オープニング
見渡す限り綺麗な緑色の草原が生い茂っている。
ところどころにいろいろな果実を実らせた樹が生えていたり、底まではっきりと見える透明な湖があったり・・・などなど、実に平和だ。
その中に、二つのログハウスが建てられている。煙突がついているものとついていないものだ。
煙突のあるログハウスからは白い煙が上がっており、香ばしいパンの匂いが漂っている。
かと思えば、そこからカンカンと鉄を打つような音も聞こえてくる。
そしてそのログハウスのすぐ横を小川が水車を回しながら流れている。
煙突のついていないログハウスには、『ラム・キール』という木の板が扉にかけられている。
そしてその中で、目を輝かせながら本を読んでいる彼の姿がうかがえる。
だが、此処は特殊フィールドの一つとして設定されている場所であり、普通のプレイヤーが立ち入ることがない。
此処に来るのはとある条件を満たしたものだけである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ちくしょう、しくじった!あそこであのスキル使われるとか・・・くそがぁ!」
悪態をつきながら僕のうちの中に金髪の人間が転送されてきた。
今日はこれで5人目だ。
また理不尽に難癖付けられるんだろうなぁ。退屈しないからいいけど。
僕は読んでいた本を片付けた。
「なんだか今日はにぎやかだね。読書ぐらいさせてよ」
おお、目つきが鋭い。そんなににらまれたってちっとも怖くないし、第一レベル差100以上ついてるから物理的にも魔術的にもこわくないね。
目の前の金髪さんは装備も最低限のものしかつけてないし、僕が一発殴れば首が飛ぶよ。きっと。
「ああ?なんだ、だれが話してやがる!姿を見せやがれ!」
「いや、目の前にいるじゃん。僕だよ。タビット族のラム・キールです」
ひらひらと自慢の真っ白ふわふわな右手を人間さんの視界に入るように振ってアピール。ちょっと人間さんより背が低いから見えなかったのか、それなら仕方がない。
僕に気づいた人間さんが嘗め回すように僕のことを見てる。・・・うーん、何がそんなに気になるのかな?
僕が装備してるのは、フェザードラゴンのフェオ君のうろこから作った黒いTシャツと、
マリンスパイダーのマリンさんからいただいた糸で編んだ蒼いジーンズ、
メテオゴーレムのメム君が作ってくれた黒い靴、
ヴァンパイアのセレナーデさんからいただいたモノクル、
それに、タビット族とサイクロプス族の共同開発で作られた持ち手に一つ目の兎の意匠が彫られた片手剣と盾。
べつに、いつも通りの格好なんだけどなぁ・・・。
「・・・は?いやいや、タビット族なんてこのゲームで聞いたことないぞ。目撃情報すら掲示板にないし、嘘つくんじゃねえ!」
ケイジバン?とやらは知らないけど、どうやら僕らタビット族のことを知らなかったみたい。
でも、僕が説明するよりも、人間さんに直接見てもらうほうが早いよね。
「信じられないなら鑑定すればいいじゃん。抵抗しないし、偽造もしないからどうぞー。」
「・・・」
「ね?」
大きく目を見開いて、ぶつぶつなんか言ってる。なんでみんなおんなじ反応するんだろ。
「・・・けっ。嘘ついてないのはわかったが、お前の持ってるスキルは正直ふざけてるだろ。特にこの先頭にあるやつは俺に喧嘩売ってんのか?あ?」
先頭の奴?・・・ああ、謎の言語で書かれてるそのスキルのこと?
「それ?ダンジョンを作るスキルだよって、この前神様がくれたんだ。なんでも、きみが過ごしやすい場所を作ってくれないかなって思ったって言ってた。その時ひきつったような笑いをしてたけど。」
「・・・。まあいいか。で、タビット。俺はここから出たいんだが」
「ん?別にいいよ。お帰りはあちらです。それと、僕の名前はラム・キール。タビットじゃない」
名前を間違えないでほしいな!来る人来る人みんなして、僕の名前を間違わないでよ!
・・・あれ、人間さんが額にしわを寄せて難しそうな顔してる。あれ?
「・・・ずいぶんとあっさりしてんな」
「まぁ、そのまま出ていったら君の装備は全部なくなるけど」
「ふざけんな、返せ!その言い方だとてめぇが隠してんだろうが!
あれは俺が命よりも大切にしてるモンなんだよ!」
耳をつかむな!はなせ!
タビット族にとって耳は大切なものなんだぞ!
それに・・・
「命より大切な装備なんてものはない!!ふざけるな!
装備がなくなるぐらいでそんなに騒ぐなよ!
装備なんてなくなったらもう一回作り直すんだよ!
素材を集めなおして前のものより良いものを作れるように頑張るのが普通!
