■邂逅①■
重くて鈍い痛みがアスカの腹部全体に広がっている…。
男に殴られたことを理解しているのに、身体が言うことを聞いてくれない。
「…して。」
…―――え?
気がつくと、自分の目の前に東洋人の男児が立っていた。
容姿は東洋系なのに、瞳だけが灰色だったその男児は、優しく微笑むと右手を差し出してきた。
「はじめまして!今日から隣に住むことになったんだ!」
流暢な英語で、アスカはびっくりした。
…あなた、
「キミ、ぼくと同じ年かなぁ?
よろしくね!」
よく見えない…あなた…、
誰…?
■邂逅■
「はっ…!」
意識が突然ハッキリして、アスカは思わず声を上げた。
(ここは…、どこ?)
アスカは、眼球だけを動かして自分が見えている範囲をゆっくり見渡した。
(………………ホテル?)
そういえば、さっきの男の子は…!?
と、考えながら、あれが夢だったとようやく理解した。
あの男の子…、確かに聞き覚えのある声をしていた。
なのに、思い出せない…。
…どうして………
「やっと目が覚めたか。」
突然自分の耳に自分以外の声が飛び込んできて、アスカは咄嗟に左腿のホルダーから銃を抜こうとした。
が、…ない。
銃が、ない!?
「!!?」
ふと自分自身を見たアスカは驚愕する。
さっきまで自分が着ていた服じゃない…というか、バスローブ!?
おまけに、下着が…ない!!
思わず上半身を起こして布団をめくった。
抱かれた形跡は、ない。
でも、脱がされてたことさえ気づかないなんて…。
すると、さっきアスカに声をかけた人物が、コーヒーの香りを漂わせながら彼女の寝ていたベッドまで歩いてきた。
右手に、コーヒーカップ。
左手には、アスカのグロック26がしっかり納められた見覚えのある皮製のホルダー。
「あんな土砂降りの中で走り回っていたから、風邪を引くと思ってね。
…悪いけど着替えさせてもらったよ。」
「な…っっ!?「大丈夫、何も見てないから。」
そういう、問題じゃない!
そう思いながらも、唐突過ぎる説明で奇声しか出ないアスカに対し、声の主である男は更に続けた。
「――――――あ。
そ・れ・と。」
言いながら、ベッドの向かいに配置してある備え付けの鏡台の上に山盛りに積み上げられた"それ"を目で示した。
「私の…!」
「そ。お前の、隠し飛び道具。
服を脱がせたらジャラジャラと…まぁ、どういう風に身につけたらこんだけ納められるんかね。
危うく俺が怪我するとこだったよ。」
そんな風に言うのなら、脱がさなきゃいいじゃない!
アスカは無防備な姿を他人に晒した自分を恥じながらも、自分をそうさせた男に対し、山猫のような鋭い瞳で睨み付けた。
そして、今はじめて男の目を見て、ハッとする。
灰色の…瞳。
「あなた…!?」
男は口の端を少しあげて、ふっと笑った。
「殺人者になりさがったお前に会うのは、初めてだが…、久しぶりだな。アスカ。
それとも、本名で呼んで欲しいか?」
………思い出した。
「――――リ…リョウ?」
「当たり。」