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ご褒美

 竜の討伐を終えてから八日後、王都から続々と騎獣やら荷車が到着して、やっと帰る事になった。先発組は陽が登る前から準備をしていて、私が起き出した頃、出発して行った。

 途中魔物の被害に遭わないよう、第二騎士隊と第五騎士隊の混成組になっているらしい。


「リットさん、土はどれぐらい付けておいたらいいですか?」

「袋に入るだけお願いします」

「判りました」


 カルガさんとシダさんと三人で、薬草畑から薬草を掘り出して行く。

 私達の出発は昼少し前になると言われているから、まだのんびり出来ていた。サノエさんは治癒隊の皆を送り出してから出発するらしく、私達より遅い組に入ってた。


「薬草の分、木箱増えちゃったなあ」

「でも、ここで作れなければ足りなかったですからね」

「そうなんだけど。荷車足りるかなって思って」

「サノエ隊長が来る時より一つ増やすよう進言していましたよ」

「おお、さすがサノエさん。凄いね」


 薬草達に、一緒に王都に行こうねと言いながら丁寧に丁寧に根を掘り出し、袋に入れて行きながらそんな会話を交わしてた。

 皆、浮かれているのか随分声が大きいから、私達もいつもより大きな声で会話をしてる。


「褒められると出づらいですね」


 そう言いながら姿を現したサノエさんは、少し頬を赤くして視線を背けてた。

 

「どうしたの?何か入用が出来た?」

「いいえ、手伝おうと思って来たんです」

「ありがとう。けどもう終わるから大丈夫だよ」

「そのようですね。リットさんの荷物は纏め終わりましたか?」

「それも大丈夫。後はテント片付けるだけなんだ」

「では手伝いますよ」

「うん、ありがと」


 三人用の大きなテントを借りていたので、片付けるのも一苦労だからサノエさんの気遣いをありがたく頂く事にした。テントの中の荷物を外に出し、サノエさん達と笑い合いながら片付けて行く。


「お、こっちも準備は大丈夫そうだな」

「ガルグさん、終わった時に現れるとか、使えない人ですね」

「俺は忙しいんだっつうの」


 そんな軽口をたたき合いながら、キャンプ地を見回す。

 建てられていたテントはほぼ綺麗に片付けられ、今回慌てて伐採された所は随分と広かったのだなあと思う。


「ガルグさん達は戻ったら褒賞金とか貰えるんですか?」

「そうだな。特級ランク指定の魔物だったから、まあ、気前良く出して貰えなきゃ皆で暴動起こしてもいいな」

「王様ってやっぱり偉そうな感じなんですか?」

「会った事ねえのか?」

「無いです」

「ふうん……。まあ、実際偉いからなあ、踏ん反り返っててもおかしくはねえだろう」

「踏ん反り返ってるんですか」

「……言葉の綾だ。そうだな、個人的にはとても気さくな方だと思うぞ」

「ガルグさんは個人的に王様と親しいんですか?」

「あー、ちょっとな」

「ほえー、ガルグさんてただの猛獣じゃなかったんですね」

「猛獣言うな」


 出発していく人達を何となく視界に治めながら、ガルグさんを眺めた。


「なんだ?」

「……具合はどうですか?」


 見下ろして来るガルグさんにそう問えば、一度眉間に皺を寄せて軽く首を傾げた後、ああ、と呟いて左手を出して来た。

 私の目の前で握ったり開いたりして見せてくれた後、大丈夫だと笑いながらその左手で頭を撫でてくれる。新しく生やした左腕と右足に違和感はないかと聞けば、全く無いと言って笑う。


「なんだよ、自信作じゃねえのかよ」

「そう、だったんですけど」


 誰も出来なかった事をやり遂げたとは思っている。

 高回復草も、完全回復草も、今でも誰も作り出せない物だと理解はしてた。

 けど、今回ガルグさんを見送った時に思い知ったんだ。あれは本当に作り出して良かったのだろうかって。怪我をした家族の人達はきっと、余計な物を作り出したと思うんじゃないだろうかって。

