天使の悪戯 02
ぎゅっと握ると
君も握り返してくれる
それだけで
とても安心するんだ
clarity love 天使の悪戯 中編
「38.9度…」
病院へ連れて行き薬をもらってきた。
あまり多くの量は無理だったけれどおかゆを食べてくれたので薬を飲ませた。
しかし飲んだばかりだからか熱は下がっていなかった。
「ごめ、なさ、」
息苦しそうに目に涙を浮かべて謝る瑠唯。
「なに謝ってるの。誰も瑠唯が悪いなんて言ってないよ?大丈夫大丈夫。お薬飲んだしすぐ治るからそしたら皆で遊びに行こうね。」
手を握ってあげるとその手はとても熱かった。
心配しないでと手をこすってあげると気持ちよさそうに目を瞑る。
「さ、いっぱい寝なさい。ななちゃんもずっとここにいるから心配しないで。」
「…みうは?」
いつも一緒にいる双子の傍らがいない。
それだけで寂しさが募ったのかもしれない。
「美羽は香南さんとしばらく香南さんの家で暮らすから。元気になったらまた会えるよ。」
「にーちゃん、と?」
「うん、だからななちゃんと一緒に早く治そうね。」
しばらく考えているそぶりが見られたが眠気が襲ってきたのかすぐに寝てしまった。
「早く治りますように。」
ぎゅっと握った手を自分の額に付けて祈るように呟いた。
「大きいビル!」
「ああ。大きいな」
次の仕事場であるスタジオに来ていた。
ここでは雑誌の撮影、インタビューが予定されている。
美羽の入場許可証をもらうと控室へ向かう。
「みうみう~!!」
「なつにーちゃん!」
最初に出てきた夏流に押しつぶされそうになる美羽。
「いらっしゃい。はい、トロピカルジュース。美羽くん好きだっただろう?」
「わあ、あまにーちゃんありがとう!」
奥の方にあるソファに周が促し座らせ最近美羽のお気に入りであるトロピカルジュースを飲ませる。
「美羽~お菓子もいっぱいあるぞ。お腹すいたら食べてもいいぞ。」
「こんなにたくさんいいの?」
嬉しそうにお菓子の山を見つめる美羽。
3人の行動に思わず香南はため息を吐く。
「お前ら、美羽を太らせる気か…」
「べっつに~!あ、人生ゲームも買ってきてもらったんだった!暇ができたらやろうよ!」
「じんせいゲーム?」
知らないと言ったように夏流の方を向いて説明を促す。
「すごろくの様なものだよ。よっしゃ!じゃああとからすっか!」
「え、その前にこのビル探検するんじゃなかったのかい?」
「あ、そうだった!みうみうはビル探検とゲームどっちが良い?」
「おい、お前ら、ちょっと落ち着けよ。」
香南が想っていた以上にメンバーの3人は準備万端だった。
しかし一応親代わりの香南はそうもいかない。
「美羽、連絡帳には何て書いたんだ?」
「あ!れんらくちょう!」
美羽は急いで背負ってきたランドセルから連絡帳を出す。
日向家では家に帰ったらすぐに連絡帳を見せる習慣があった。
今日は七海ではないけれど香南に出さなければならないと美羽も無意識に思っていたのかもしれない。
連絡帳は香南へ手渡された。
連絡帳には今日から4日間学級閉鎖があること、その時の宿題が出されていること、体調には十分気をつけることなどが書かれていた。
「宿題たくさんあるんだな。」
「うん。さんすうドリルとね、かんじドリルとね、あともうすぐかんじ大会とけいさん大会があるからそのれんしゅうだってプリントもらったよ。あ、たぬきの糸車をかぞくによんできなさいとも言われた」
「じゃあ、俺たちが仕事行っている間は雅さんに見てもらいながら宿題頑張るんだぞ?読書はあいつら3人に聞いてもらえ」
「うん!」
美羽の元気のいい返事に香南は頷くと美羽の頭を撫でた。
それと同時に香南がメイク担当者に呼ばれる。
そろそろ準備をしなければならなかった。
「3人ともよろしく頼むな。」
「「「おっけー!」」」
「よっしゃじゃあ宿題先に片付けるか!」
「うん!きょうかしょ出すね!」
美羽の読書の声をBGMに香南の化粧は始まる。
その顔はいつもより穏やかだった。
「あれが噂の弟さんすか?」
メイクさんも嬉しそうに話しかける。
結婚してから会ったことはなかったものの、結婚以後香南のメイクの時間にいつも話などしなかった香南がたまにポツリポツリと家族のことを話すようになってくれた。
それから家族の話題を振ると嬉しそうに、そして照れながらも話をしてくれるようになった。
いわばメイクにとってはコミュニケーションの橋渡しだったのだ。
その話題の中心人物の一人が現れたのだ。
メイクさんも聞きたくてうずうずしていた。
「ああ。五月蠅いかもしれねえけど、今週だけよろしく頼む。」
「わかってますよ。しっかし、あれは癒されますね。香南さんがいつも話してくれるだけあります。」
