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 彼はアルバイトのためにアパートを出た。出勤のための十数分だけで三人の警察官を見た。彼の心拍数は平常時と比べて特別変わらない。表情にも、歩き方にも変化はない。彼は何か楽しいことはないかなぁと考えていた。いつもと同じ道。なんの希望もなく、ただ食べるためだけに仕事に向かう。この道は彼にとって絶望の象徴だったかもしれない。彼は普通だった。特別仕事ができるわけではなかったし、できないわけでもなかった。ただ目が気に食わないと言われていた。理由はわからない。視力がよくないせいで細く、誰かを敵視し続けていたからかもしれない。ただ彼自身も自分の目が嫌いだった。男の目は常に一定の腐臭を振り撒いている。

スーパーに着いた男は、適当に挨拶をして、着替え、仕事を始めた。黙々と手を動かすだけ。必要な会話以外は最小限しかしない。誰かに気味が悪いと言われる。それにも慣れている。きっとそのうちこの職場も辞めるだろう。捕まるのとどちらが早いか。考えることに意味はなかった。留置所の中のほうが、彼にとってもしかしたらマシかもしれない。いいや、こちらのほうがマシだと思い直す。なぜならあちらでは死ぬことができないからだ。自殺する自由がある。いつでも自分の命を断つことができる。少なくともそういう意識を持つことができる。それだけで男の心は少し許された。

 仕事が終わり、彼はホームセンターで釘とロープと金槌を買った。きっとこれも楽しくないのだろう、という予感があったからだ。帰りに通った公園の近くで、一人で歩いていた少年を見つける。彼は自分がいま刃物を持ってきていないことを悔やんだ。家に帰ってから、彼は「ああ、ここまで拉致してくればよかったのか」と思い小さく落胆した。そして次に人気のないところで誰かを見つけたときはそうしようと決めた。



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