1日目-2
空から落ちて来た人を轢いてしまった。その人は空から落ちて来た。何かが空から落ちて来た。多分人だ。その人は空から落ちて来た。空から落ちて来た人を轢いてしまった。
車は反転し、私の足は頭より上にあった。エアバックは開き、シートベルトはロック状態だった。それらをどうやって外し、ドアから出たのか、窓から出たのか。空から落ちて来た。脳裏に焼き付く二つの眼。あの眼は死ぬ前に私を見た。朦朧とする意識の中、私は漠然と死体を探した。轢いてしまった何かを探した。パニクってはいない。単なるさっきからの続き。隠しきれなくなった混乱。傍目には冷静に見えるであろうその実、針の先が触れただけで裂ける水風船。例えこの事故が無かったとしても、混乱は私の中にある。これまでの生活の延長上に、反転した車と、多分、人の死体がある。何かが、壊れ始めた。既に壊れているのだ。定まらない焦点に、地面を這うようにしながら人の姿を探した。
背後で何かが動いた。ものの気配に体が先に反応し、足先から頭の先へ皮膚をなぞるように総毛立った。
「大丈夫ですか?」
半分途切れ途切れ。コホン。コホン。と、咳をする。
何処か遠くで優しい声だったかもしれないけれど、私の耳には恐怖の旋律の最後の一撃であった。気絶半死「ひ~」と、声ともつかない発音が喉から漏れた。
先に話しかけてきたのは轢かれた方だった。
腰が抜けるというのを、生まれて初めて経験し、私はそこに座ったまま彼を見ていた。中肉中背、さっき私が轢いたはずの人。私の中では死んでいるはずの人。眼の合ってしまった死体。
彼は今にもパタンと倒れそうによろけながら、私に対して繰り返していた。「大丈夫ですか?」




