■邂逅②■
リョウは、私の1つ年上で、母親が東洋人‐日本人‐だったため、漆黒の髪に灰色の瞳を持ったハーフだった。
『父親は誰なのかわからない』と、昔リョウから聞いたことがある。
当時5才前後の子供が言うことだ。事実かどうかは、定かじゃない。
母親は、夜の街で働いていたのだと、大きくなってから人づてに知った…。
「リョウ、あなた…どうして日本に…?」
リョウは右手に持っていたコーヒーを、そばのテーブルに置いてアスカのいるベッドの端に座った。左手には、まだアスカの拳銃をホルダーごと持っている。
「アスカこそ、何で日本に来たんだよ。お前の母国はアメリカだろ?日本語もロクに話せないくせに。」
アスカはリョウを見つめながら返事をした。
「日常会話くらいなら私だってできるわ。…日本には、用があって入国したのよ。」
「その用ってなんだよ。」
アスカはその言葉を聞いて、ふっと笑った。
「情報屋以外には話さないことに決めているの。」
リョウは、よりアスカの方へ身体を向け、答えた。
「俺がその情報屋だったら?」
「…じゃあ情報屋さん。ひとつ訊くけど、私の身体ひとつで幾ら分動ける?」
アスカは自然にバスローブがはだけるように身体を動かし、リョウに詰め寄る。
リョウは一瞬たじろいだ。
「お、おい…」
その瞬間アスカの手がリョウの左手へ伸びる!
貰った――――…!
ダンッッッ!!
次の瞬間、壁に両腕を抑えつけられた。
………のは、アスカの方だった。
「良いタイミングだったが、惜しいな。」
こいつ!見破ってた!?
「はっ…はなせ…っ!」
「暴れるなら抱くぞ。」
「!!?」
「自分にメリットもなく抱かれるのは、死ぬほどイヤなんだろう?」
ギリギリと、リョウの右手が、アスカの両手首を締め付ける。
「…った!」
「…―大人しくしろ。いいな。」
リョウの声は、アスカを威嚇している訳ではなかった。
アスカは、多少悔しい思いもあったが、無言で小さく一回、縦に頭を振った。
「…あんまり無茶すんなよ。」
言いながら、アスカを拘束していた手を離した。
アスカは絞められた両手首をさすり、乱れたバスローブを整えた。
「………………。
シャワー、借りるわよ。」
「どうぞお好きに。」
リョウは、両手をあげて"何もしない"サインをした。
直後に、力強くバスルームのドアを閉める音。
しばらく真顔でバスルームを見ていたリョウは、シャワーの音が聞こえてきた途端、いきなり声をあげて笑い出した。
「変わってないなぁ、あいつ。」
そこには、これまで彼が見せたことのない、リラックスした笑顔が映っていた。