4日目-1
朝、起きれなかった。起きた時はもう昼だった。
怠い体を引きずりながら、リビングに降りた。奥様が私を見て、ふふと、微笑んだ。
「何か食べる?」
奥様は、素敵な人だった。
奥様が冷たいコーヒーをテーブルに置きながら「今日はお休みする?」と。
私は半ボケの状態から覚醒しきれていないまま、首を横に振った。
「はい。いえ、あの・・・いいえ。バスで。」
奥様の出してくれた朝食を、昼食なのか、もそもそと食べる。その間奥様は、ずっと向かいに座ってくれていた。もっと話がしたかったけれど、出てくる言葉が無かった。傍に居てくれると気持ちが落ち着いた。私の為にそこに居てくれる事が嬉しかったが、頭は回らず、それを伝える事が出来なかった。
「すみません。有難うございます。」
私はのろのろと支度をして、家を出た。
バス停まで歩くうちに、今日が始まった、やっとそんな気になった。
今日は何だろう。文書整理がいいな。文書整理係りにしてほしい。とか、思いながら、バスに揺られた。
「おはよう。」ああ、おばちゃん。
今や私とおばちゃんは、先輩後輩の仲である。事実、私はおばちゃんをある意味尊敬の目で見てしまう。だけど掃除は嫌だった。
「すみません。こんな時間になってしまって。今日は・・・何でしょうか?」
「文書でいいよ。いい仕事してたってね。」
ホッとした。
「ここじゃ使いものにならんし。」わははと笑うが、刺さった。
おばちゃんは「ここが駄目でもいいじゃないか」みたいな顔をして、「文書整理までは、もう行けるね。」と言った。
文書整理に行くには病室を通るのが一番早いのだが、一人で行く時は遠回りで行くようにと、昨日の帰りに言われていた。つまり、一人で病室を通ってはいけないのだ。その理由については、あまりハッキリした事は伝えらていない。ただ、ニュアンス的に分かった。おばちゃんから聞いた事で分かったのもあった。
でも私が昨日触れたのは、ひまわりだった。
私は病室までの通路との分かれ道で、またあのひまわりに会いたくなった。花びらがフワと開く。
不意に、婦長さんの顔が浮かんだ。婦長さんは、正しい人であるのは間違いないのだろうが、苦手だ。仕方ない、遠回りという決まり事がある。
そう言えばと、昨日の婦長さんの「奥様」の言葉を思い出した。う~ん。一人で考えても答えの出る類の事では無い。知らないのだから。
そんなこんなで文書整理に着いた。
文書整理は単純な作業だった。届いた郵便や、その他、目に付いて難のない、文書とはまた大仰な物ばかりを種類別にファイリングしてゆく。郵便を届けに来る郵便屋さんもここに来るので、あまり鼻歌混じりな事をしていると怒られる。しかし大切な郵便物は予め分けてある感じだ。
今日は着いたのが既に2時を過ぎていた。マスター、ごめんなさい。そんな気になる。こんな事してたんだ。マスターは他にも色々とやっている感じがした。例えば昨日の昼食時、食堂で「聡子ちゃんの代わりの人だってね。」とにこやかに話し掛けられたり。そして病室の子供達も、マスターを知っている。子供たちはマスターの事を「聡子ちゃん」と呼んでいる。一緒に来てくれれば良かったのに。道しるべ。
わざと来なかったのかもしれない。
ふうと溜め息を付いて、文書整理に掛かった。考えても、今は仕方がない。




