天使の悪戯 04
例え君が離れても
僕はずっと傍にいる
そう誓うよ
clarity love 天使の悪戯
テレビ番組の本番15分前、香南たちはまだ楽屋にいた。
香南たちも探そうとしたが、本番直前なこと、美羽が自分で帰ってくる可能性もあることを考慮し残ることになった。
香南は椅子に座り机で手を組み顔を沈めている。
あいつの悲しさを感じれなかった自分のせいだ。
わかっていたのに、
どうして俺は…
「やっぱり俺…」
「だめだ。ちゃんとスタッフが探してるだろ。香南、お前のせいだけじゃねえぞ。お前は仕事もあるのにちゃんとやった。」
燎は隣に青いマグカップに注いだコーヒーを持ってくる。
「静かに待ってるのが一番だ。そうだろ」
香南はコクンと頷くとコーヒーを一口飲んだ。
「あと5分だ。それ以上は待てねえ。」
「…ああ。」
ホントは今もスタンバイしていなければならない。
ぎりぎりまでここで待たせていただいているのだ。
悶々とした空気が流れる中ドアノックが聞こえてくる。
香南は素早く立ち上がるとドアの方へ向かう
「はい、どうぞ」
ドアが開かれるとそこには若い男に抱かれた美羽がいた。
「美羽っ!!!」
「にっにいちゃっひっく、わあああああん!!!」
急いで美羽の方へ向かうと若い男から美羽を受け取る。
そして胸いっぱいにぎゅっと抱きしめる。
「ごめなさあああいっ!」
「俺が悪かった。寂しい想いをさせたな。ごめん、」
メンバーも無事見つかってほっとしている。
ひとしきり感動の再会をし終わり美羽も落ち着いてきた頃、そう言えばと連れてきた若い男を見る。
「お前…?」
香南はどこかで見た顔だと思った。
考え込んでいると後ろから夏流が思い出したかのように叫ぶ。
「あー!仮面Xマンじゃん!」
「あぁ、ホントだ。」
「どおりで見たことある顔だと思った。」
「は、はあ。」
俳優が苦笑いをする。まさかanfangが自分を知っているとは思いもよらなかったのだ。
「かめんXマンね!るいをたすけてくれるんだ!そんでおれもにーちゃんのところへつれてってくれた!」
「そうなのか?」
「はい。かなんと聞いて、もしかしてと思ったんです。俺、その…anfangのファンなので。」
俳優が少し照れ顔で応える。
「かめんXマンあんふぁんぐすきなの?」
「え?!いや、俺というか俺の中の人というか…」
だんだんとごにょごにょ答える俳優に美羽は首をかしげる。
「…そうか、悪かったな。仮面Xマン。本当に助かった。」
「いや、気にしないでください。じゃあな、みう。『お前の願い必ず届ける』」
「うん!『ねがいはせかいをすくう』!だよね!」
「ああ。じゃあな。また会おう。」
俳優は美羽をひと撫でするとanfangメンバーに会釈し去って行った。
「すげー、あいつプロだな。」
「イケメンだしね。流石はお母様方のアイドル。」
皆で頷いているとドアから今度は雅が現れた。
「皆何してるの!時間!!」
時計を見るとすでに約束の5分は過ぎていた。
夏流や燎、周は慌てて出ていくが香南は美羽をゆっくりおろして肩を掴み美羽を見つめていた。
「香南!早く!」
「ああ。」
そう呟くと美羽の頭を撫でる。
「テレビではいつもは、七海や瑠唯、美羽たちに向けて歌ってる。」
「?」
「けど今日は、美羽のためだけに歌うから。」
美羽は眼を見開く。
「おれだけの、ために?」
「そう。頑張るから、聞いてくれるか?お前もその間頑張ってくれるか?」
香南の質問に美羽は拳を握った。
「おれ、がんばる!がんばって、がまんする!にーちゃんがうたってくれるなら」
美羽が香南に向かってこぶしを突き出す。
香南は笑顔を浮かべると美羽のこぶしに自分のこぶしをコツンと合わせた。
「それではanfangの皆さんで『shadow』どうぞ!」
始まる直前、香南がマイク越しに囁く。
「Dear my angel」
投げキッスをすると夏流のギターが始まった。
『shadow』は香南の曲でいつものようにダークな曲だった。
歌の時だけ見学させてもらっていた美羽は吸血鬼のような衣装を着て不敵な笑みで歌う香南を目をキラキラさせながら見ていた。
「ほら、香南、美羽くんのために歌ってるよ。」
「うん、うん!!」
美羽と一緒に見ていた雅はこっそり話しかけると美羽は嬉しそうにうなずいた。
美羽が手を振ると更に笑みを深め勢いづいて歌う香南。
テレビの収録は最高の仕上がりで終了した。
次の仕事は雑誌のインタビューだったが、終始美羽を膝に乗せて行っていた。
仕事とはいえこれ以上美羽を独りにさせたくないとメンバーからの願いだった。
冒険をし疲れ果てた美羽は香南の膝でぐっすり寝ていた。
「今回の曲はもう一人の自分を想像して書いた。」