 治してまた、死地に向かわせるのは嫌だろうから。


「珍しくしおらしいな?なんだ、何を気にしてんだ?」

「女は繊細なんですよ」

「…………まあ、何を気にしてんだかは判らねえけどよ。お前の回復剤のお蔭で助かった奴がたくさんいる。それは忘れんなよ」


 ぽんと、大きな手が頭に乗せられた。

 そのままガルグさんを見上げれば、見下ろしていたガルグさんと目が合う。

 じっと見つめ合っていたら、ガルグさんがふいっと顔を逸らした。


「……覚えてますか?私が求婚したの」

「あ?あー、そうだったか?」

「そうです。もっと大きくなったらなって言われましたけど」

「まあそりゃあな、そう言うわな。お前、ガキだったし」

「大きくなりましたよ、私」


 言った途端、ガルグさんが目を丸くして私を見下ろして来る。

 何でそんなに驚くんだろうと思いながらも、茶色の瞳をじっと見上げてた。

 どれぐらい見つめ合っていたのか、ガルグさんがふいに、ぷっと笑い出す。


「大きくと言うか、まあ歳は取ったな」

「すごい失礼な物言いですね。やっぱりガルグさんは猛獣ですよ」

「仕方がねえだろ、お前は俺よりずっと小さいんだから」

「ガルグさんは育ち過ぎですー、私は普通ですから」

「まあ確かに、俺はデカい方だと理解はしている」

「ぐ、確かにその通りなので言い返せないじゃないですか」


 悔しくて、むすっとしながらそう言えば、ガルグさんは声を上げて笑った。


「さて。そろそろお前達の出発時間だろ?」

「あ、そうですね。もう、ガルグさんが邪魔するから」


 そう言いながら振り返れば、いつの間にかテントが無くなっていて、カルガさんとシダさん、サノエさんもいなかった。


「置いて行かれた!」

「待て、荷物忘れてんぞ」

「ああっ」


 バタバタと慌ただしく走り出し、私の荷物を持ったガルグさんが着いて来てくれて、出迎えてくれたカルガさんとシダさんがまた、ほのぼのした笑みを向けて来る。


「荷車に乗るのか?」

「薬草達と離れるなんて出来ません!」

「ああそう。ケツ腫らすなよ?」

「ぷりっぷりになるかもしれませんね」

「あーはいはい。じゃあ、王都でな」

「ガルグさんもお気をつけて」

「おう」


 荷車に乗り込んでガルグさんに一時のお別れをしてから、待つ事暫し。


「張り切って早く乗り込み過ぎた?」

「早い分には文句はないでしょうから大丈夫ですよ」

「そっか」


 シダさんが答えてくれたので、私は出発まで薬草達に語り掛けていた。

 様子を見たら皆、葉がピンと立っていて元気そうだったので、とりあえず大丈夫そうだと安堵する。

 バタバタと周囲が慌ただしくなり、全員揃っているかと確認された後、王都に向けて荷車が動き出す。


「途中で食われんなよ?」

「騎士の人達がいるから大丈夫ですよ」


 見送りに来てくれたガルグさんにそう返事をして、荷車の上からぶんぶんと手を振った。乗せた薬草達の木箱が落ちないよう、気を使いながらも揺れる荷車の上では巧く身体を落ち着ける事が出来ない。

 こまめに休憩を挟んでくれるのがありがたかった。


 荷車に並走しながら話し掛けて来た騎士の人にお礼を言われたり、果物を貰ったりしながら王都まで五日の旅を楽しんだ。

 王都では続々と戻って来る騎士達を出迎える人達が溢れ、物凄く賑やかだった。大通りには笑顔の人達がたくさんいて、並んだ露店から良い匂いが漂って来る。

 移動中はあまり食料が無いから、ずっとお腹が減ってたけど我慢してた。


「うう、美味しそうな匂いで食欲が」

「ですね。刺激されます」


 カルガさんとこそっとそんなやり取りをしつつ、王都の大通りを抜け、王城正門から帰還した。


「ガルグさん達って一番最後?」

「隊長達は全員が最終ですね」

「うわ、じゃあすっごくお腹減ってるだろうねえ」

「そうですね。戻ってすぐ食堂には行けないでしょうから、隊長職は大変でしょうね」

「え、なんで?」

「え?」

「えっと、食堂に行けないって」

「ああ、戻ったらすぐに報告に行かないといけませんから」

「あー……」


 ガルグさんもサノエさんもレンデルさんも、お腹をぐうぐう鳴らしながら仕事するんだろうなと思うと、同情してしまう。


「まあでも、同情はするけど私は食べる!」

「ですね。薬草園に運び込んだら食堂に行きましょう」

「そうしよう」


 荷車に乗せてもらったまま、王宮薬草園まで運んでもらえたので、そこから薬草園の中へと木箱を運び入れた。様子を見ると、ちゃんと魔水を与えていたからか、葉がとても元気ではあったけど。


