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1日目

翌朝、早く目が覚めAM05:00コーヒーメーカーのスイッチを入れザッとシャワー後髪をタオルドライしながら厚切りの食パンをオーブンに放り込みトースト10分にセット。コーヒーをカップに注いで飲みながら着替え。バスタオルを洗濯機に放り込んで少し溜まった洗濯物と一緒に全自動乾燥まで回す。コーヒーカップを洗浄機へ。昨夜のごみをまとめ。ジーパンのポケットに財布と車の鍵。何か足りないと一瞬考えて一応セカンドバックを掴み掴んだバックを脇に挟んで玄関へ向かいながら片手で日焼け止め。靴を履きながら、オーブンがパンを焼き上げるピーピーという音を微かに背に聞く。ごみの袋を思い出して取りに戻りパンは無視して再び靴を履いてドアを出た。車の鍵を手で弄びながらエントランスへ。マンションの駐車場から車を出して兎に角走らせた。意識しないまでも窓の外を見慣れた景色が過ぎてゆく。昨日の誕生パーティーの後、私の30代が始まった。良く寝付けないまま朝。そして今時間はまだ6時を回っていない。


30分後、空港に到着。空港の駐車場に一旦車を預けロビーに入ったものの、そのまま最初に目に付いた椅子に座り込んだ。座ったまま頭を抱え込む。閉じた目の奥をグルグルと、黒を基調とした多彩な円が回る。一方で自分の心臓の音を聞いていた。時間の流れが止まった様な静寂。小さく体をまとめると、変に入っていた力が抜けてゆくような気がした。息をした。吐いて、吸う。少しずつ、耳に外部の音が届いて来るのを感じながら、はっと人のざわつきに顔を上げた。座り込んでからどのくらいの時間が過ぎたのか分からない。スマホを探してGパンのポケットを探るが出てきたのは財布と車の鍵。腕時計も置いて来ている。一応バックの中を探してみるが、そこにスマホが無い事は分かっていた。何か足りないと思いつつスマホには気付かず、セカンドバックを掴んだのだ。不意に、裸でそこに立っている気分になった。まだ濡れていた髪が乾きつつあるのが感覚で分かった。混沌。

今やぐったりと体が重い。斜め前にドトールコーヒーがあったので引きずる様に入ってコーヒーを注文し、隠れる様に席に着いた。再び眠りそうになる。チビチビとコーヒーを飲んだ。


何気ないふりして昨日まで何事も無く、見た目には普通に生きてきたつもりでいたのに、私は自分で思うより混乱している。昨日眠れない夜、いつという事も無くどこかに行こうとぼんやりと考えながら、いつの間にか白けてゆく空を見て今動かないと二度と動けない気持ちになった。

そうして時計が5時を打った時、弾かれた。金縛りが解けたように体が跳ねた。衝動であると感じながらも快感があった。もっともっとと駆り立てるものがあった。普段の朝の習慣に沿って体は動いたが、その動きはいつもよりずっと早く中途半端で、異常だった。何処へ行き何をするつもりなのか、車を走らせながらも分かってはいなかった。アドレナリンが脳を回るとはあんな感じだろうか。いや、私は興奮してはいなかった。混乱していた。何かしなければという、一種追い詰まった状態。だけれど、逃げ場所は無かったという事だろうか。自分のマンションから30分の空港のドトールで、こうして今コーヒーを飲んでいる。

ゴチャゴチャ考えながらも、何気にスマホを探す。普段ある物が無いという事は、こんなにも不安なものか。私は何も持たず、真っ裸だった。タオルドライしたままの髪に化粧もしていない。髪を指ですきながら、傍目にもおかしな女に見えるであろう事を、来た時よりも人の増えた空港のドトールで強く意識した。

そろそろドトールに居るのも居た堪れなくなり、重い腰を上げた。


中央の、高く屋上まで続く柱に掛けられた時計で時間を見ると11時を過ぎていた。こんな所で何をしているのだろうか。


会社の方の心配はなかった。うちは実家が日本料理店をやっている。まあそこそこの店である。本来なら兄がいるので彼が店を継ぐはずなのだが、この人は頭の良い人で勉学する事が好みらしく、大学院まで進んでしまった。親も頭の良い子を喜び、大学院への反対は無かったが、もしかしたらその後、実家に戻って来るのではないかとの期待もあったのではなかろうか。ただ、やりたい事がある内はと大学院に進む事を止めはしなかった。そうして彼は真っ直ぐに自分の道を進み、行ってしまった。残されたのは、あまり出来の良くない娘の方で、私はそれなりの大学をそれなりに出た後、ごく自然に実家に戻り、親と別に暮らしながら店を手伝う形で見習いに入った。それでもこの年まで働けば、ある程度責任のある立場であると言えない事も無い。この時間まで店に顔も出さず、電話にも出ないとなれば、店の誰かがマンションの方に様子見に来ている可能性もある。もっと遅くなり母の耳にでも入れば、あの母の事だ、大騒ぎして、ピンポンピンポンマンションのエントランスで部屋番号を押しながら青くなっている姿が浮かぶ。警察まで話が行く前に、帰らねば。


私は空港を出た。駐車場で発券機に料金を払いながら、馬鹿な支払いだなと自分に嘆いた。

早く帰りたいが高速に入る程の距離はない。少しスピードを上げ元来た自動車道を走り抜けて行く。町中に入る前の一本道は飛ばし易い。車のデジタル時計に目をやり、私は少しアクセルを上げたその時、脳を揺らす振動で景色が飛んだ。鼓膜を裂く、入り混ざった爆発的な騒音と共にフロントガラスに何かが叩き付けられた。何が起きたのか理解する前にぶれる視界の中私が見たのは、黒々と光る人の両眼であったと思う。両眼というより視線であった。瞬間、変に曲がった角度から、その両眼と目が合った。

私は反射的にハンドルを切ったのだろうが、車が止まるまでの自分の行動に関する記憶は無い。

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