はじめてのおつかい 01
双子が小学2年のころの話です
固く握られた手は
寂しさと心細さを
閉じ込めて
閉じ込めて
clarity love はじめてのおつかい
がらがらがっしゃーん
日向家の台所から突然鍋などの金属のものが落ちる音がした。
「「ななちゃん!?」」
リビングでテレビ番組を見ていた双子は急いで台所へ向かう。
すると台から落ちたと思われる七海が床で腰を撫でていた。
「どうしたの!?」
「だいじょう、ぶ?」
双子が心配そうに見つめる。
「うん大丈夫よ。ごめんね驚かせちゃったね。」
笑いながら立ちあがろうとしたが足に力がはいらないのか前に倒れた。
「あれ?」
「ななちゃん、足まっかだぜ」
「まっか…」
双子が見つめる右の先を七海も見ると真っ赤にはれていた。
「もしかして足ひねっちゃった…?」
腫れた部分に手をやると熱を持ったように熱かった。
「ななちゃん!びょういんいかねーと!」
「きゅっ、きゅうきゅうしゃっ!」
両親の事があったからか人が何か怪我をしたり病気になったりするととても心配する双子は今回もいつものように騒ぎだす。
「大丈夫よ!ほら、なんとか歩けるし冷やしたら良くなるわ。それよりも…」
七海はテーブルの上を見る。そこには少し多めのお弁当が作られていた。
「香南さんのお弁当…どうしよう…」
日向家では香南が関東地方でコンサートがあるときは必ず応援に行っている。
そしてその時には七海がお弁当を作り昼間ぐらいに持って行くのである。
今日もコンサートのため香南を見送った後張り切ってお弁当を作っていた。
そんな時に起きた事故であった。
七海が悩んでいると双子が目を合わせて頷いた。
「ななちゃん、おれたちが行くよ!」
「がん、ばる!」
「美羽、瑠唯…」
「にーちゃん、ななちゃんのおべんとうまってるよ。それにおれたちもうしょうがくせいだぜ?しんぱいいらねーって!」
「ななちゃんは、びょういん、いってきて!」
七海が双子を見ると双子は安心させるように笑顔を向けた。
しばらく眺めていたが七海も笑顔を向けた。
「それじゃあ、お願いしようかな。」
「「やったー!」」
痛々しく立ち上がるとコンサート会場までの行き方を紙に書く。
会場までは電車を乗り継がなければならない。
二人で電車に乗らせるのは初めてな七海にとってとても心配だった。
「タクシー使う?」
こんなことに大金を使うのはもったいないが、二人の行く気に提案してみた。
ところが双子は首を振る。
「いい!でんしゃのほうがやすいしぼうけんにいくっぽいじゃん!」
「ぼうけん!」
二人の気分はもはや勇者らしく張り切ってリュックの準備をしていた。
「そ、そう?じゃあお金は瑠唯に預けて美羽にはお弁当を預けるわね」
「おう!」
「う、うん!」
「二人で手をつないでいくこと、知らない人についていかないこと。もし迷子になったら駅員さんに聞くこと。いいわね?」
「「うん!」」
「あとこれ私の携帯。もし何かあったら香南さんにでも、うちにでもかけなさい。」
「「ありがとう!」」
「あと…」
心配そうに七海が話しかけようとすると美羽がストップをかけた。
「ななちゃん、だいじょうぶだって!」
「ぼくたち、いける、よ!」
双子がリュックを背をい意気込んで言った。
「そう、ね。」
玄関まで見送ると双子は張り切って手を振る。
「「いってきまーす!」」
「いってらっしゃい」
七海も心配そうに手を振り返した。
「こっからどこまでいくんだ?」
「えっと、ね、しんじゅくえきまで!」
無事に最寄りの駅についた双子はいつも都会へ出るときに乗っているホームへ向かい電車に乗った。
「しんじゅくえきってなんこえきつけばいいんだ?」
「えっとね、」
瑠唯は掲示板を見る。
「あと、6つだよ」
「まだまだじゃん!ひるごはんどこでたべる?」
「でんしゃのなかで、たべちゃ、だめだから、にーちゃんの、ところについて、からっ!」
今にもリュックの中からお昼御飯ようにともらったおにぎりを食べそうになる美羽を瑠唯は必死に説得する。
「わーってるって!あっるいみろよ!あそこにXマンのかんばん!」
「あ、ほんとだ…!」
以前美羽が迷子になった事件で仲良くなった池上のポスターを見つけると二人はくぎずけになったように見つめていた。
「るい、ぜったいにーちゃんにべんとうとどけるぞ!」
「うん!」
二人は頷き再び手を握り直した。
都会に近付けば近付くほど人で電車がいっぱいになってきた。
『つぎは~しんじゅく~しんじゅく~』
「あっしんじゅく!」
「しんじゅ、く!」
二人は降りますと言う声を出しながら出口の方に近づきドアが開くのを待つ。
しばらくするとプシューという音と共にドアが開く。
「るい、ぜったいはなすなよ」
「う、うん!」
双子は一生懸命はなれないように手を握りしめて人の波にのまれながら新宿駅へ出ていく。
気がつくとホームを出て出口付近にいた。
広い新宿駅で呆然と立ち尽くしながら双子は目を瞬きするしかなかった。
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