「裏側の自分、それはどちらなのか自分で判断しなければならないけれど、どちらも自分だと言うことを認識しなければならないと思う。」
「俺のもう一人は気づかなければずっと俺だったものだ。」
いつも雑誌のインタビュー時はピリピリとイラついているような香南だったが今回は穏やかに過ぎて行った。
しかもいつも以上に饒舌でたくさんのことを話してくれた。
たまに美羽が寝言を言うと笑顔を浮かべ「もう少しで終わるからな」と美羽の耳元で呟く。
インタビュアは毎回この少年が来てくれないかと祈るばかりだった。
美羽が起こされたのは夜の11半過ぎ。
香南に抱っこされていた美羽は背中をたたかれうっすら目を開く。
気が付くとマスクをしており、暖かいダウンジャケット、マフラーを見につけていた。
「ほら。美羽、ご褒美だぞ。見てみろ。」
「…ん?」
目をこすりながら見てみると目の前には自分の大好きな、うちが見えた。
「え?おうち?」
「ななにもちゃんと伝えてあるから。」
そう言いながら家のチャイムを鳴らす。
すると大好きな声が聞こえてくる。
「はーい!あら~目真っ赤にして。おかえりなさい。」
大好きな顔がそこにある。
「ななちゃ…」
たくさん泣いたと言うのにまたもや涙を浮かべ七海に抱っこをせがむ。
「あら~。赤ちゃんになっちゃったね。お兄ちゃんになったんじゃなかったの?」
「あしたから!」
「美羽、ずっと我慢してたもんな。偉いぞ。」
香南が頭を撫でる。すると家の廊下から声が聞こえてくる。
「みう!」
「るい!」
大好きな片割れだった。
すぐに七海の腕から抜け出すと瑠唯の元へ駆けつける。
そしておでこをくっつける。
「ねつは?」
「もう、さがったよ。」
「なおったの?」
「ごはんいっぱいたべたから、なおった!」
瑠唯は満面の笑みで言った。
美羽はいてもたってもいれず瑠唯を抱きしめる。
「るいっ!よかった!!よかったよお!」
美羽の号泣に瑠唯は呆然、七海と香南は微笑みを浮かべていた。
翌日、再び瑠唯は病院へ行き完治したことを先生に伝えられた。
無事に治った瑠唯と美羽はようやく元通りに二人一緒に寝ることができた。
香南と七海がこっそり二人を見に行くと手をぎゅっと握り笑顔で眠っていた。
~おまけ~
仮面Xマン役でおなじみの池上巧はまだ一週間前のことを思い出していた。
あ、会えた…!!!
会えた!!
生のanfangに会えた!!
自分が芸能界に入ったとしても決して会えると思っていなかったanfangに会ってしまったのだ。
その日は興奮して一日中寝られなくて次の日ようやく寝ても夢に出てくる始末だった。
しかも、自分のことを知っていた。
何故かなどどうでもいい。ただその事実だけが自分をここまで浮かれさせるのである。
100年に一度の天才役者と言われた彼もanfangにかかればなんてことないただのanfangファンに成り下がるのである。
うきうきしながら今自分が主演を務めている月9の台本を眺めているとマネージャーがすっ飛んできた。
「たっ!たくみ!!これ!!!」
マネージャーが持ってきたものを見つめるとなんともうすぐ発売されるanfangの『shadow』のシングルに4人のサインが入った物、そして手紙だった。
「増田さん…これ…」
シングルを持つ手が震える。anfangは気まぐれにしかサインを書かないのはファンの間で有名だ。おそらくファンの中でサインを持っている人物など数人いるかいないかだろう。しかもメッセージ付きだ。
それを今自分は手にしていた。
「anfangのマネージャーさんから直々にいただいた。この間のお礼です、って。」
「そんな!俺…」
シングルは3枚購入当たり前!と思っていたのに。
まさかその一枚が本人様から手に入るとは…
もはや池上の鼻からは赤いものが流れていた。
鼻を拭きながら隣にある手紙を見てみる。
そこには二枚の手紙と一枚の絵と写真が入っていた。
「かめんXマンありがとう。ねがいはかなったよ! みう
ありがとう!なおりました!みうとかめんXマンのおかげです! るい
あ、これこの間の。」
必死に助けてくれと願った少年。
どうしても叶えたいと思った。
だから役になって自分も祈った。
どうか、”るい”が早く良くなりますように。
「よかった。良くなったんだ。」
ほっとして絵と写真を見てみる。
絵には仮面Xマンの絵、そして写真には美羽と瑠唯と思われる人物が幸せそうに写っていた。
池上はクスリと笑うと自分の手帳にそっと挟んだ。
終わりました!
俳優何気に大活躍。
お気に入り登録、拍手いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
追記――
池上と美羽が言う「お前の願い必ず届ける」「願いは世界を救う」は仮面Xマンの口上みたいなものです