私、興味がないので
思い付いたまま書いているので、設定の甘い部分や穴はあると思いますが、気軽に読んで頂けると嬉しいです。
恋愛タグですが、怪しいのは承知の上です………。
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アフェクシオン王国の中心、ニンフェ城の一室。
そこにはいかにも申し訳なさそうな顔をする男性と、空色のドレスを着こなした令嬢の隣でニヤける顔が抑えきれない男性の姿があった。この国の国王と、筆頭の公爵である。
「本当にすまない、アレクシア。息子には愛のある結婚をさせてやりたいと思ってな」
国王のこの言葉を聞いた瞬間、アレクシアと呼ばれた令嬢は顔を少しだけしかめる。それもその筈。今話している内容は、ベルブルク公爵令嬢アレクシアとアフェクシオン王国第一王子ハリソンの婚約解消についてだったからだ。
アレクシアはベルブルク公爵家の長女であり、金髪の緩いふわふわの巻き髪に、左右整った顔。可愛いと言うよりも美人と言われる顔立ちをしている。
彼女と第一王子の婚約は、先代国王の影響力が強い時期ーーもう8年程前の話になるがーーに決定していた。先代国王は〝賢王〟と呼ばれ、この国の技術を発展させた功労者の1人である。この国は妖精に愛される国として栄え今までも発展し続けてきていたのだが、先代国王は妖精に愛される国であるからと驕ることなく、常に国民の事を考え興隆に尽くした。それは現国王が即位してからも続いていたのだが、数年前惜しまれながらも病気によりこの世を去っている。
話を元に戻すが、現国王は元々先代国王の決めたアレクシアとハリソンの結婚には賛成していた。アレクシアとハリソンの年齢差も一歳程度であったし、王国内でも強い権力を持つベルブルク公爵家との縁を繋げるのも悪くないと考えていたからだ。実際一番の要因は先代国王に意見を述べることができなかっただけなのだが。
しかし先代国王が亡くなり影響力がなくなったこと、そしてハリソンから好きな女性ができたと聞いて、親心が出てきたためこの話に踏み切っている。すまない、と口では言いながら彼自身もこの婚約解消はアレクシアも納得するだろう、と思っており、彼女が現在何を考えているか、そして将来がどうなるのかを考えることもなく、彼らは話を進めていく。
「勿論でございます、陛下。それに此方としては、アレクシアから妹のミラに婚約者が変わるだけですから。家としてはなんら問題もありません」
「おお、公爵。そう言って貰えるとありがたい」
「ええ、妹のミラも公爵家生まれですから、妖精に愛された存在でありましょう」
「それもそうだな」
ちなみにこの国が何故妖精に愛されているのか、理由がある。その理由こそが、ベルブルク公爵家なのだ。
数百年前、妖精の愛し子と呼ばれた女性がこのベルブルク公爵家の長男と恋に落ち、公爵家の嫁として歓迎され嫁に入ったとされている。その時の公爵家の優しさに触れた愛し子の女性が、「ベルブルク公爵家に誕生する女児が妖精に愛されるよう祈りを捧げましょう」 と妖精たちに祈ったのが始まりとされている。それ以来、ベルブルク公爵家は必ず女児が誕生し、その女児は妖精の愛し子となり、この国がさらに妖精と人間の共存する国として栄えるようになったのだ。
妖精たちは自身の魔力をアフェクシオン王国の人々に分け与えている。それが昨今の王国の発展の土台になっているのだ。だからベルブルク公爵家の姉であるアレクシアから、ハリソンの想い人である妹のミラに婚約者を変更しても、今までと何も変わらないと考えていた。
「では、公爵。書類の手配を頼む」
「畏まりました」
こうして婚約解消という茶番劇が幕を閉じたのである。
「ふん、これでお前も用無しだ」
馬車の中で対面している公爵とアレクシアだが、その空気は家族と呼べるものではなかった。公爵からは嫌悪の表情がありありと見られるが、彼に睨まれているアレクシアは何処吹く風だ。
