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少女

 ある雨の日の夜。少女は自転車を止めて橋から飛び降りようとする。迷いながら橋の欄干に手をかけて体を越えさせてその上に座った。生きていても死んでいても意味なんてない。それは真理だ。ならなんのために生きるのか。透明な世界は若い意思を拒絶する。変えることなんて誰にもできはしない。これからどんどん不幸になるならば、いっそのこといなくなってしまえばいい。

猫が一匹通りかかった。何かに疲れた様子で雨に濡れている。擦り寄ってはこないが逃げもしない。少女はふとそれを抱き上げたくなって橋から地面に戻る。もし猫が大人しく少女に抱かれたならば飛び降りるのはやめよう。猫が逃げてしまったならば、飛び降りよう。少女は決めた。ずぶ濡れの猫に近づく。猫は動かなかった。だが少女が手を伸ばした瞬間に駆け出した。まるで何か恐ろしいものを見たかのように。

「……あはははは」

 少女は笑いながら泣いた。誰も自分など必要としていないのだと突きつけられたように感じた。ずぶ濡れの少年が橋の向こうに現れたのはその時だった。青い少年だった。夜に青が浮き上がって見えた。猫を抱き上げていた。こちらに近づいてくる。

「これ、君の?」

「はい?」

 はい。と少年は捉えたようだ。猫をこっちに突き出してくる。少女はなんとなくそれを受け取った。猫は逃げない。大きな瞳で少女を見返してくる。透明な青い目だった。きれいだ。

 少年は引き返して雨の夜に消えた。手の中の猫が少女の頬を舐めた。ざらざらとした舌が何かを削っていく。猫の体は濡れているがそれでも暖かい。少女の手に力がこもった。「ナ!」鋭く一声鳴くと猫は少女の手から逃げていった。爪が手を掠める。猫は一度振り返る。どこか名残惜しそうに見える。駆け出した猫はすぐに見えなくなった。

「待って!」

 少女はそれを追って、飛び降りるはずだった橋を渡った。小さな引っかき傷のできた手は熱く、細い痛みが胸に残る。



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