不完全少年
繁華街にもう一度向かう。昨日と同じように本屋さんに行って、昨日とは違う漫画雑誌を買ってからマクドナルドに入った。照り焼きバーガーのセットは昨日より美味しくない。同じようにお腹は空いてるはずなのに。どうしてだろう。漫画雑誌も、映画館も、スーパーも、何もかもが昨日より薄い。……ああ、世界の何かが変わったんじゃない。僕が少し白くなったんだ。人間は慣れていく。昨日楽しかったことが今日の普通になる。そうして気づかないうちに日常は白く染まる。僕が白くなる。僕は白くなんてならない。それがどれだけ難しいことか僕は知った。
「どうりでみんな白い訳だ」
僕は繁華街を出た。何かを探して歩くつもりだった。だけど雪の降るようなこの真っ白な世界に何があるのか、僕にもわからなかった。ひどく疲れていた。ガードレールに腰掛ける。
「僕はここで何を探してるんだろう」
呟いたときそこにいたのは、女の子だった。
「あ、あなた。こないだの夜の」
「あ、橋の女の子」
「あの時はどうもありがとう」
「どういたしまして」
「あなたはここで何をしてるの? 学校に行かないといけない時間でしょう」
「世界に色を塗る方法を探してるんだ。家出中だから学校は行かなくていい。君は? 学校は?」
「私は生きてる理由を探してるの。学校は、休憩中。傷が治ったらまた行くつもり」
「生きてる理由なんてあるのかな」
「きっとあるわ。だって生まれたんだもの」
「そうか。じゃあ、あるのかもしれないね」
「ねえ。世界には色があるの?」
「うん。真っ白なんだ。どこの誰も、僕の目に見えるのは。僕は青でありたい」
「私も白い?」
「……ううん。君は赤い。なんとなくだけど」
「へえ。なんだか素敵ね」
「そうかな」
「そうよ」
「じゃあ、そうなんだろうね」
女の子は少し笑った。それは自然な笑みじゃなくて痛みを堪えるような笑みが癖になったものだ。かさぶたの間から血が滲んでる。赤が流れる。そんな色もあるのか。僕は何か言おうとした。彼女の傷を癒す言葉を。だけど自分の口から何も出てこない。僕は大人になりたいと初めて思った。こんな時に優しい言葉が言えるような大人に。
「ねえ、少し歩かない? 君となら楽しそう」
「喜んで」
僕らは手を繋いだ。




