいとか部活で好成績残したいとか」


 男はそんな当たり障りのないことを言う。

 「そんなの誰にでもあ……」

 「頭が良くなりたいとか」

 男はにやりと不敵な笑みを浮かべ続ける。

 「俺はね、ある商売をしてるんだ

 


 

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