エリアーナ
よろしくお願いします。
わたし、エリアーナ。6さい。今、お母さんと朝ごはんのじゅんびをしているの。
……。
………あれ?
『エリアーナ』…。うん、わたしの名前。でも、私の名前は、『小野木 和泉』で…。『6歳』…?うん。確かにわたしはついこの間6歳になったばかりだけど…。私は25歳独身彼氏無しの一人暮らし…。
……あれ??
「???」
頭に大量の?マークを飛ばしてボーっと突っ立っていると女性の声が落ちてきた。
「エリー?ぼぅっとしてどうかしたの?」
腰まである綺麗なピンクブラウンの髪を毛先10センチ位のところでゆったりとひとつにまとめ、髪と同色の長い睫毛に覆われた穏やかなエメラルドグリーンの瞳には、慈愛に満ちた優しい色が窺える。見た目20歳程の綺麗な女性が少し首を傾げながらこちらを見下ろしている。
「お母さん…」
そう、この女性はお母さん。でも、お母さんと声を出した際には中年な黒髪黒目の別の女性の顔も浮かんできた。これは、どういうことなのだろう…。
そう思っていると、ズキン!!と脈を打つかの様な激しい痛みが頭に走り、思わず顔を顰めて左右のこめかみの辺りを両手で押さえ蹲る。
「!!?」
「エリー!?エリアーナ、どうしたのっ!?」
急に頭を押さえてその場に蹲った私に驚き焦った声を上げながら、私の背中を撫でる手は動揺しているのか震えているが、優しくて温かい。いや、実際には血の気が引いたのか、若干冷たい手ではあったのだけど、温かく感じる様な手で…と、そんな事を思いながら激しい頭痛と同時に頭の中に溢れてくる大量の映像や音声に意識を持っていかれる。そう、これは、『小野木 和泉』の、前世25年分の記憶だ。そして…。
「え…、まさかの、『エリアーナ』…??」
思わずぽつりと溢れる声。その内容までは聞き取れなかったが声が聞こえたらしい今世の母は、必死に私へと声を掛ける。
「エリアーナ!?大丈夫っ??!頭が痛いのっ??!ど、どうしましょう…!ま、待っててねっ、エリー!今、お医者様を呼んで来るからっっ…!」
「っ??」
医者を呼ぶと言って家の奥へと駆け行く母。どういうこっちゃい。ちなみに今世の私の家は、前世でいうところの中世や近代西洋の様な建物に王侯貴族などの特権階級などが存在する世界の所謂庶民というか、平民である。家の大きさもこの世界の一般的な家よりやや小さめであり、そしてキッチンと呼ぶには些か些末なここは、玄関を入って直ぐの場所である。
もう一度言う。どういうこっちゃい。何故か家の中へと消えた母を横目に私の意識はそこで落ちた。
お読み頂きありがとうございました!