本当に怖いもの
3周年記念!投票1位瑠唯君の話です!
lucid内容ですが楽しんでいただければと思います。
その暖かい光は
恐怖から
そっと僕を救ってくれた
clarity love 本当に怖いもの
「なあ!!これいってみねえか?!」
今年も残暑が続く夏。
新しい曲を作っていてもどこか集中力がかけてきた頃、翔が楽しそうに見せてきたのは一枚のチラシだった。
「『本気で怖い!お化け屋敷』?」
「近所の廃れた商店街でやるらしくて。どーせこんな暑い日にやってもできるもんもできねえし、ひと夏の青春作ってこよーぜ!」
「あ?あほなこといってんじゃねーよ!次のライブまで少ししかねーのにんなことやってられっかよ!」
「えーっ!!先輩もしかして怖いんじゃ…」
「あほぬかせ!!!」
龍之介と翔がわいわい言っている中瑠唯はどう収拾付けようかうろちょろしていると明がため息をついた。
「明せんぱ…」
「確かにこれ以上ぼんやり作っても仕方ないしね。行ってみようか」
その顔はとても美しい笑顔だった。
瑠唯はただただ頷くしかなかった。
「で、ここで…いいんだな?」
「は…い…」
見上げた建物はとても古く、本当に出そうなところであった。
瑠唯達と同じように興味本位で来た人たちもそのおどろおどろしさに帰る人がいたほどであった。
流石に4人も入るのをためらっていた。
「どうするの?俺たちも帰る?」
「いーや!ここで帰ったら男が廃るってもんです!」
明の言葉に決心がついたのか翔が気合をいれ列に並ぼうとする。
それに龍之介が追いかけていった。
「まったく。瑠唯君もいいの?」
「はいっ!?」
何か考えていたのか明の質問に瑠唯ははっとしたように答える。
「お化け屋敷。突然連れて来ちゃったけど、幽霊とか怖いの苦手だったりしない?」
「あ、その、大丈夫です。そうじゃなくて…」
「?」
「瑠唯ー!!!明ー!!!お前ら抜け駆けかー?!ゆるさねえぞ!!」
最後尾から叫んでいる龍之介に二人は苦笑をする。
「うちの怪獣が叫んでいるし。頑張ろうか。」
「…はい。」
意外と並んでいる人が多く、たわいもない話をしながら待っていた。
音楽の話だけでなく、学校の先生の話、最近流行っているドラマの話などいつもはあまり話さないことを話す機会になっていた。
徐々に近づく入り口。顔がこわばっていく翔や龍之介。
心なしか言葉数も少なくなってきていた。
そんな中、翔は瑠唯に話しかける。
「瑠唯~、お前よく笑顔でいれるな。」
「え?」
自分が笑顔でいるのも気づかなかったのだろう。瑠唯ははっとしたように頬をつかんだ。
「もしかしてもう怖すぎて顔が笑顔しか作れねえとか?」
龍之介が茶化す。
「あ、いえ、あの…」
「なんだよ~大丈夫か?」
翔が瑠唯の肩をたたき、それを受け止める。
「えっと…嬉しくて。」
「「「え?」」」
三人の反応に瑠唯はさらに俯いてしまう。
「え、瑠唯お化け屋敷そんなに好きだったのか?」
「そ、そういうわけでは、なくて…」
恥ずかしそうに瑠唯は続けた。
「ぼ、僕、こういう風に、友達と遊びに行ったことなくて。皆さんと一緒に行けてあの、嬉しくて。翔も…気分害したならごめん。」
当たり前のように仲間に入れられて、当たり前のように会話に加わる。
簡単のようで瑠唯にはとても難しいことだった。
しかも瑠唯にとってお化け屋敷はあまりいい思い出のないところ。
にこりと微笑むと瑠唯は気持ちを切り替え腰を折る。
「ごめんなさい!あ、もうすぐ、みたいです。」
「あ、ああ。」
3人は唖然とすると目の前の入り口を見た。
ごくりと息を飲むと順番に呼ばれた。
気合をいれ、4人は中へ入っていった。
「うーらーめーしーやー」
「ひええええええ!!!」
「く、くんな!!!!」
横から、目の前から、薄暗い中幽霊の格好をした人間が突如として現れてくる。
そのたびに翔や龍之介が驚き瑠唯、明の後ろに隠れる。
