極上のキュンをあなたに 2
赤い面影
震える心音
これは何を意味する?
clarity love
その日七海はどこはおかしいなと思った。
朝起きるとどことなく双子がそわそわしている。
香南は普段通りであったがそれでも何か考え事をしているかのように眉間にしわが寄っていた。
先日突然スケジュールが空いたからデートをしようと誘ってきたのは香南だった。
七海は久々のデートの誘いにはいと即答した。
しかしなんなのだろうか、どこかがおかしい。
「あ、あの、香南さん」
昼ご飯を食べながらもぼっとしている香南に話しかけると香南はふと意識をこちらへ向けた。
「どうした?」
「大丈夫ですか?あの、体調が悪いようでしたら今日は家でゆっくりしていても…」
それを遮ったのは誰でもない双子たちだった。
「だ、だめ!」
「デート!せっかくだからいかない、と!」
やけに今回のデートは二人が推してくる。
双子の勢いに七海は思わずうなずいてしまった。
ご飯を食べ終え支度をしようと二階へあがろうとすると香南が意を決したように話しかけてきた。
「今日はある場所で待ち合わせをしたいんだ。」
「え?」
「場所はクロネコ公園の噴水。時間は…今から2時間後。いけるか?」
「はい、大丈夫ですけど…」
クロネコ公園とは少し遠いところにある広い公園のことである。そしてそこの噴水はよく待ち合わせ場所として利用されていた。
七海が頷いたのを見て安堵すると香南は玄関の方へ向かう。
「か、香南さん…支度は…?」
寝巻のジャージのままどこかへ出かけようというのだろうか、七海は不思議そうに香南に尋ねた。
「俺は、その…少し用事があるから。2時間後、よろしく頼む。」
「は、はい。」
今日はやはり変だ。七海は思わざるを得なかった。
2時間後、前日に何故か琴乃が電話をしてきて決めた勝負服を着て七海はクロネコ公園へ向かった。
噴水にはたくさんの人が待ち人を今か今かと待ち続けていた。
香南を探すためにきょろきょろするが、なかなか見つからなかった。
遅刻するのだろうか、七海は携帯を開くが連絡は何も来ていなかった。
もう一度探そうかと七海は考えていると周りがざわめくのが聞こえた。
もしかして香南が来てカナンとばれてしまったのではとざわめきの方向を見る。
そこには思ってもみなかった光景があった。
「I'm sorry for being late」
「…へ?」
ざわめきの中から金髪の外国人の青年が七海の元へ歩いてきた。
いや、ちがう。あの青色の目、ももしかして…
青年は七海の手を取ると手の甲にキスをした。
「Would you allow me,Lady?」
キスをした後その体制でそのまま上目づかいをしながら話す。
途端に七海の顔は真っ赤になる。
「s…sure…」
下に俯きながら返事をする。もちろん顔は真っ赤なままである。
「か、香南さん、どうして…」
周りに聞こえないようにそっとつぶやく、そう、なんとその青年は香南だった。
いつの間に染めたのだろうか、金髪の髪の毛、サングラスをかけていない青い瞳、服装は上はPコートだからわからないものの下はデザインの良いいかにも高そうなジーパンにそれをインした黒のブーツをはいていた。
香南は満足そうな顔で七海の唇に人差し指を押しやる。
「デート、するんだろ?」
化粧をしているのだろうか、いつもよりも白い肌、そして何か甘い雰囲気を醸し出す微笑み。
人差し指があるため頷けない七海は思わずごくりと唾を飲み込む。
香南はそれに頷くと七海の手を取った。
「It's cold.」
「へっ?!」
香南は七海の手を自分の顔に近づけそっと暖かい息を吹きかける。
一瞬暖かくなるものの、やはりすぐ冷たくなってしまう。
「あ、あああああのですね…!!」
「Ah…That's OK.You may not be cold.」
「ひっひやっ!!!」
香南は少し思案した後、ぎゅっと七海の手をつなぎ自分のコートのポケットに一緒に入れた。
そのつなぎ方はそう、恋人つなぎ。
したこともないつなぎ方に七海は興奮し、さらに香南のポケットに一緒に入れられたとなれば、頭がパンクしそうになる。
「あ、ああああああの、香、香南さ…」
「行くぞ。」
香南は少し嬉しそうにしながら歩き始めた。
最初についたのは映画館だった。
あれからずっと手をつないでいた七海は顔を真っ赤にさせながらひたすら頭の中でぐるぐると考えていた。
何かの記念日なのだろうか、と言うかこれは夢なのか?
