天使と紳士の攻防 後編
君の両手
君の瞳
言わなくてもわかるよ
だから僕たちなんだよ
君の愛があふれているんだよ
clarity love 天使と紳士の攻防
「では、出かけてきますね。」
「周、よろしく頼む。」
「うん、任せて。」
「「いってらっしゃーい…」」
あれから数日後。香南と七海は双子を置いて二人で出かけることとなった。
しかも周と一緒にお留守番。
なぜそのようなことになったのか。それはanfangの運を総結集させた賜物だった。
『おい、七海、香南お前らにプレゼントだ。』
そう言って燎が二人に差し出したのは以前皆で某カレールーを買い漁って応募した「ネズミーシーで大人のデート?!一日10組貸切ご招待!」の当選チケットだった。
七海は手を震わせながら燎に近づく。
『あ、あの、これっど、どうして…』
『七海、俺達の運なめんなよ?』
『燎さん…!!!』
きらきらと目を輝かせながら今にも燎に抱き着かんばかりの七海。
そんな彼女を止めて香南がそのチケットを受け取る。
『二人で行くのはいいが…』
『だからだよ!おい美羽!瑠唯!』
ここで仮面Xマンを見ていた二人のところへ向かう。
『わー、りょうにーちゃんどうしたの?』
『ごはん?』
『なんとあの辛く長いカレー生活、役に立ったぞ!』
あの長きにわたり続いていたカレーの日々を思い出したのか一瞬暗い顔をしたが、役に立ったと言われたら気にならないはずがなかった。
『あたったのか?!』
『ああ!一組だけどな!』
『あれだけ、たべて…?』
嬉しそうに喜ぶ美羽とコテンと首をかしげながら不思議そうに話す瑠唯。
それを宥めながらさらに言葉を続ける。
『っつーことでお前ら二人は周とお留守番な!』
『『えっ』』
瞬時に不安な顔になる双子たち。七海も距離を縮められるよう何かあればと思ったものの突然のことに驚いた。
『俺と夏流は仕事があるからな。周は昼から来るけどちゃんと遊びに連れてってくれるらしいし夜ご飯も作ってくれるらしいぞ。』
『う、うん…』
『わかった…』
手を不安そうに振る双子を見ながらドアを閉める。
香南にとってしんみりした二人を置いていくのは心配だったが七海が首を振った。
「大丈夫です!この間アドバイスしましたから。」
「アドバイス?」
「はい!周さんが双子のこと大好きだってことを。だから心配ありません!」
「そうか。」
そっと安堵の息を吐くとん、と七海に手を差し出す。
「ここからは、大人のデート、だろ?」
「…はいっ!」
差し出された手を握る七海。
二人は夢の世界へと誘われていった。
シンとするリビングで双子は焦っていた。
『まず二人がゆっくり質問してご覧?何が好きなの?とか、そしたらきっと周さんもたくさん話してくれるよ?』
「おい、るい、おまえがはなせよ」
「ぼ、ぼく…?」
静かな部屋でヒソヒソと話してわからないわけがない。
周はソファに座りながら向かいにいる双子に笑いかけた。
「二人とも何かな?」
「えっ?!」
「べ、べつにっ!!だいじょ、ぶ!」
「そう、」
周はそっとつぶやくと思い出したかの様ににカバンからあるものを出す。
それはエプロンだった。
「お昼を作ろうと思うんだ。美羽君と瑠唯君は何が好きかな?」
「「え?」」
「君たちの好きなものを作るよ。言ってごらん?」
ぽかんと双子が周を見つめる。
そっとじっと見つめ合ったのはどれぐらいたっただろうか。
美羽がぎゅっと手を握り立ち上がる。
「お、おれハンバーグがすき!」
それを聞いた瑠唯も立ち上がりぎゅっと結んでいた口を開く。
「ぼ、ぼくはオムライス!」