「…まあ、な。」
香南にとって双子は癒しだけではない。
いろんなものを与えてくれるのだ。
今まで自分が経験してこなかった幼いころを双子は感じさせてくれる。
それは自分ができなかったという悔しい思いもたまにある。
そんな時は決まって七海がこう呟くのだ。
『香南さん!私たちも初心に帰りましょう!』
時には歌いながらハイキングそしてイチゴ狩り。
ネズミーでカチューシャをつけ、ポップコーンのバケットをぶら下げる。
夏には海に行って砂でお城を作る。
今までなにも経験したことがなかった香南にとって、子供のころの経験を今取り戻している最中なのだ。
一緒に傍で感じさせてくれる七海に、双子に香南は本当に感謝していた。
「―とさ。おわり!」
そしていろんなところから拍手が起こる。
「やべーこんな良い話だったっけ。俺泣けてきた…」
「ぼ、僕も…」
前の鏡から燎や夏流を見ると二人とも手で顔を押さえている。
「ちょっと二人とも、今から撮影だから。真鍋さん、今野さん!」
雅は急いでメイクさんを呼び化粧を直してもらう。
香南は苦笑いをすると少し大きな声を出す。
「美羽、それ聞いてもらいましたのしるし、ここにいる人皆からもらえ。皆聞いてくれてたぞ。」
「うん!はいりょうにーちゃん、なつにーちゃん、なかないで?しるしください!」
「もちろん!おら!サインだ!」
「僕も!はい。」
「俺もね。どうぞ。」
聞いてもらいました帳に次々にサインがされてゆく。
まさか担任もanfang全員のサインがこんな子供の聞いてもらいました帳にされているなんて思ってもいないだろう。
そして雅は今まで話したことのないスタッフにも緊張した面持ちであったが印をもらいに行っていた。
「にーちゃん!しるしください!」
「ああ。その前にこのにーちゃんにもしてもらえ。」
「えっいいんすか?!」
「しるしください!」
ニコニコ笑顔な美羽に究極にいやされメイクさんは張り切って聞いてもらいました帳にサインを入れた。
それからインタビューが行われ、撮影が行われた。
最初だからと遠くで見学していた美羽は様々な機材に興味深々の様子だった。
また違う場所に向かいラジオの収録があった。
行く先々で美羽はタヌキの糸車をスタッフに読み聞かせサインをもらっていた。
ラジオの収録が終わる頃になると流石に疲れたのかソファでランドセルを枕にぐっすり寝ていた。
「ほーんと天使ちゃんだよねえ。」
「流石にこんだけ振り回したら疲れるわな。」
皆で苦笑いしていると香南が美羽を抱きあげおぶってあげる。
「帰りはお前の家で良いのか?」
雅がランドセルを持ち上げながら言う。
「ああ。ついでにちょっとお願いしたいことがあるんだけど…」
「ん?」
いつの間にか眠ってしまっていた七海がふと起きたのは誰かに肩をたたかれていたからだった。
ぴくっと肩をあげその方向を見上げると黒い帽子をかぶりマスクとサングラスを着けている人物が七海を見つめていた。
「ひっ!」
思わず大声をあげそうになった七海の口を黒い帽子の人物が塞ぐ。
「俺だ。香南だ。」
「あ、香南さん…」
ほっと一息つくとはっとしたように周りを見渡す。
「香南さんどうして?み、美羽は…?」
徐々に回るようになった頭で疑問に思ったことを質問する。
「美羽は今メンバーに面倒見てもらってる。ていってももう夜遅いし寝てるけど。ここまでは雅さんに送ってもらった。」
時間を見ると夜中の2時を過ぎていた。
香南は瑠唯を見つめる。
「瑠唯、どうだ?」
「インフルエンザでした。お薬貰ったので熱はだいぶん下がりましたけど、平熱に戻るにはもう少し時間がかかるかと…」
「そうか。」
香南はそう呟くとまわりこんで瑠唯の傍まで向かった。
おでこを合わせ熱を測るが少し熱く感じられたのか眉をひそめる。
ゆっくり手で汗に濡れた髪の毛を透かす。
「大丈夫だぞ。美羽も俺もついてるからな。頑張れ。」
マスクを外すと瑠唯の額にキスを送る。
「じゃあ、」
「はい。」
明日も朝から仕事が入っているためこれ以上はとどまれなかった。
七海が玄関まで送る。
「気をつけて、明日も頑張ってください。」
「ああ。七海もお前が倒れたら元もこうもないからな。体調管理しっかりな。」
「はい。」
少しさみしそうな七海を見て香南はマスクを外す。
「香南さ―」
突然遮られたのは香南は唇を重ねてきたから。
離れた時には七海の顔は真っ赤になっていた。
そして次にはどちらからもなくお互いに唇を重ね合わせた。
もう少しだけ続きます!
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