「あー、やっぱりもう収穫は無理だね。このまま種を作ろう」

「そうなんですか?」

「うん。ほら、成長促進用に竜の糞を混ぜたでしょ?だから、あっと言う間に成長し切っちゃうんだよね」

「なるほど。良し悪しですね」

「そうだね」


 木箱を並べ終え、手を洗ってからカルガさんとシダさんと三人で食堂へ行くと、そこは物凄い数の騎士達で溢れ返っていた。


「うわあ……」

「これは、落ち着いて食べていられませんね」

「だねえ」


 騎士達の食事風景に圧倒されつつも、並んで食事を受け取り、騎士達が空けてくれた所に座って食べた。さっさと食べて戻ろうと、早いペースで食べたからか満腹感は無かったけど仕方なしと諦める。


「……何か、食べた気がしない」

「ですね」


 第二騎士隊と第五騎士隊の人達は、隊長達が戻って来て正式に色んな事を済ませたら休暇が貰えるかもって言ってた。けど、治癒隊の人達は休暇貰えるかなって不安そうな顔をしてたから、きっとサノエさんがもぎ取ってくれるよと励ましておいた。


「討伐で約二ヵ月だもんね。長過ぎだよ」

「そうですね。二ヶ月働きっ放しは初めてでした」

「ねえ。一か月休暇貰っても良い気がする」

「それは無理でしょうねえ」


 王宮薬草園は案の定、全ての薬草が駄目になっていて、世話をしていたはずの人達は消えていた。たぶん、あっちから報告書を出したから、義父が何かしたんだろうなって解るから黙ってるけど。


「リットさん、薬草園、手伝ってもいいですか?」

「でも、いいの?治癒隊の方に戻るんじゃないの?」

「まだ隊長から次の指示受けてませんし、リットさんの手伝いと言う指示は解除されていませんから」

「……ありがと。じゃあ、まずは土を耕しましょう!」

「あ、やっぱりそこからなんですね」


 カルガさんとシダさんと三人で鍬を持ち、薬草畑を耕して行く。植えていたはずの薬草達の根っこを掘り起こし、それを除けながらの地道な作業だ。けど、土が元気じゃなきゃ薬草も元気に育たない。


「ここにも竜の糞撒きますか?」

「ううん、大丈夫」

「では何か肥料とか」

「一旦消毒からかな」


 枯れてしまった薬草達の根っこを掘り起こすだけで随分と時間が掛かり、すっかり日が暮れてしまった。木箱に入ったままの薬草達に、もう少し我慢してねと伝え、食堂へ向かう事にした。

 手を洗っている最中、サノエさんが疲れ切った顔を見せてくれる。


「お帰りなさい、サノエさん」

「はい、ただいま戻りました」


 王都に戻ってすぐ、第二隊と第五隊の隊長、副隊長と共に謁見の間に呼ばれたサノエさんは、そこで偉い人達からありがたい言葉を頂き、褒美の話しをされたそうだ。


「連続十五日の休暇をもぎ取りましたよ」

「おおお、さすがサノエさん」

「と言っても、交代制になりますけどね」

「でも嬉しいよ、ね、カルガさん、シダさん」

「はい」

「喜んでもらえて何よりです。ああ、金貨も貰いましたから食事の後治癒隊詰所に集合して下さいね?」

「解りました!」


 嬉しそうなカルガさんとシダさんを見ながら、私も笑う。


「リットさんもですよ?」

「え、私も?」

「勿論です。治癒隊がリットさんに同行を願い出たのですからね」

「そう言う物?」

「そう言う物です。さ、食堂へ行きましょう」

「はい」


 そうして四人で連れ立って食堂へと向かった。

 変わらず混雑している食堂で、どうやらお酒を飲んでいるらしい騎士の人達が混じりながら、楽しい食事時間を過ごしてから治癒隊詰所に向かう。


 そして、私は田舎町で回復剤を売り出した時より多い金貨を貰って、どうしたらいいのか判らず、大金が気になって気になって眠れなくなり、結局金貨が入った袋を抱き締めたまま朝を迎えた。


 田舎者にはキツイお仕置きのような褒美だった。




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