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1日目-4

タクシーに乗り込んだのは、荒と名乗る青年の容態を本気で気にしていたからでは無かった。良心の呵責などでも無い。その事についてなら、二人でよく話し合い、今後どうするかの方向性を付けていた。私には行き場が無かったのだ。荒宗はそんな私の目の前で細いドアを開けた。私が別の状態であれば、その細いドアの隙間に滑り込む様な真似はしなかっただろう。全てはタイミングと、珍しくも無い数々の言い回しは常に現実として自分達の生活の中にあのだ。私は今この瞬間、荒宗を自分の逃げ場所として、自分の生活に巻き込んだ。昨日からの混乱に。勿論彼は少なくとも、その時点で既に私の中におかしな混乱があり、自分が私の中の混乱に巻き込まれようとは思いもしなかったであろう。これは私の中での問題だった。それでも、ドアを開いていたのは彼だ。彼の雰囲気は私に、自分が荒宗という人の開くドアをくぐる事を許させた。繰り返すようだが、私はギリギリだったのだ。もっと素直な表現をするなら、この人の傍でなら安心する事ができた。そこしか行きたい場所が、行っても良いと思える場所が無かったのだ。

これも人の縁だと言い訳も含めて、紙一重の狂気だなと思った。


自分で自分の行動に驚いている暇など無かった。タクシーに乗り込んでしまった以上、建て前上は病院だった。行かなければならない。

「中央病院まで。」タクシーの運転手さんに告げた。

タクシーの中、二人肩を並べ揺られながら、荒宗がどんな顔をしていたか。私は気にしていなかった。

「とりあえず、スマホだけでも取って来ませんか?」何処からともなく荒宗の声がし、私は荒宗を見返した。

「あ、ごめんなさい。」陳腐である。

我が道を走る私。相変わらず荒宗は自然に見えた。否定も肯定も受諾も拒絶も感じさせず、荒宗はただ自分の思う事を言っていた。

昨夜から引き続き、その時私にとって大きく振れた時計の針の様なものは、荒宗にとっては考えるに及びもしない事であり、こうして私と二人タクシーの中に居る事も、今日の出来事の一部、びっくりした事故の続きに過ぎないのであろう。右側の景色は飛ぶように過ぎるかと思われた。その左側には時間の止まったような荒宗。タクシーの中でさらに走ろうとする自分を感じて気を下す。

スマホを取りに行くことにした。


荒宗にはタクシーの中で待機しておいてもらい、私は部屋に入ると真っ直ぐ玄関を突っ切り電話を掴むと店に電話した。

「どうしたんですか?何かあったんですか?今までどこに?」副支配人の健太郎という男が電話に出た。この男は私よりも年上で経験もある。両親からの信頼も厚く、私が支配人という立場の上で仕事をするための指導的な立場にいた。名称にこそ「副」が付いたが存在感は私よりも大きく、店はこの人を中心に回っていた。存在価値も存在の理由も、この人の方が上である。

「すみません。しばらくお休みさせて下さい。調子が悪くて。インフルエンザみたい。」

インフルエンザなら仕方ないだろうと札を叩き付け、うつるといけないから、母にも来ないようにと伝えてもらい、電話を切った。

このまま元の生活に戻る事を考えると、鳥肌のような、身体的な拒絶がふつと沸いた。蓄積され爆発した混乱に自分一人で向き合う自信はなく、不意に、この混乱の根源、今起きた鳥肌から全てはこの家や、この店にあると、閃光のような怒りが全身を貫いた。そんな反面、電話で健太郎の声を聴きながら、母のうろたえる姿を思いながら、このまま永遠に消えてしまいたいと。耳を塞いでうずくまる、子供の様な自分を感じていた。


せめてシャワーだけでもしたかったが、荒宗を待たせている。大慌てで顔をバシャバシャと洗い、普段持ち歩くショルダーバッグを掴んだ。これならある程度の物は常備されている。そして今度は間違いなくスマホを掴んだ。

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