双子ちゃんの質問
人とは幼い頃から実際に見て、聴いて、感じたものを覚えていく生き物である。
日向家の双子も例外ではない。
今日もまた一つ一つ知識を吸収していく。
「「ななちゃん、ななちゃん」」
「なに?どうしたの?」
「「ぼくのうつわってなあに?」」
「…えっ」
clarity love 双子ちゃんの質問
anfangの次回のライブまで残り一週間。
構成の流れも大分覚え、歌詞も少しずつではあるが間違えないようになってきた。
あとは細かい部分の詰めである。
香南もテンションを上昇させている。
一週間後にはいつもの様に七海や双子たちが見に来てくれる予定である。
今回はいつものとは少し趣向を変えている。三人は驚いてくれるだろうか。
サプライズを胸に秘め、しかしそれを顔に出さないよう心を落ち着け家に帰る。
こんなことが自分のとっての楽しみになるなんて香南は夢にも思っていなかった。
今日も午前様であるが七海はきっと起きてくれているだろう。
ドアをいつものように鍵でそっと開ける。
そしてきっと、七海はいつものように笑顔で迎えてくれるだろう。
「ただいま」
目の前には顔を真っ赤にした七海が立っていた。
「すみませんあの…しばらく、ライブ行けません!」
事の発端は七海と双子たちが今度のライブの楽しみでテンションが上がったため前回のライブDVDを見ることになったことから始まった。
時には歌ったり、時にはメンバーの物まねをしたりと振り返っていた。
そんな時流れてきた曲『black kiss』
anfang曲の中でもエロい評判の曲である。
周が舌で唇をなめる、キスを観客に送る。
そのしぐさが一つ一つが一際目立つ。
そんな時双子がふと思ったのか歌詞に関して質問してきたのである。
それが―――
「”ぼくのうつわ”…か…」
「はい。その…うやむやにしたままの状態なのですが、まだ双子は小学生なので…」
無垢な心で知らないことを質問してきたのだろう。
七海はそれなりに年を取ってきているのである程度の意味合いはわかる。
しかしそれを純粋な子供に教えていいのか迷ったのである。
そして悪くないながらもそのような歌を聞かせていいのかも。
「なにぶん預ける人もいませんし、私だけライブに行くのも双子たちに悪いといいますか…」
「ああ、そうだよ、な…」
たしかにanfangの歌詞やコンセプトは小学生に見せるには少々過激なものが多いのだ。
寧ろ今までよく質問されなかったなと思う。
わかるのだが、心は納得できない。
先ほどまでのテンションが一気に急降下するのがわかる。
お互いに何も口に出せずにただただ黙り込んでしまった。
翌日朝、香南はメンバーを集めたかと思うと深刻そうに話し始めた。
「俺はもうしばらく『black kiss』とか…過激な曲歌わねえ。」
「「「は?」」」
何言ってんだこいつ。
メンバー三人の目からは無言の圧力がかかる。
「今回のライブに入ってんだけど」
「どどどどうしちゃったの香南?!」
「何かあったのかい?」
夏流が心配そうにおでこをくっつけ熱を測っているが、顔を振る。
「…双子がとうとう質問した。”ぼくのうつわ”とは何か。」
「「「…あー…」」」
そして一斉にため息が出る。このタイミングで質問をするのだろうか。
「七海は一応うやむやにしたらしいが…正直俺もあの二人に質問されたらまだ答えられねえ。」
香南の言葉に三人も想像してみる。
『なあ、なあ!!』
『ぼくのうつわってなあに?』
首を可愛くかしげるアクション付きである。
「む、無理だろ…」
「あんな綺麗な瞳に答えられない…!!!」
「うーん…難しいねえ…」
まだ”赤ちゃんはどこから来るの”質問のほうがましというものである。
「ということで俺はしばらく封印する。あいつらが中学生になったら解禁だ。」
「ちょっとちょっと!!!それはだめだめ!」
ストップをかけたのはみんなのお母さん、雅である。
「三人も!流されちゃってるけど!ここは大人の事情!残り一週間もう変更はできないよ!」
「まあ、自分の曲が封印されちゃうのは寂しいものあるよね」
「…俺は別に…」
「香南!君にとっては特別かもしれないけれど。大体、『black kiss』は人気のある曲なんだから。大体その調子だと『13番目の祈り』もとか言うんだろ?だめだめ!!それはanfangじゃなくなるだろ。」
