お猫様をなでたい!
本日で、我が家に猫がやってきてから3日。
未だに懐く様子はなし……。
ということはつまり、あたしは猫を目の前にしながら見ているだけなのだ。
一度寝てるときになでようとしたら、すぐに飛び起きて嫌そうな顔で「ニャー。」と鳴かれたし。
もうあたし泣いちゃうよ!?
我が家の猫が冷たいって。
……姉ちゃんに叩かれそうだからやらないけどさー。
「姉ちゃん、なでたことある?」
「まだないよ。
すぐ逃げられちゃうし。」
「だよねー。」
本日まで全戦全敗。
玉砕しまくり。
でもこれがあたしだけじゃなくて家族皆にだからまだいいんだよね。
あたしだけだったらもう堪えられないよ。
猫に嫌われるとか、考えただけで泣ける……!
そんなことを話していた時、噂をすればなんとやら。
なんと、猫の方からやって来たよ!!
撫でれるか撫でれるか、と思わず臨戦態勢に入ったあたしの頭を、姉ちゃんが丸めた雑誌でぽかりと叩く。
「このお馬鹿。
ただでさえ寄ってこないのに、そんなことしたら余計に近付かないでしょ。」
はっ、と猫を見る。
こちらを見つめて、ピクリとも動かない。
「ほら、言わんこっちゃない。」
「で、でもさー。」
「でもじゃないの。」
ため息1つ。
それから猫を呼ぼうてして動きが止まる。
「そういえば、まだ名前決まってなかったわね。」
「そういえば、そうだ。」
しまった……。
忘れてた訳ではないが、猫をどうやって撫でようかで頭が一杯だった。
姉ちゃんと2人、頭を抱えて悩んでたらいつの間に来たのか猫が隣にいた。
にゃーん。
「!?」
か、かわいい声で鳴いた!?
あたしはそんな鳴き声初めて聞いたよ!
「あー、そっかご飯ね。
はいはい、ちょっと待って。」
「姉ちゃーん!?」
なんか慣れてない……?
まさか、いつも聞いてるのか!
そんなのずるい!
そんな思いを込めて姉ちゃんを呼ぶも、あっさり無視された。
「って、あ!」
なでてるじゃん、姉ちゃん。
餌を食べてるときは逃げられないのか、普通になでているではないか……!
あたしもなでたいよ!!
「ん?」
『何か?』みたいな顔してるけど、その行動が原因だよ。
口をパクパクさせながら指を指し必死に訴えると、ようやく悟ったらしい。
「ああ、餌食べてるときのはノーカンじゃない?」
「カウントされるよ!!」
「じゃあ、何回もなでたことあるわよ。」
「へー……ってえぇ!?」
「食べてるときは逃げられないし。」
言外に『そんなになでたかったら今なでたら?』というニュアンスを含んだ言葉。
むむむ……。
それは非常に魅力的な提案だけどさ、なんか負けた気がする。
なにがとは言いがたいけれど。
「もふもふでなで心地がいいのにね~。」
誘惑か!?
姉ちゃんがあたしを誘惑してくるよ。
そして、止めの一言。
「あーあ、こんなにかわいいのにね。」
「あたしもなでる!!」
もう負けでいいよ……!
猫のかわいさに勝るものはないんだから!!
そろそろと手を伸ばす。
もう少しでなでれる、というところまでいった時。
ニャー。
餌を食べ終わったにゃんこはあたしの手から逃げるように走ってったよ。
「あ……。」
「あらら、あんたが迷ってるから。」
「だ、だってさ!」
そんなに早く食べ終わると思わないじゃん!
出した餌だってまだ残ってるし……。
いや、猫がご飯をちょこちょこ食べるのは知ってるけどさ。
とりあえず、何が言いたいかというと。
「姉ちゃんずるい。」
「何が?」
「猫なでてること!
あたしもなでたい!!」
「しょうがないでしょ。
あんたじゃなくて、私のところに来るんだから。」
「そ、それもそうだけどさー。」
姉ちゃんに口で勝てたことはない。
そして、今回もいつものようにあたしが何も言えなくなって負けたのだ。
諦め悪く、ジトーッと睨んでみても効果はなく、むしろからかいの色を含んだ声で返される。
「次はあんたのとこに来ればいいね。」
これが余裕というものなのか!
確かにあたしの所には1回も来たことないし、餌をねだりに来てることも今初めて知ったけどさ!!
「次はきっとあたしのところに来てくれるよ!!」
「はいはい。」
もう会話は終わりとばかりに、姉ちゃんはまた雑誌を読み出す。
その様子すらも勝者の余裕をかもしだしているようにしか見えない……。
こ、これが猫をなでている者と、なでていない者の差なのか!?
次こそはあたしだってにゃんこをなでてみせるんだから!!
猫をなでようと気合いをいれるほど、近づいてこないと気づいたのは次の日のこと。
あたしの行動は意味無かったのね……。
(うちのにゃんこの手触りはどうですか、姉ちゃん!)
(そうねー……。
まあ、実際になでればわかるわよ。)
(なでれたらこんなこと聞かないってば!)