「ああああ、ホント来るんじゃなかった。」
「てめえだろ行きたいっていったの。後からアイス全員分おごりな」
「そんなあ~行くって先輩も言ったじゃないっすかあ~」
へっぴり腰の二人を背に明も苦笑いだった。
「流石に俺も少し怖いなあ。」
「瑠唯!翔に言ってやれ!おごるアイスはがりごりくんじゃねえぞって。超高級はーごんづのアイスだって」
「えっと、」
「もうはーごんづでも何でも奢りますううう!だから早く足進めて~!!!」
翔の叫びに瑠唯が返事をしようとしたその時だった。
後ろからゆっくりと忍び足で何かが近づく。
そしてそっと翔の方へと手を置く。
「そんなにあわててどこへ行くの?」
一同固まった。
「ぎいやああああああああ!!!!」
「うわああああああああ!!!」
「えっちょっと!」
翔の叫びを筆頭に龍之介と翔が幽霊役の人間と駆け出す。
明はそのまま龍之介に引っ張られて行ってしまう。
その場に残ったのは瑠唯のみだった。
「あっ。翔…」
お化け屋敷、この暗闇の中思い出さないようにしていた記憶は蘇ってしまう。
中学時代、クラスで肝試しをすることになり瑠唯も呼ばれた。
『やったじゃん瑠唯!楽しんでこいよ!』
自分以上に喜んでくれた美羽の言葉から少しの希望と期待を持って瑠唯も待ち合わせ場所へ行った。
『ほんとに来たのかよ。』
『美羽君でもつれてきてくれたらよかったのに』
『いいじゃん!来たんだから入れてやろうぜ』
行った瑠唯に浴びせられたのは残酷な言葉たちだった。
仕方なしに入れられた順番。
同じペアの子もつまらなそうに順番を待ちそしてスタートする。
しばらくすると前のペアが瑠唯たちを待っていた。
『後は一人で楽しめよ。こいつは俺たちが連れて行くから』
否、瑠唯のペアの子を待っていたのだった。
何が楽しくて一人で回るのだろうか。
中間地点にある神社に一人で行きはんこを押し、ゴールまで一人で向かう。
するとゴールには誰一人としていなかった。
ゆっくりした足取りで家へ向かう。
ドアを開けると美羽が玄関先で待っていてくれた。
『瑠唯おかえり!どうだった?』
手をぎゅっと握り締める。
『ただいま。すごく、楽しかった。』
とても綺麗な笑顔で伝えた。
何が言えるだろうか。
何を怖がるのだろうか。
「一番怖いのは、幽霊でも、なんでもない。人間だよ。」
ふうと息をつくとまっすぐゴールへ向かおうとする。
しかし足が動いてくれない。
わかっている。翔や龍之介、明が本当に自分のことを大事に思ってくれているのも。
それでも怖い。その一歩がとても怖かった。
「だめ、頑張るって、決めたんだ。」
手をぎゅっと握る。
だいじょうぶ
目の前を向いたとき前から奇声が聞こえてきた。
「るいいいいいいいい!!!!どこだああああああああああああうわあああああああああ!!!」
目を凝らすと翔が走って向かってきていた。
「しょ、う?」
「いたっ!!馬鹿お前!一緒に逃げねえと駄目だろ!」
瑠唯の手をつかんだかと思うと再び悲鳴を上げながら一緒に走り去った。
ゴールは晴天。暗闇から出ると余計にその明るさは顕著だった。
「ぜー、はー、もういっしょう、ぶん、はしった、ぜ…」
翔は地面に座り込んでしまっている。
先に到着していた龍之介と明は二人のために飲み物を差し出した。
「ったく。てめえが突然叫ぶから驚いて走ったんだろ!」
「瑠唯君大丈夫だった?」
明が飲み物を渡そうと瑠唯を見ると息を切らしながら、静かに泣いていた。
「お、おい、瑠唯どうした?!」
「こわ、かった。」
皆が心配するな軽いがポツリとつぶやく。
「翔!君が一人置いていくから!」
「瑠唯!わ、わりい!!」
瑠唯は首を振る。
そうじゃない。
そうじゃなくて。
瑠唯が落ち着くと4人は岐路に着く。
もちろんコンビニでアイスを買うという寄り道付きだった。
瑠唯ははーごんづのなかでも一番高いものを奢ってもらった。
そのアイスは冷たいけれどとても暖かかった。