■銃声と、鮮血と、少女③■
リョウがトオルから情報を受けて一週間後の、夜。
天候:雨。
ザアァァァ…
大粒の雨が力強く地面を叩きつけて、けたたましい音を立て続ける。
その豪雨の中、バシャ、バシャ、と不規則な足音が"2人分"、倉庫街に響き渡り………
ガァ…ン!
ガン…!ガァン!
…三発の銃声が立て続けに鳴り響いた。
―――…直後に、バシャンと"生き物が倒れる"音がした。
「い、いだい…っ
やめっ…やめてくれっ
許してくれっ!!」
暗闇に豪雨の悪条件の中、ぼんやり浮かんだその声の主の身体には、キレイに二発銃弾がめり込んでおり、残りの一発は身体を貫通していた。
左の踝に一発、右の太ももに一発、右の手の平に一発。
放っておいても出血多量で死ぬほど、暗闇の中で真っ黒に見える血が、傷口からどくどくと流れ出ていた。
全体のシルエットから、どうやら小太りの男性のようだ。
それにしても、なんとひ弱な声だろう。
そんな男の目の前ににじり寄ってきたシルエットは、女性…いや、少女のものだった。
「…私の探している人間の情報以外を差し出した罰よ。大した腕もないクセに、……気持ち悪いっ!」
言うが早いか銃口を男の額に押し当て、トリガーを引いた。
「ひぃぃ…っ」
ガァ…ンッ!
…………………ガッ!
………目をつむっていた男がうっすら目をあける。
い…生きている!?
「…ったく。可愛い顔して危ないモン振り回してんじゃねぇよ。迷惑だ。」
低く透き通った声が雨音に混じって聞こえた。そして、その声の主は状況がわからない男に、
「おい、オジサン!命が惜しいならさっさと立ち去れっ!」
と、一括すると、男はワケもわからないまま、身体を引きずりながら逃げ出していった。
雨が徐々に小雨になってゆく…。
"現場"に残ったのは、銃を握っていたはずの少女と、少女の銃を側面から別の銃で弾き飛ばし、背後から彼女を羽交い締めにした少年だけだった。
「お前、何者?!」
殺気立った少女は殺意を剥き出しにしたまま、噛み付く勢いで背後の少年に怒鳴った。
「それは後で話すとして、とりあえ……
ずっ!」
…と、彼女の腹部に拳を思い切り突き上げた。
「うっ…」
と、彼女は一言もらし、直後に少年の腕に彼女の全体重がのしかかった。
「…今は気絶していてもらうよ。
ごめんな、アスカ。」
少年は一瞬中かがみになり自分をクッションにして、彼女-アスカ-を抱き抱えると、すぐに体勢を立て直し、先ほど自分が弾き飛ばした彼女の拳銃を回収した。
そして携帯電話を取り出し、数コールの後で電話に出た相手に
「…明日の昼頃、例の部屋に来てくれないか。」
とだけ手短に伝えると、足早にその場から立ち去った。
雨は、待っていたかのように、再び強く降り出していた…。