お猫様がやってきた!
にゃんこが家にやって来た!!
ついに……ついにやって来たよ!?
「猫うちに来るよー。」
そう予告されてからはや一ヶ月。
いやー、当時はすっごい悩んだなー。
親戚の人が野良猫を拾ったと言って電話を掛けてきたのは今からだいぶ前のこと。
そして、その猫が子猫を産んだからもらわないかと話を持ちかけられたのは一ヶ月ほど前のことだった。
その時電話に出ていたのは姉ちゃん。
あたしは、猫をもらえるかもしれないと言う事実に飛び上がるほど喜んでいた。
「大きい猫と少しだけ小さい猫、どっちがいい?」
「どっちでもいいよ。むしろ両方ウェルカム!!」
「一匹しかダメだからね。」
「え……そんな……。」
こんなことがあってよいのだろうか。
いや、よくない。
反語を使って強調できるくらいよくない。
あの、かわいい猫を選ぶなんて。
二匹のうち一匹を諦めなければならないんて……!
一人うなだれていると、上から降ってくる無慈悲な声。
「あんた選べないんなら、私が選ぶよ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ姉ちゃん。」
「待たないよ。今電話で聞かれてれんだから。」
「……。」
神は非情だ。
悩む時間もくれないなんて。
時間をくれるように交渉しようと姉に話しかけたとき。
「あ、はい。そっちでお願いします。」
お願いします?
パードゥン?
「あ、どっち来るか決まったから。」
「え、え、えぇぇぇ!!」
「うるさい!」
パコッ。
地味に痛い。
お願いだから、電話帳の角で叩かないで!
「一ヶ月後に来るってさ。」
「猫!?」
「それしかいないでしょ。ここで犬が来たらおかしいわよ。」
「いやまあそれはそうだけどさ……。」
何はともあれ、あれから一ヶ月。
朝からあたしはそわそわしてるわけでして。
そしたら、やっぱり姉ちゃんに叩かれた。
暴力はんたーい!
と、そのとき。
ピンポーン。
ドアベルの鳴る音がした。
「来た!」
家にいたのはあたしと姉ちゃんの二人。
姉ちゃんは動く気がないのか、本を読んだまま目もあげない。
こ、これはあたしが出てもいいのかな!?
キラキラした目を向けると、さすがに気づいたのかうっとうしそうな顔をしてきた。
それはつまり「お前が行け」ということ。
ラジャー、と敬礼をして玄関に向かう。
あたしの頭の中を占めていたのは猫のことだけ。
それ以外のことは思い付かなかった。
「ねこ、ねこ、ねーこが来るぞ!」
歌いながらたどり着いた玄関。
この扉を開ければ、愛しの猫に会える!
ふわふわで、撫でるとすりよってきて、気まぐれなところもまたかわいいあの猫に!!
はやる鼓動を押さえつけてドアノブに手をかける。
そして一つ、大きな深呼吸。
「はーい。」
「久しぶりね~。」
「お久しぶりです!」
扉の前にいたのは親戚のおばさん。
この前電話をしていた方だ。
その手に持っているのは猫の入ったケース。
「元気だった?」とか「大きくなったわね~。ほんとに、子供は成長が早いわ。」などと言っているがなにも頭に入ってこないけれど。
話は続いているからたぶん返事はしているのだと思う。
無意識で。
無意識ってスゴイ。
「それでこの猫ちゃんなんだけど。」
「はい!」
『猫』という言葉だけはちゃんと拾うよ、あたしの耳は。
きっと今満面の笑みなんだろうなー。
効果音をつけるとしたら、『キラッキラ』なんて音が鳴ってそう。
それだけ猫が楽しみだったんだ……!!
「元が野良猫らしいのよ。」
「野良猫……?」
「そう。だから、あんまり人懐こくないかもしれないの。それでも本当にいいかしら?」
「問題ないですっ!」
人懐こくない猫のどこに問題があろうか、いや、ない。
人懐こいのも、懐きにくいのも猫にかわりはないのだから!
でも懐きにくい猫が懐いたときの可愛さは半端ない。
だって、初めは素っ気ないのに自分から寄ってくるんだよ!?
撫でてー、遊んでーって。
構わずになんていられないさ。
なんて猫の可愛いところをつらつらと考えていたら、おばさんの話は終わっていた。
あ、あれー?
おばさん、ごめんなさい。
猫には勝てないんです!
「それじゃあ、私は帰るわね。猫ちゃんをよろしく。」
「もちろんです!!」
手を振り遠ざかっていくおばさんに、さよーならーと言う。
そして見えなくなってから、手元にある猫の入ったケースを見た。
寝てるのか、動く気配はない。
起こさないように、揺らさずにそっと運び、姉ちゃんのいる居間まで戻る。
「姉ちゃん姉ちゃん!猫!!」
「そんなことわかってるって。」
「まだ寝てんのかな、いつ起きるのかな。」
「あんたは少しは落ち着きなさい。」
「そういう姉ちゃんだって実は内心ワクワクしてるくせに!」
「う、うるさい!!」
図星なのか少し焦ったような声がする。
あたしもだけど、姉ちゃんも猫好きだからなー。
というか、あたしの家族は皆そろって猫好きだ。
今回のことだって、お父さんもお母さんも大賛成だったし。
その時、カタッと小さくケースが揺れた気がした。
「起きた!?」
「そんなに気になるなら開けてみればいいでしょ。」
「それもそうだね。」
やっぱり姉ちゃんも気になってるんじゃないか。
さっきから本を読む手が止まってるし。
口に出したらまた叩かれそうなので、心の中で呟いて終わる。
ケースを開けるとそこに居たのは三毛猫。
眠そうな目をしばたかせながら、辺りを見渡している。
「おお!三毛猫かわいい!!」
「ほんとだ。」
「ねえねえ、なでてもいいかな。」
「……嫌がったらやめるんだよ。」
「わかってますよー。」
そろそろと手を伸ばす。
あと猫に触れるまで30センチ。
20センチ。
そこで気配に気づいたのかこちらを見てきた。
さっきまでの眠そうな目はどこにいったのかと思うほど、目が丸い。
あ、驚いた顔もかわいい。
なんてことを思ってる間に逃げられた。
それはもう清々しいほどのダッシュで。
「あ……。行っちゃった。」
「あらら。」
逃げ込んだ先はテレビの裏。
暗いしせまいし、猫にとっては居心地がいいのかな?
とりあえず、今日わかったこと。
まず家に慣れるまでは猫に触れそうにないし、逃げられる。
ああ、身近に猫がいるのになでられないなんて……。
これはあたしに対するいじめか!
あたしはお預け食らった犬なのか!?
はあ、早く慣れてくれたらいな……。
(姉ちゃん、名前はどうする?)
(名前かー。三毛猫だしミケとか?)
(見たまんまだね!?)