「お前はミラが殿下と婚約するまでの中継ぎだ。お前と殿下の婚約解消が成立した今、お前はどこかの貴族に嫁いでもらうぞ。もう名前も聞きたくないし、顔も見たくない」
「でしたら、こうするのは如何でしょうか?」
いきなり喋り出したアレクシアを訝しげに見やるが、彼女の表情からは何も読み取ることができない。声も聞きたくは無かった公爵だが、何を言い出すのかが気になり彼女の言葉を聞くことにする。
「私は元々爵位には興味がありません。結婚して王都で暮らすよりも、婚約が解消されたこの機会に私を領地に戻すのはどうでしょうか」
その言葉を聞いた公爵は何か考え事をしていたようだが、良い案が思い付いたのかアレクシアに向けてニヤリと笑顔を向ける。一方、彼女はただただ冷めた目で外の景色を眺めていた。
**
「ありがとうございました、また来て下さいね!」
婚約解消から数年後、アレクシアはシアと名乗り他国のある街でお店を営んでいた。彼女が売りに出しているのは、アクセサリーである。と言っても、貴族用の高価なものではなく庶民向けの安価な商品だ。
手先が器用で刺繍や裁縫なども得意なアレクシアだったため、その腕を活かして楽しみながら商品を手作りしていた。のんびりとした生活に彼女自身も満足を感じている。
そんなアレクシアの元に、店の客が途切れるのを見計らい1人の女性が入ってくる。その姿は可愛い手作りアクセサリーを購入に来た客、という様子には見えない。理由は軽量の鎧を身につけていたり、左腰には剣を身につけているからだ。彼女もアクセサリーには目もくれず、アレクシアの元にやってきて右腰に付いている袋を手渡した。
「シア、いつものアレだよ」
「あら、リネット。いつもありがとう」
「いいよいいよ、いつも言うけど、良い小遣い稼ぎになるからな」
アレクシアがリネットと呼ばれた女性からもらった袋を開けると、中にはキラキラと光っている石の欠片がいくつも入っている。これは魔石と呼ばれる魔力を封じ込めることのできる石だ。魔石は魔物を倒すと手に入る。
彼女は妖精の力を借りて、この魔石に魔力を封じ込めている。魔力を封じ込めた魔石は店のアクセサリーに使用され、いざと言う時に魔力が発動するように工夫されていた。言わば、防犯グッズのようなものだ。
リネットは、身長が高く金髪をいつも後ろで一つに纏めている。側から見たら冒険者の格好のせいもあり、男性に見られることも多い。アレクシアとの出会いは、彼女がこの街に来た時に酔っ払いに絡まれていたところを助けてもらった、その時からの付き合いだ。
アレクシア自身も魔力を持ちそこそこの使い手であったので、最初は2人で冒険者稼業をやっていた事もあった。
リネットは腕っ節が強い女性なのだが、無茶をするところがあり、いつもアレクシアは心配している。
今日もまたリネットの腕輪の魔石が割れていることに気づき、手を頰に当ててため息を吐いた。
「リネット、また魔石が割れてるわ。無茶しないでね、って言ったのに‥‥」
「‥‥‥すまない」
「まあ良いわ。はい、これ。謝礼と腕輪を渡しておくわね」
「ああ、いつも助かる」
「折角だからもう少しゆっくりしていけば?」
「そうだな、ご相伴に預かろう」
アレクシアはその言葉を聞いた後、一旦店の表に出て休憩中の看板をドアに掛ける。そしてリネットを店の奥のスペースに招き入れると、彼女も言われた通りにいつも座っている椅子に腰掛けた。テーブルにはアレクシアが趣味で作ったクッキーやカップケーキが置かれ、彼女たちの前では紅茶が良い香りを漂わせる。
香りを堪能したリネットが何かを思い出したかのように、ふふふっと笑い始めたのをアレクシアはじろっと一瞥した。
「ああ、ごめんごめん。昔のシアを思い出してね。最初出してもらった紅茶は、色も濃くて凄く渋い苦味まででた紅茶だったなと‥‥」
「まあね、あの時初めて紅茶を入れたからねえ」
「そういえば、それで思い出した。アフェクシオン王国。大変なことになっているみたいだよ」
