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■銃声と、鮮血と、少女①■

念のため、R15指定はしていますが、おそらく過激な描写等は一切ないと思います。ただ、それにつながる単語等は出てくるので、お気をつけくださいませ。


…―私は、あの日誓ったの。










あの、雨の日に………。



■銃声と、鮮血と、少女■






「お。イイねぇ、上玉だぜ。………ちっ、先約か。」


日本国、都心から少し離れた古びた中華街。密入国の外人のコンパニオン達がカタコトの日本語で、迷い込んだ会社員を誘い込む桃源郷。その一角で、明らかに異色めいた金髪の少女が、ガタイのいい男の後をついて古びたブティックホテルに入っていった。


「おい、あの女はやめておけ。」


舌打ちをした男は、脇を通った青年に制止された。


「…なんでだよ。」


怪訝そうに訊いた男に、青年は何も知らないのかとため息をついて答えた。


「あの女を抱くと、もれなく殺されるんだよ。」





「………は!?」


驚く男をそのままに、青年は漆黒のキャップをさらに目深にかぶり、続けた。


「こんな場所だ。…誰もあの女を捕まえようなんて思っちゃいないさ。

ただ、裏の世界じゃ有名だ。

情報料代わりに体を売ったあと、



バーン!


…ってな。」


青年が右手でL字をつくり、銃を撃つそぶりをした。


「じ、じゃあ、あの男は…。」


わなわなしながら、男は唾を呑み込んだ。


「噂を信じなかったのか、はたまた知らなかったのか、それとも…知っていてあの女を抱いてみたくなったのか。


…何にしても、物好きだぜ。」


…言いながら、無言になった男をそのままに、青年は二人が入ったブティックホテルを一瞥すると、その場を足早に通り過ぎた―――――…。









「気持ち悪い。」


古びた洗面台に設置された蛇口を目一杯緩め、どぼどぼ…と流れる水が排水口へ吸い込まれてゆく様を静かに見つめながら、まだ幼さの残る面持ちの少女が小さく呟いた。

裸の身体にふわりと羽織った、ショールのような金色のウェーブかかった髪の毛が、彼女の腰まで優しく垂れ下がる。


彼女は険しい顔つきで洗面台の鏡に写った自分を見つめる。

薄暗い場所で、彼女のコバルトブルーの瞳が一層輝いて見えた。



下腹部が痛い。いや、それよりも、やはり"気持ち悪い"。


「うっ…。」


先ほどから何度目かの嗚咽と共に微量の胃液を吐き出し、口を荒々しく腕で拭った。

少女が手短にシャワーと身支度を済ませ、洗面所からベッドルームに戻ると、数分前まで少女を抱いていたガタイのいい男は、全裸のまま枕を抱きしめ気持ち良さそうに寝息をたてている。


(バカな男…。)


少女はその男の姿を見つめたまま、左太腿の革製のホルダーに静かに納まっている拳銃-グロック26-をスラリと左手で引き抜くと、右手に準備しておいたサイレンサーを馴れた手つきで装着し、照準を男の額に合わせた。


パシュッ







…と、小さな音を立てて、真っ赤な液体が男の額から吹き出す。


少女は瞬きもせずに数秒間その様子を見続け、そして視線を側のテーブルにうつした。

テーブルの上には、メモが一枚。


彼女はこの紙切れ一枚の為に、この男に身体を売ったのだ。


少女はゆっくりとメモを手にとり、もはや廃墟に近いブティックホテルの一室から静かに姿を消した。


「男なんて、…大嫌い。」


乾ききらない髪をさわりながら、明け始めた陽を背に倉庫街を抜けた。








彼女の名は"アスカ"。




16になったばかりの、少女。


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