いくら大切な装備だろうが、それは装備。
いつか壊れるものだし、それに固執したせいで死んだら元も子もないじゃないか。
本当に大切なのは生きていくってことだよ!!わかった!?わかったら返事!!」
「・・・わかったよ」
・・・耳をつかまれたのと、装備に固執する人間さんの姿を見てつい大声出しちゃった。
装備は大切だけど、それに固執して死んじゃったタビット族やほかの種族を見てるから、つい。
でも、目の前の人間さんにわかってもらえてよかった。
「・・・全部なくなるといったけど、正確には僕のダンジョンが取り込み切ってしまうっていうべきかな。」
「・・・どういうことか、詳しく説明してくれないか」
ん、冷静になってくれたみたいだね。多くの人が、ここまで聞いた時点でダンジョンに特攻していくからこの説明も久々だなぁ。
「ひとつづつ説明するよ。
まず、此処に転送されてきた人たちの装備は僕が作ったダンジョンの中に捨てられているんだ。」
「運営が行ってた装備没収システムってのはそれか」
「君が行ってるウンエイとか、システムとやらはよくわからないけど・・・。
で、捨てられている装備はもともとの装備者が『このダンジョン内で一度でも死亡する』か『脱出した時点』でもういらないんだなってダンジョンが判断して、次に挑んだ人達用に宝箱に収納されるんだ。・・・ところで人間さん、そろそろ、耳から手をはなしてくれないかな」
「ああ、すまん。・・・死亡していない、かつ脱出してない状況だとどうなる。」
やっと耳が自由になった。
後でお手入れしとかないと自慢の毛並みが残念なことになっちゃう。
「その場合は、捨てられた時点でのステータスそのままで、耐久が最大まで回復してる状態で戻ってくるよ」
「武器のレア度とかで捨てられてる場所とかは変わるのか?」
「うん」
「・・・あー、あとは・・・・。その武器をダンジョン内のモンスターが使ってたりとかするのか?」
「えーっと、そこらへんは彼らの自由ってことにしてるし関与してないからわかんない」
「はぁ?お前が作ったダンジョンだろ?」
「あいつらは勝手に住み着いてるだけ。むしろ君みたいな人が一掃してくれると助かるよ。
もし、そんな事が出来るんだったら君がいい人だって僕が証明しに行ってあげるよ。
あいつらを倒してくれるってことは多くの人を救ったってことにつながるからね」
半分は嘘だ。
あいつらは住み着いているんじゃなくて、此処に閉じ込めているのだ。
僕の作ったダンジョンで徘徊しているのは『同族殺しを行った』、『種族内での禁忌にふれた』、『あまりにも道を外れた』とか、いろいろとやばい理由があって隔離された奴らばっかりだ。
それで、そいつらがダンジョンの各階層で繁殖活動してたり、蘇ったり、戦争してたり、決闘したり、実験したりなんやかんやしてる。
僕が相手をするのもいいけれど、数が増える一方だから、王様とか皇帝とか、そういった人たちと相談した結果、そいつらを倒した報酬として『向こう側に戻った時に情けをかけてもらえる』ことになってる。
月に一回どんな状況になってるか確認しに行くけど、いっつも増えすぎてて僕が選別しないといけなくなるから大変なんだ。たまに、ごくごくまれに生まれる、本当に『いい子』がいたらその時にこのダンジョンから外の世界に出してあげないといけないし。
「じゃあ、最低限の装備を・・・」
「え、やだ。」
そのぐらい自分で何とかしてよ。
おんなじ状況に置かれたら?僕なら死に物狂いであがいてどうにかするよ。徒手空拳だってダンジョンに挑むよ。
「ダンジョンに挑むんだから、それぐらい・・・」
図々しいな、人間さん。
「君は不法侵入者に対して武器や防具を渡す?」
さっと目をそらした人間さん。そりゃそうだよね。渡さないよ普通。
「・・・そこをなんとかならないか!?」
「ならない」
「・・・(シュバッ)」
「男がそう簡単に土下座しないほうがいいよ」
そういう技能でも取得したのかなってぐらい綺麗な土下座だった。動きに無駄がない・・・。
いや、それでもわたさないけど。ちょっぴり感動したけど。
「・・・頼む!この通りだ!素手関係のスキルは一切取ってないんだよ!」
「・・・」
「・・・」
これ、どうしようか。うーん・・・。
「・・・ここに来る時に失うのは装備類だけだから、素材とかレシピは失ってないと思う。
反対側の建物においてある設備は貸すから、自分の手で武器とか作りなよ。それが僕の妥協できるぎりぎりのラインだよ」
「ラム・・・ありがとな」
「はいはい。ああ、そうだ。ダンジョンに挑むなら向こうの階段からどうぞー。
一つ上の階から上に行けば行くほど、強くなっていくから頑張ってね」
「ああ、行ってくる!」
―――――――――――――――――――――――――――――
此処は、VRMMO『ダブルライフ』のなかの特殊フィールド。
PKを行ったことがある者たちや、ゲーム内での違法行為、悪質な行為を行った者たちの行きつく場所。
今日も今日とて、タビット族の管理人、ラム・キールはダンジョンを運営しつつ自由に生きる。