突然の行動に周が驚いているが双子にとってそれどころではなかった。
自分たちに向かっている感情がわからない人間に勢いでしか行動できないのだ。
「「あまにーちゃんはなにがすきですかっ!!!」」
お昼ご飯を食べたころには3人は少しずつ蟠りを無くしていた。
気持ちいい風に天気のいい空。出かけないわけがなかった。
周は双子たちに帽子を付けてあげると水筒やレジャーシートの入ったカバンを持つ。
双子が二人で手をつなぎながら前を進む。
「あまにーちゃんはおそとすきか?」
「そうだねえ…今の季節はおそと好きだよ。」
「あまにーちゃん、どのきせつが、すき?」
「そうだねえ…秋かなあ…」
双子たちが質問することに対して周が淡々と答えていく。
時に笑いながら話していると公園に到着した。
「何をするんだい?一応ボールも持ってきてみたけど」
カバンの中からサッカーボールを出すと美羽が嬉々とした表情をする。
「じゃあサッカーしようぜ!」
「まあ3人だったら球蹴りになっちゃうね。」
「ボールけるだけ、だよね?」
「そうだね。俺もあまりやったことないし…」
三人で三角形を作りひたすらボールを蹴る。
それが三人にとってとても楽しくてついつい周りを気にせず蹴り続けていた。
ふと瑠唯が蹴り外しそのボールが幼児に当たってしまった。
「ごめんね、だいじょ、ぶ?」
瑠唯は急いでその子に近づいた。周や美羽も後を追う。
周は膝をつくとその子のぶつかった部分を撫でてあげる。
「ごめんね。大丈夫かい?」
「ひっ!おばけーっ!」
撫でる手を振り払う幼児。ボールにぶつかったことよりも周を見て驚いて泣き出してしまった。
その時の周は長い髪の毛を一つに束ねて縛っていたが、それでも前髪だけは右目を隠したままだった。
「そっか、」
周はそっとつぶやく。
つぶやくのは一言。
しかしその表情を双子たちは初めて近くで見れることができた。
そっとつぶやく周の顔はとても美しい。
しかしその表情は少しだけ、ほんの少しだけ悲しそうなのだ。
「「あまにーちゃん!にっこり!」」
「え?」
双子はそういうとそれぞれ周の右左の頬をつかみ口端をあげる。
「にーちゃんはおばけじゃねえ!!」
「にーちゃは!にーちゃんはぼくたちの、だいすきな!たいせつなひと!」
幼児はぽかんと見ていたが次第に笑い出す。
「こりゃ、ひゃたりとも、わりゃてりゅよ?」
周は今まで子供に怖がられはしたものの笑われたのは初めてだった。
どうしたらいいのかわからず思わず双子を見てしまう。
しかし双子も笑っていた。
「にーちゃんすっげーこえ!」
「ふふっすっげーこえ!」
そうなのだ。彼はこういう人なのだ。
じゃなければ好きなものを聞いてから必死に携帯でレシピを調べたりしない。
わざわざ少し遠い高級スーパーへまで買い物へ行って必死に食材を選定しない。
あんな真剣な顔をして包丁を握らない。
こげちゃってごめんね、と謝ったりしない。
近づいてきた母親らしき人にもう一度謝りその人も、周りも何か気づき始めた様子が目に映る。
「帰ろうか。」
「「うん。」」
双子の手はぎゅっと周の手を握る。
「おれね、あまにーちゃんだいすきだよ。」
「ぼくも、だいすき。」
「そうか。」
周はそっとつぶやく。
俺もね、君たちが好きだよ。
一瞬風が吹き周の前髪をなびかせる。
その表情はとても綺麗で。
双子たちはその表情に魅入られた。
それ以降双子と周が3人でいるときは以前と同じように何か話すということはほとんどなかった。
しかしそこに流れる風は三人の関係を表すように暖かいものであることは確かだった。
大変お待たせいたしました。