懐かしい名前を聞いたアレクシアは、目を見開いた。リネットは彼女が王国出身なのを知っている。リネットがアレクシアを王国出身だと見抜いたのは、王国訛りがアレクシアにみられたためだ。彼女も、王国出身と気づくことはできたが、アレクシアがまさか公爵令嬢だったとは思っていないだろう。それに、リネットがアレクシアの過去の事を聞かない理由は、彼女が冒険者だと言うところが大きい。相手の素性を根掘り葉掘り聞かないようにギルドでも義務付けられているので、リネットは彼女を詮索する事もなかった。
「ふーん、そうなんだ」
「あれ、思った以上に淡白だね。母国が心配じゃないの?」
「今はこの国が好きだからあんまり興味は無いわね」
そっかそっかシアらしい、と笑いながらリネットが教えてくれたのは、妖精に愛される王国で妖精が見られなくなり、妖精の力を借りて使用していたこれまでの発明品が使えなくなっていると言う事だった。
妖精がいなくなれば、妖精の魔力を土台として動かす発明品はすべて使えない。具体例をあげるとすれば、ランプか。ランプは妖精に魔力を借りて光を灯すものであるため、ランプが使えなければ蝋燭に火を灯すしかない。それ以外にも、火を付けたり水を出したり、食料を保存するのにも妖精の力を使っていた。一気に不便になるのは目に見えている。
「噂では妖精の愛し子と呼ばれる令嬢がいなくなったんじゃないかって言われてる。国王たちはその噂を否定しているけど、国民はそう思ってないみたいだね」
「ふーん、そうなんだ。でも国王が否定しているってことは、愛し子がいるんでしょ?」
「そうだね、王太子の婚約者様がそうだと言われてるけど‥‥実際のところどうなんだろうね」
「さあね‥‥興味もないし分からないわ」
そんな雑談を繰り広げながら、彼女たちは世間話を日が落ちるまで続けたのであった。
「そりゃ、影響が出るに決まっているじゃない。愛し子が居ないんだもの」
リネットが帰り、残っている冷めた紅茶を前にアレクシアは呟いた。とうとう始まったカウントダウンにも関わらず、彼女はかの国について思うところは何もない。辛うじて頭の隅に残っていた事を引っ張り出すと、最後に見た父親の顔が頭に浮かび上がる。
「ベルブルク公爵家が他の貴族と違って、何故代々婿入りをさせるかを考えればすぐ分かることなのに。本当に浅はかだわ。あれと血が繋がっているかと思うとゾッとするわね」
妹のミラしか可愛がることのなかった父を思い出す。権力にしか興味がなく、公爵家を乗っ取ろうと企てた男、それが彼女の評価だった。
彼は元々侯爵家の次男、入り婿であり公爵家の者ではない。だが、流行病で前妻であるアレクシアの母が亡くなったため、後妻として愛人を受け入れた。その愛人との間にできた娘がミラである。
公爵はアレクシアの母を嫌っている。アレクシアの母が公爵家の娘であり、自身より権力を持っていることが気に食わなかったのだ。だからその娘であるアレクシアも目の敵にしていたのである。時には暴力と言う形で。
「まあ、あの人は勘違いしているようだから、訂正する義理もないし」
その勘違いとは、妖精の愛し子の恩恵についてだ。妖精の愛し子は、ベルブルク公爵家で誕生した女性の血を受け継ぐ女児にしか受けることができない。公爵家で生まれただけの、公爵家とは血の繋がりのないミラが愛し子になるわけがないのだ。
「まあ、あの子も私を散々見下したり、物を取ったり、してもいない罪を王子に逐一報告して擦りつけてくれたから‥‥自業自得よね」
そこまで考えて、碌な王国暮らしを送っていない事に気づいたアレクシアだが、今が楽しいので良いかと思い直す。
「あそこで領地に戻していれば、また変わったでしょうけれど‥‥今更よね。このまま国が衰退するか、何か手を打ってくるか。まあ私の知ったこっちゃないけど」
冷めた紅茶を手に取りながら、窓の外を眺める。するとそこには今のアレクシアの心を表すかのような美しい星たちがキラキラと輝いていた。
*一箇所修正しました
リネットの発言「そうだね、王妃様がそうだと言われてるけど‥‥実際のところどうなんだろうね」
王妃様→王太子の婚約者に変更をしました
*誤字報告ありがとうございました。修正しました。