■襲撃■
ドアが破壊された瞬間、リョウが叫んだ。
「"アスカ"、殺すなよ!」
「わかってる………わ、よっ!」
リョウの声を受けたジェシカは、最初に特攻してきた1人を銃を使わずにハイキックで倒すと、目だけを動かして敵の人数を確認した。
(1、2、3……
6人!?)
そのまま、立て続けに掴みかかってきた男の局部を思いっきり蹴ると、太腿に一発
ガンッ!!
銃を打ちつけた。
その様子を横目に
「うわ、容赦ねぇなー…」
と、涼しい顔をしたリョウが一言呟きながら、ジェシカの隠し道具の山からナイフを3本引き抜いたまま、マシンガンを構えた男の右腕に全て命中させる。そのまま男に突進し、別の仲間が放った弾を全て避けきると、さっきナイフを腕に突き立てられた男が倒れた拍子に手放したマシンガンを手にとり、残りの3人に向かって構えた。
その姿に一瞬ひるんだ3人の隙を見逃さなかったアスカはすかさず男達の太腿に一発ずつ弾を打ち込んだ。
「ヒュー」
…と、リョウが構えていたマシンガンを下ろしながら口笛を吹いた。
ジェシカも拳銃をホルダーに納めてガードを緩めると、
「…――言われた通り、急所は外したわよ。」
とぶっきらぼうに答えた。
その背後に、ジェシカがハイキックで倒した男が静かにむくりと起き上がってくる。
その気配にジェシカが気づき振り返った瞬間…、
ガガガガァンッッ!!
と、銃声。
両腕と両腿に全弾命中された大男は、そのままうめき声をあげながらその場にドタッと倒れた。
驚いたジェシカが弾が撃ち出された方向を見やると、リョウが右手に銃を構えたまま立っていた。
マシンガンは左手に持ったまま下げており、代わりに右手に納まっている銃は、ジェシカの物でもなければ侵入してきた男たちのものでもなかった。
一瞬のことで言葉もないジェシカをよそに、
「…あっぶなかった。」
と、まるで危なげない顔をしたリョウが、まだ硝煙の出ている拳銃の銃口を口元に持ってゆき、口をすぼめて「ふぅっ」と息を吐いてみせた。
「あなた、その銃…」
「職業柄…ね。護身用、護身用。」
リョウはそのままマシンガンを無造作に捨てると、床に倒れている男達の近くへ向かった。
「さて、と。どうやって口を割らそうか…」
リョウが男たちの目の前にしゃがみ込むと、俯せに倒れている1人の男の髪の毛をつかんで無理やり顔を上げさせた。
「!?」
何かに気づいたように表情が固まったリョウは叫んだ。
「"アスカ"!全員の顔を確認しろ!!」
「え…」
戸惑うジェシカに、リョウは更に急かした。
「はやくっ!!」
「…っ!」
その重大さに気づいたジェシカはリョウと手分けして全員の顔を確認した。
「やっぱり…。舌噛んで死んでやがる。」
リョウは言いながら、男達のスーツやズボンのポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと"何か"を探しだした。
「リョウ…。この男達に心当たりは…?」
ジェシカは立ちすくんだまま骸になった人間を見つめながらリョウに話しかけた。
一通り中身を確認したリョウは、死体を1カ所にまとめるために動かしながら、
「寧ろお前だろ、狙われたのは…。
見たところ、個人が特定できないように手足の指紋を焼ききってるし、勿論身分証なんてない。
………徹底してやがるぜ。」
「もしかして…私を狙ってきたのは………」
「ああ。…お前がさがしてる組織の連中に感づかれたな。」
ジェシカは、今更ながらに冷や汗が身体からしっとり吹き出るのを感じた。
自分はまだ全貌を掴んでもいないうちに消されるかもしれない、恐怖…。
「ジェシカ…。
今回の襲撃で、俺の面もわれた。
どの道ワンマンで動いたら2人ともゲームオーバーだ。………組まないか?俺と。」
「私、報酬を渡せるだけの金銭の工面はできないわよ。…身体を売るしか能のない女だもの。」
吐き捨てるように言ったジェシカを静かに見つめたリョウは、
「構わないよ。…交渉、成立だな。」
…言いながら、ジェシカの唇に自分の唇をゆっくり重ねた。
愛も、情もない…、事務的な冷たいキスだった。