夏流の可愛い曲ばかりは流石に甘すぎるのである。
そのままどこにでもありそうな爽快感を得る曲だけを作るなどanfangが無くなってしまう。
「…じゃあもうanfangかいさ」
「日向家の皆さんを路頭に迷わせる気か?」
雅はわかっている。もうanfangがこのメンバーのものだけでないということを。
このライブにかかわっているスタッフや他のマネージャー、そして会社にも影響するのだ。
可愛い可愛い双子のたった一言であろうとそれで惑わせてはいけない。
あの双子は時に天使、大人にとっては時に小悪魔に変身するのである。
「しっかしなー、あの三人がしばらくライブに来ないとなるといろいろ問題があるよな。」
主に香南の。
「せーっかく三人のためにコンセプトを天使と女神の大冒険にしたのにねえ…」
「ここでライブやめるのもなしだからな香南。」
「…」
こうして何も変更なくリハーサルが再び開始される。
香南だけでなくほかのメンバー三人にも少なからず影響が出てしまったのもしょうがないことだと雅はいつも異常に大きなため息をついた。
一週間後本番。七海からは手作りお弁当と花束が届いた。朝も元気よく笑顔で送ってくれたのだ。
それをひもじそうに食べる香南。
「いとしのななちゃんからのお弁当でしょ?もう少し美味しそうに食べたら?」
「…七海の料理は世界一美味しいに決まってる。」
「クスッそれだけいえたら今日のライブは大丈夫だね。」
「ま、あいつらのためなら頑張れるってやつだな。」
心配していた3人が香南の様子を見に控え室に来てみたがそこまで落ち込んでいない様子だった。
ふてくされたような顔をする香南の頭を燎が優しく叩く。
そんな時ドアからノックの音が聞こえてくる。
「だれ?雅さんー?」
「お届けものだよ。」
「なんだろう?」
「どーぞ!ふてくされ王子がいるけどな!」
「…」
戸を開けるとそこには双子と七海が立っていた。
「お前ら…」
「にーちゃん!」
「俺たち、こたえみつけた!”ぼくのうつわ”!」
「「「「えっ…」」」」
「二人とも、皆さんに教えてあげて」
朝と変わらない笑顔で七海が促す。
「「”きもち”でしょ(だろ)?!」」
「うつわって、おさらといっしょ、でしょ?だからあまにーちゃんの、きもちでいっぱいに、するんでしょ?」
「おれたちじしょで、しらべたんだぜ!」
拳を作り元気よく笑顔で話す双子たち。
「だから、ライブ、みたい!!」
「にーちゃんたちの曲聴きたいんだ!!」
きらきらとした瞳で香南を見る。
そんな香南は答えを見つけるように七海を見る。
「ライブに見に行けないことを話したら、どうもそれが原因じゃないかって二人で一生懸命調べていたんです。もちろん自分たちだけで探しなさいって口は挟みましたけど。素敵な答えを持ってきてくれたので二人なら、大丈夫だと連れてきちゃいました。」
サプライズ成功だと言わせるような意地悪な笑顔。
メンバーも無意識に微笑んでいた。
周が双子のもとにしゃがむ。
「双子ちゃん、大正解だよ。本当に君たちは頭がいいね。」
「「ほんと?!」」
「ああ。だから俺たちのライブたっぷりと楽しんでいって。」
「「やったあ!!」」
嬉しそうにはしゃぎだす双子。香南もいつの間にかいい緊張感に戻っている。
「まーったく、最後には天使に戻ってくれるんだね。君たちは。」
だからみんなが愛してやまないんだよ。
その日のライブは最高潮に盛り上がる。
女神と天使が一緒に微笑んでくれているから。
--------------------------------------------------
おまけ
十数年後
いつき「ねー、みーくん、るーくん」
双子「「どうした??」」
いつき「この”ぼくのうつわ”ってなに?」
双子「「…」」
この時双子は日向家の血は争えないなと実感した。
双子の力おそろしや
そして今年も投票しております。ぜひご参加お願いします!
☆投票の仕方☆
拍手を一度クリックしていただいてお礼の下の方にある「簡単メッセージ」のところにいくつか項目があると思いますが(例:七海)該当するところをクリックしてもらい「もっと送る」ボタンを押していただくだけです。
よろしくお願いします!