そうだ、免許を取ろう! 01
双子が小学1年の時の話
止まらないで
前を向く君が好きだから
急がないで
君と一緒に走りたいから
clarity love
今日も日向家は4人で夜、暗い時間を見計らってネズミーへ遊びに行っていた。
先日車を購入し、香南が皆を車に乗せてくれる初めての日となった。
双子たちは新しい車に興味深々、また七海も外国車ということもあり通常は左の助手席に座っているのを右に座ることとなったのである。
はじめての風景に七海も心躍っていた。
双子たちが寝静まった帰り道ふと七海が呟いた。
「私も、車の免許とらないとですね」
そう、七海の家には香南一人しか運転できないにもかかわらず今2台車がある。
日向家4人で選んだポルシェと七海にとって思い出深いてんとうむしことビートルである。
ビートルは七海のために買ったと言っても過言ではなく、事実香南はいっさい乗っていない。
あれが動くためには七海が免許を取らなければならないのである。
最近香南の仕事が忙しく、サポートしていた七海は忘れていたが、落ち着いてきて、改めて車に乗って思い出したのであった。
「私有地だったらどれだけ七海が運転してもいいけど残念ながら私有地がないからな。」
「道路という運転できる場所があるなら十分ですよ。明日早速この近くで取れそうな自動車学校探してみます!」
「気をつけろよ?」
「はい!」
運転するきれいな香南の手さばきを見ながら七海は勢い良く頷いた。
翌日早速七海はインターネットで探すといくつか見つかった。
どこが良いかなど全く知らない七海は琴乃に電話をかけ相談する。
数日後相談の末ようやく決定し早速教習所の受付をしに向かった。
こちらのニーズに合わせているのか朝は9時から夜の7時ぐらいまで授業ができるようになっていた。
そしてその中で自分が行ける日に予約を入れるのである。
七海は双子の世話や香南のサポートをしなければならないため入れるなら昼だった。
スケジュールを考えたり、身体検査を行ったり。
数回ほど教習所へ通い入所式も終えたのちとうとう明日から本格的に授業が始まることとなった。
「「ななちゃんがっこういくの?」」
「うん!」
最近スケジュールが落ち着いているのか今日も香南と4人でご飯を食べていた。
「車の免許を取りに行くんだよ。卒業したらあのてんとうむし運転するからね。」
「てんとうむしうごくの!?」
「のり、たい!てんとうむし!」
双子は嬉しそうにはしゃいでいたが香南は苦笑いをしていた。
「なな、免許取ってもしばらくは俺が隣でナビゲーターするから、あまり一人の時に乗るなよ?」
「へ?なぜですか?」
七海は不思議そうに首をかしげる。いつも当たり前のように運転してくれる香南や七海のお父さんを見ていたため運転を甘く見ているのである。
「俺が心配なんだ。それに、明日からも…その…」
「?」
香南が照れながら下を向く。双子も不思議そうに首をかしげていた。
「技能で先生が男の可能性もあるだろ?あんまりむやみな運転して先生を近付けるなよ?」
「へっ」
七海の顔も徐々に真っ赤になってゆく。
香南の言いたい事、裏にある気持ちがわかってしまったからだ。
「ななちゃん、にーちゃんどうしたの?」
「ふたりとも、かおまっか!」
双子が心配そうに七海と香南を覗き見るが七海が首を振った。
「なっなんでもないのよ?よーし!明日から頑張ります!えいえいおー!」
「「えいえいおー!」」
一生懸命手をあげて気合を入れる三人ににこやかに笑うと香南も一緒にこぶしを天井へ差し出した。
翌日最初の授業は学科の授業だった。
七海はいそいそと教科書を取り出し準備万端の体制で待っていた。
深呼吸をするとふと周りを見る。
ジャージで来ている人、今どきの可愛い服を着た人、はたまた40代ぐらいなのか大人の好む服装を着ている人。
ここへ来ると自分が今まで歩んできた道というものは人生という大きな物の中の一つであり他にも生き方があるのだなと実感する。
当たり前のように中学へ行ったら高校、そして大学という進路へ向かう人が多いが実際には違う人もたくさんいる。
七海自身大学へ行かなかったことに対し道から外れてしまったのではないかという気持ちを持っていたがここへ来て、いろんな人、いろんな歩み方があるのだろうなと感慨深くなった。
そして何より自分のやりたいことを自分の大好きな人の傍でする。それが一番大切なのかもしれない。
一つ持っていたネガティブな気持ちがふと取り外された気がした。
45分を二時間受け次は技能教習だった。
どんな先生なのだろうと待っていると、40代ぐらいの男性だった。
「日向ですよろしくお願いします。」
「はい、よろしくね」
教習シートを差し出すと早速車へ向かった。
一番最初の授業は車の仕組みについての説明、そして最後に少しだけ走らせるというものだった。
車の仕組みについては最後に走らせるという言葉からの緊張であまりきいていなかった。
「じゃあ走らせようか。今日はとりあえず時計周りに走ってみようね。」
「は、はい!」
初めて座る運転席。始めてかけるエンジン。全てに緊張していた。
シートベルトを締め様々なチェックを終えたのち鍵を借りてエンジンをかける。
ブロロロロロという音と鍵からの振動。ああ、今自分でエンジンを書けたのだと実感する。
「はいじゃあ右のペダルを踏んで」
「は、はい!」
ぎゅっと踏み込む。すると勢いよく車が走り出した。
「日向さん!出し過ぎ!!少しで良いんだよ!」
「は、はいいいい!!!」
ブレーキをかけ速度を落とす。
それからも七海はひたすら踏み込んではブレーキを踏みの繰り返しだった。
チャイムもなる頃ようやく車から出る。
「日向さん、次はもっとペダルを上手に使おうね。」
「は、はい…」
先生に礼をし送り迎えのバスに乗る。
車の運転は難しい。そして何よりあの速度だ。
出そうと思えばいくらでも出せるあのスピードは人を殺める。
その怖さを自分で経験し終わってみれば手が震えていた。
便利なものほど、リスクが大きい。
七海は疲れた体を癒すように大きく息を吐いた。
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