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2日目

  翌日、私は○県○市の空港に降り立った。到着口を潜ると、ガラス張りの光の反射を受けて、私はサングラスを掛けた。その向こう、振り返り、こちらに向かって微笑みかける一人の男性がいた。明らかに私に向って笑みかけられた視線に、私は再びサングラスを外した。

「楠田加奈さん?」近付くとその男性が言った。「町田の兄です。」 

 町田というのは、マスターの名字、性だ。

「初めまして。」反射的に答えたが、どうしてそこにマスターの兄がいるのか、私は何も聞かされていなかった。どう言葉を続ければ良いのか、探す。

「妹から聞いています。お疲れでしょう?家でお茶でもどうですか?」

 私に選択肢は無い。即答「有難うございます。」。

 1時間ばかりも、車を走らせただろうか、進みながらマスターの兄は、あれは何という建物だとか、それはこっちのだとか、そこには古い歴史があってね。だとか、その街の説明をしてくれた。その中で、彼が町田茂希という名であること、既婚、子供が1人いる事を知った。茂希さんは、私の様子を、この2・3日の状態を、マスターから聞いている様子だった。ハッキリとは口にはしなかったが、何となく分かった。

「すみません。私、何も聞かされていなくて。」私は正直に本当の事を言った。何も状況が分からない。

「聞いてます。妹に振り回されて、大変でしたね。」

 どちらが振り回し回されているのか、よく分からないが。やはりここは「いいえ」と答えた。

「こちらの方こそ、突然おじゃまして・・」なんとか真っ当な表現。つい、「ホントですよ」とかの、状況を無視して私情を込めた半分本音が口を衝きそうになる。このところ、現実社会での人との会話から離れている事を感じた。


 家に着くと、奥様が出迎えてくれた。アイスコーヒーと、手焼きのコーヒー。息子さんは結婚されていて、この家には奥様とお二人との事。

 15分位3人で話した処で、奥様は席を立たれた。 

 茂希さんは、精神科の開業医だった。マスターとの年の差10歳。驚いたが、もっと驚きなのはやはり、お兄さんがお医者様であった事だ。長い付き合いなのに、私はマスターの事を、あまり知らない。そう思ったのは今回だけでは無かった。知らなかった。ちなみに私とマスターの年の差も10だ。

 茂希さんは太っているが、なぜが太った印象を与えない。眼光が鋭く、その体型とは逆にシャープな印象を持つ。鋭い眼光は常には笑ってはおらず、いつも鋭いのだが、怖い印象は受けない。話の途中途中、本当に笑う時、顔の構造が一気に崩れる。その時その目は「へ」の字を描き細く曲がった。細くなった隙間からきらりと光りを、放った。わずかの時間だったが、茂希さんはそれ以上の印象を私に伝えてきた。

「病院の手伝いを頼んでいてね。」マスターの事だ。「忙しいから代わりを寄越すと言ってきた。加奈ちゃん、そう呼んでいいかな?加奈ちゃんが代わりに来てくれると有り難い。妹からは加奈ちゃんがあんまり熱望するから、キャンセルする予定だったけど代わりに行ってもらう事にしたと聞いているが、本当かな?」

 マスターの野郎。

「あ、いえ。何が出来るか、分かりませんけれど・・・お役に立てれば良いのですが。」おほほと笑う締めに咳が出た。

「じゃあ、明日から頼むよ」

 茂希さんは、そう言った。

 その間町田家にお世話になる事になり、本来マスターが使うはずだった部屋へ案内され、私は荷解きにかかった。


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