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第13話 保留


 例外ログは、最終的に確定されなかった。


 朝の一覧に表示される項目は、前日と同じだ。


――例外:一件

――状態:未確定

――処理期限:なし


 数値は更新されていない。

 移動記録も、接触記録も、追加されていない。


 存在しているのは、項目だけだ。


 委員会室では、誰もその件に触れなくなった。

 話題にする必要がなくなった、と言う方が近い。


 制度が保留を選び続けている以上、

 個人の判断は入り込めない。


 私は、通常業務をこなす。

 問題なしを押し、

 基準値以内を確認し、

 一覧を閉じる。


 例外は、画面の端に留まったままだ。


 昼休み、校内は以前より静かだった。

 生徒が減ったわけではない。


 立ち止まる者が減った。

 視線を合わせる時間が短くなった。


 申告件数は、明らかに減少している。


――自己申告:前月比 減

――例外発生率:変動なし


 制度は、安定していると判断する。


 掲示板を確認すると、

 件の話題は下に流れていた。


「最近、静かだね」

「申告しない方が楽」

「何も言わなければ何も起きない」


 結論めいた言葉が並ぶ。

 だが、誰も断言していない。


 誘導された行動は、

 すでに習慣に変わりつつある。


 午後、委員会室に、久しぶりに問い合わせが来た。


「例外って、いつまで残るんですか」


 私は画面を確認する。

 規定上の回答は、決まっている。


「未確定のままです」


「……消えない?」


「消去条件は、定められていません」


 それで会話は終わる。

 相手は、納得した様子でも、不満そうでもなかった。


 ただ、確認したかっただけだ。


 放課後、校門付近で人の流れを見る。

 例外生徒の姿は、最後まで確認されなかった。


 だが、捜索も、通報も、発生していない。


 制度は、行動がないことを異常として扱わない。


 消失は、記録されない。


 私は、例外ログを開き、

 何も入力せずに閉じる。


 確定もしない。

 削除もしない。


 


 帰り際、委員会室の灯りを落とす。

 端末は自動的にスリープに入る。


――未確定項目:一件

――保留中


 誰かが戻ってくる可能性。

 戻ってこない可能性。


 どちらも、記録上は同じだ。


 廊下を歩きながら、

 私は自分の過去ログを思い出す。


 申告しなかった滞留。

 問題なしで処理された判断。


 あれも、保留されているのかもしれない。

 制度ではなく、私の中で。


 校舎を出る。

 夕方の風は、いつもと変わらない。


――移動:通常

――滞留:基準値以内

――接触:なし


 完璧なログだ。


 それでも、

 使われなかった判断が、

 どこかに残っている。


 例外は、解決されなかった。

 だが、残された。


 保留されたまま、

 次の記録に、何も影響を与えない形で。


 私は、その状態を維持する。


 それが、制度における

 最も正しい終わり方だった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


本作『保留された記録』は、

出来事そのものよりも、

**「判断されなかったこと」「処理されなかったこと」**が

どのように残っていくのかを描いた作品です。


例外は解決されません。

失踪も説明されません。

それでも記録は続き、日常は保たれます。


この物語は、

何かを伝えるための答えを用意していません。

もし読後に、

「分からなかった」「何も起きなかった」という感触が残ったなら、

それ自体が、この作品の最終的な形です。


ここまで付き合ってくださったことに、

深く感謝します。

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