そんなことを思っていると香南は足を止めた。
その場所は映画館だった。そう、今ネズミープリンセスの最新作が公開されているのだった。
「なな、見たいと言ってただろ?」
「え、覚えててくださってたんですか?」
「あれだけ目をキラキラさせながらCMを見ている姿を見たら嫌でも連れて行きたくなる。」
公園からしばらく歩きはじめているため、もういいだろうと日本語を話し始める。
やはり金髪姿に英語を話すのはカナンだと知られないための一種の対策だったらしい。
少しずつ慣れてきて、どもることなく話すこともできるようになり七海は香南に微笑みかける。
「ありがとうございます。」
「チケットは買ってある。行こう。」
それからさっそく売店へ行き定番のポップコーンとジュースを買う。
財布を出したり、売店で買ったものを運ぶために手をつなぐのはやめ、少しほっとする七海。
しかし映画館に入ると再び目を見開くこととなった。
「えっえっと…こ、この席は…」
「ああ、カップルブースらしいぞ。他人と隣じゃねえし周りと離れてるしいいかと思ってな。」
「な、なるほど…」
他人と隣になるのはいくら改善された香南と言っても難しいものがあるのだろう。
ここだと周りと間隔がありなおかつテーブルがあったりと割と広いスペースで楽しめるのだった。
香南が前にあるテーブルに買ったものを置くとソファに座る。
「なな、おいで?」
隣をポンポンと叩きコテンと首をかしげながら言うのはかっこいい男のギャップだと感じて仕方がない。
七海はぎこちない動きで香南の隣に座る。
映画はとてもいい話だった。苦労したプリンセスが最後に王子と幸せになるサクセスストーリー。
昔のネズミーを思わせる作品であった。
七海も思わず泣きそうになった…はずだった。
隣の人が腰をぎゅっと抱いてこなければ。
心臓の音が周りに聞こえるのではないかと言うぐらいバクバク言っていて映画にも全く集中できない。
硬直状態のまま映画は終わっていってしまったのだった。
それからお茶をしようと喫茶店へ入ったがそこでも香南はおかしな行動をとっていた。
七海が悩んでいたデザートを半分にしようと頼み、さっそく運ばれてくる。
七海は半分に分け香南の方の皿に移そうとすると目の前には香南に運ばれたデザートが刺さっているフォーク。
「なな、はい、あーん」
「か、かな、んさ…」
「うまいらしいぞ、ここ」
にっこり微笑まれながら差し出すデザートに罪はない。
七海は勢いよくぱくりと食べた。
「うまいか?」
「は…はい。」
「よかった。」
そして自分にもと促してくる香南。
本当に今日はおかしい。本当におかしい。
七海は顔を真っ赤にしながらデザートを刺したフォークを差し出す。
何かの罰ゲームなのだろうか。
ちらっと香南を見るとにっこり微笑まれる。
再び下を向きながらデザートを食べる。
そしてはっとする。おかしいのは自分なのではないのか。
初デートでもない、ましてや結婚もしているのに何をこんなにドキドキしているのだろうか。
何をこんなに顔を真っ赤にさせることがあるというのだろうか。
まるでこれは…
七海は黙々とデザートを食べながら今思い浮かべた疑問を必死にかき消そうとした。
「美味しかったな」
二人は再び手をつなぎ外に出て歩き始める。
手をつなぐことに慣れた七海は嬉しそうに返事をする。
「はい!とても美味しかったです!瑠唯と美羽へのお土産も買えましたしね」
「そうだな」
夜は双子もいるため家に帰らなければならない。
外へ出ると夕方になっており空も茜色に染まっていた。
休日が終わるのは少し寂しい。明日からまた忙しい日々が待ち受けているのだ。
もうすぐ家に着こうとする頃、香南が止まった。
「香南さん?」
「なな、今日は楽しかったか?」
「へ?」
「デート、堪能できたか?『きゅん』できたか?」
「は?」
きゅん?
どういうことだ?
七海は頭にクエスチョンマークが浮かび上がった。
香南は少し辛そうに、それでも楽しそうに話を続ける。
「仕事が忙しいからってかまけていたけど、デートあんまりしたことなかっただろ?テレビで言ってた。女の子は『きゅん』が好きだって。『きゅん』がないと恋愛も続かないと。だからななに『きゅん』として欲しかったんだ。」
七海の頬を手で包む。
七海はようやく気付いた。だからあんなに心臓がドキドキいうようないわゆる『きゅん』となる事をしくれたということを。
七海は包まれた手をそっと触る。
「私、正直『きゅん』はわかりません」
「え?」
「けれど、私は恋をしました。香南さんに」
「なな?」
「私、もう一度香南さんに恋をしたんです。それが私の『きゅん』だったんだと思います。」
香南の目をそっと微笑みながらじっと見つめる。
「ありがとうございました。大好きですよ、香南さん。」
「ななっ」
ぎゅっと抱きしめられると香南が耳元でささやいた。
「ありがとう。俺も、愛してる。」
家に帰るとanfangのメンバーと琴乃がそろっていた。
七海は何事かと香南を見る。
そして香南が七海に『きゅん』としてもらうために必死に漫画を見てしぐさを練習したこと、みんなもそれに協力してくれたことを初めて知った。
七海は感動して香南に抱き着いた。
「でななちゃん、『きゅん』できた?」
夏流がにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。
七海は満面の笑みで返事を返した。
「はい!」
もう一度、恋をしたんです。
大変お待たせしました!