不完全少年
今日をもちまして晴れて13歳になりました。外国では縁起の悪いの数字だとか。由来は知らない。だけどこれからいろんな不幸が僕を襲うであろうことは予想できた。
僕は一つ決意をする。与えられた四畳半を捨てるための決意。溜めに溜めたお年玉は今年で十五万円になる。
家にある物の一つ一つにお別れを告げる。毎日眠った布団。よく芯が折れる鉛筆。あまり使わなかった勉強道具。妹と取り合いをしたクマのぬいぐるみ。大好きだったゲーム機。ラッパ飲みして怒られたお茶のボトル。名前のわからないキャラクターの描かれたコップ。数を挙げればきりがないさようなら達。
最後にこれからしばらく会えなくなる父さんと母さんの匂いを肺一杯に吸い込んだ。それから息を止める。匂いは血液に溶けて体の中を巡るはずだ。息を吐き出した。
化学繊維で作られた小さな財布と少しのお菓子と僕だけを持って、僕は初めて子供から少年になった。
行って来ます。
誰もいない家を出る。
風が吹いた。それは生ぬるくてどこか古臭い感じがする。雨が降る気がした。傘は持ってきていない。僕は公園に逃げ込もうかなと思ったけれど、遠くまで歩こうと決めた。家の周りにいると父さんと母さんに見つかってしまう。何もかも捨てた気分になってみると新しいものだらけだ。コンクリートの壁のざらざらを手でなぞりながら歩いた。横断歩道は黒いとこだけ。マンホールは踏む。いままで行ったことのない場所を求めて、僕は歩き続ける。どこか急ぎ足の人たちが次々に流れていく。それは完全な世界だった。
「僕には何か足りてない」
そんな気がした。自動的な世界が一つ終わりを告げる。煙草の白い煙を吐いているおじさんがガードレールに腰掛けて人を見ていた。僕はなんだかみんなが白い煙を吐き出しているのに、自分だけが青い煙を吐いているように思った。世界は真っ白だ。理由はわからない。その中できっと僕は世界の色を変える権利を得た。一緒じゃないといけない理由なんて、きっとない。
雨が降る。しとしとと弱い涙雨。煙が晴れて世界が一つ透明になる。そこに青い色をつけよう。色の塗り方はまだわからない。これから、覚えればいい。




