3日目ー帰り道
18:30。まだ外は明るい。私はバス停までの道のりを歩いた。クタクタだったが一人バス停まで歩くのは悪くなかった。頭には答えの無い空間があった。
バス停が、近付いて来る。
横目でそれを見ながら、通り過ぎる。次のバス停まで、歩こう。
おかしな時間配分で時間が過ぎている。昨日の朝、飛行機に乗った。その前日、私は人を轢いた。その更に前日、自宅で誕生日会をしていた。それは本当の事だったろうか?荒宗と言うあの青年は、大丈夫だったろうか?
バス停が、近付いて来る。
少しづつ、日も落ちて来た。
もう一区間だけ歩いたら、バスに乗ろう。
ああ、車。ディーラーだ。連絡しないと。チラッと思ったが、保留。頭が拒否した。
バス停が、そんなに歩いた気がしないけれど、近付いて来る。
まだ、歩きたかった。
そうだ、今日は。おばちゃん。病院にいた、子供たち。広い空間の、精神病棟。行く前、何も聞かされていなかった。文書整理は楽だった。でももう掃除は嫌だ。鉛筆と、ひまわり。
歩いていると、途切れ途切れだっった自分の中のものが、整理されてゆく気がした。
もう一区間、歩こう。歩調が少し、速まった。
理性と感情。速く歩くと、体に纏わり付いた感情の屑が体の振動で振り落とされてゆく。足の裏で地面を蹴りながら、それらを振り落としてゆく。落ちろ、落ちろ。
いつしかリズムを付けて、私は駆けていた。バス停が、通り過ぎる。
景色が流れる。オレンジの街頭。街行く人が、目に映り、過ぎてゆく。息をした。リズム良く。まだ走れる。もっと走れる。まだ、速く。
脳ミソのヒューズが飛ぶ。前へと。感情が、前へと導く。
私は先日までの積りに積もった混乱を、忘れていた。まだそこにそれは存在している。その感覚はあったが、少なくともその瞬間、忘れて走った。
車で行っても40分掛かる距離を、私は走って帰った。
何個のバス停が通り過ぎたかも気付かなくなって、家に、帰り着いた。
柵を掴んで、門を潜る。玄関に倒れ込みそうになりながら、どの道を走って来たのかもわからないままドアのノブに手を伸ばした時、中からドアを開いたのは、茂希さんで、彼は仕事を終え、先に家に帰り着いていた。
午前0時を過ぎていた。
もうヨレヨレの私を、茂希さんは大きな体で支えながら
「頑張りすぎてはいけない。中で休みなさい。」と、言った。
おそらく、私の姿はヨロヨロの汗みどろ過ぎて、一目見て走って帰って来た事が、分かったのだろうと思う。
その夜、私は死んだように眠った。




