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 どこの肉が一番うまいだろうか。彼はしばらく考え、分厚い太股の肉を切り取った。肉きり包丁程度ではなかなか骨の折れる作業ではあったが、彼はやりとげ、薄切りにして熱したフライパンに載せた。ジュウジュウと音を立てて焼けていく。彼は手早く塩胡椒を振るい、肉全体の色が変わるまで辛抱強く待った。出来上がったそれを皿に盛り付けまずは一口食べた。

 不味かった。

 鉄の味がひどく濃くて食えたものではない。当たり前だ。血抜きもしていない、熟成もさせていない肉がうまいはずがない。だが男にそんな知識はなく、これでこの世には楽しいことなんてなに一つないことが証明された。死のう。彼はあらかじめ打ち付けてあった釘に輪を作ったロープを掛けた。長さも丁度いい。手ごろな椅子がなかったので学生時代の教科書を積んで足場を作る。踏みしめるとまあまあ安定している。首を輪に描掛け、彼は本を蹴った。崩れて、彼の首は空中でぶらんと釣り下がる。苦痛が彼を襲う。息がしたい。息がしたい。息がしたい。いま肺に空気を吸い込んだらとても楽しいのではないかと、ふと彼は考えつく。これほど飢えたことが彼の人生にはいままでなかった。彼は息を吸い込もうとした。ロープに手をかけてもがく。しかし縄は彼の首にしっかりと食い込み、男がその最後の衝動を満たすことはなかった。彼は死んだ。




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